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今年も残り3週間くらいになって、やり残すことも少なくなってきた12月。僕らの部活もラストスパートに向けて最終調整を行なっていた。絵梨ちゃんと僕は部活終わりに少し残ることが多くなった。帰り道は自然と駅まで一緒に帰ることになって、今日もそうだった。
「やっぱり成功だったね」
「なにが?」
「彼方くんの書いた本!私の思った通り!」
にっこりと笑う絵梨ちゃんの言葉に僕は嬉しくなる。
「嬉しい。ありがとう」
「最後まで頑張ってやりきらないとね」
そう言った彼女の顔は凛々しかった。この半年、凄く頑張ってここまできた。ラストまであと少し。
「そうだね。僕も頑張らなきゃ」
少しの沈黙の後、彼女の歩くスピードが落ちた。気になった僕は振り返って「絵梨ちゃん?」と声を掛けた。
「彼方くんってさ、好きな人とか、付き合ってる人とかいる…?」
僕の方を見ずに言う。
何となくずっと避けていたその言葉。
薄々、絵梨ちゃんが僕のことをどう思っているのか何となくは気が付いていた。気が付いていて、彼女からその話が出ないように、出そうになればかわしてきたその話。
僕は何と答えるべきか悩んだ。
正直に話す…?
それは一番いけない。
いるよと答えて誰かと聞かれたら困ってしまう。
なら何と答えるのがいいのだろう。
「……うん。いるよ」
悩んだ末、そう答えた。
「…やっぱりいるんだー」
明るく言ってはいたけれど、その笑顔はどこかぎこちなかった。
少しだけ胸が締め付けられたけど、絵梨ちゃんの気持ちには応えられない。
「ねぇ、どんな人?うちの学校?」
「優しくて、素敵な人だよ」
少し迷ってそう答えた。
なるべく核心に触れられないように。
再び歩き出す絵梨ちゃんの歩幅に合わせて僕も歩き出す。
「ふふ、優しいんだー」
柔らかく笑うその表情は少し寂しそうでもあった。
「うん。すごく優しい」
「その人って───」
絵梨ちゃんが言いかけた時、「彼方」と僕を呼ぶ声が聞こえた。
声のする方を向くと駅で清太が待っていた。清太は僕らの方へと歩いてくると「おつかれ」と声をかけた。
「清太!来てくれたの?」
「買い物行く約束してたろ?」
そう言って僕が肩に掛けていたカバンを持ってくれる。
「ありがと」
絵梨ちゃんは横に並んだ僕らを交互に見て目を丸くしたあと、小さく何かを呟いた。
「ねぇ、彼方くん」
「なに?」
僕が絵梨ちゃんの方を見るとすごく真剣な眼差しで僕を見ていた。
「私ね、彼方くんのこと好きだよ」
突然そう言われて僕の頭はフリーズした。
何を言ったらいいのかも思い浮かばない僕の隣から「は?」と清太の冷えた声が聞こえた。
絵梨ちゃんは「でもね」とにっこり笑って続けた。
「彼方くんに好きな人がいるってわかったから、それだけ伝えたくて」
その言葉を聞いて僕は「え…」と情けない声を出すしか出来なかった。
「彼方くんと付き合えたらいいなぁって思ったけど、無理みたいだね」
そう言ってぎこちない笑顔のまま、清太の方をちらりと見上げた。
「だけど、これからも今までみたいに仲良くしてくれたら嬉しいなって…。あ!もちろん、友達として!」
僕はその言葉に食い気味に「それはもちろん!」と答えた。
「ほんと?」
「うん!」
「よかったー!ありがとう」
そう言うと、僕らの前に立って「じゃあ、また学校で!」と手を振って帰っていった。
清太の方を見ると小さく息を吐いて頭をかいていた。
「びっくりした…」
「二人で何の話してたんだ?」
刺すような視線を向けられて咄嗟に目を逸らした。
「え…?なんのって…」
立ち止まったまま動かない清太から視線を感じる。ひゅうと強い風が僕を刺すみたいに吹いた。
「好きな人、いるかって聞かれたから…、いるよって…」
嘘はついていない…はず。
さっきいきなりあんなこと言われて記憶が曖昧にはなっているけど、確かそうだった気がする。
様子を伺うように清太の方を見ると「ふーん」とまだ訝しげな表情で見つめている。
「ほ、本当だよ?」
ゆっくりと歩き出した清太に合わせて僕も歩く。
僕から視線を逸らして前を見ている清太の横顔は、怒ってるような険しい顔をしている。
付き合ってる人がいるよって、清太と付き合ってるよって、本当のことを言うべきだったんだろうか。
だけどそんなこと言える訳がない。
それにあんな突然、告白されてそんな急に頭が回らない。
それが言い訳になるかはわからないけど…。
「ごめん」
僕が何を言おうか迷っていると清太が突然謝った。
「え?」
「別に彼方を疑ってる訳じゃない」
改札前のベンチにゆっくり座る清太に僕も倣う。
「そうじゃないんだ…」
項垂れる清太の横顔をじっと見て言葉の続きを待つ。
「今までもこんなことあったのか?」
「こんなこと?」
「その、誰かに告白されたり…」
顔を伏せたまま言う清太に僕は首を横に振る。
「一回もないよ!」
「本当に?」
「うん…」
「そっか…」
清太はこちらに顔を向けて手をそっと重ねた。
「ごめん。…ちょっと嫉妬した」
「え…?」
「いつも、あの子の話してたろ?だから、その、もしかしたら…って思って。……ごめん」
俯いて目を伏せながら口籠るように清太は言った。
それが信じられないような変な気持ちで…。でも、すごく嬉しい。
「怒ってないならいい」
「怒ってる訳じゃないんだ。彼方は悪くないのに、本当ごめんな」
僕は「ううん」と首を横に振って空いていた手を清太の重なった手に乗せた。
「嬉しいって、思ってるよ?」
僕が言うと不思議そうな顔をした。
「清太もそんなふうに思ってくれるんだって、嬉しくなった」
口元が緩むのを止められない。
そんな僕の頭を軽く叩くとそのまま手を引かれて立ち上がった。
「行くぞ」
そう言って手を繋いだまま改札を潜った。
清太の顔は見えなかったけど、きっと照れてるんだろうな。
「やっぱり成功だったね」
「なにが?」
「彼方くんの書いた本!私の思った通り!」
にっこりと笑う絵梨ちゃんの言葉に僕は嬉しくなる。
「嬉しい。ありがとう」
「最後まで頑張ってやりきらないとね」
そう言った彼女の顔は凛々しかった。この半年、凄く頑張ってここまできた。ラストまであと少し。
「そうだね。僕も頑張らなきゃ」
少しの沈黙の後、彼女の歩くスピードが落ちた。気になった僕は振り返って「絵梨ちゃん?」と声を掛けた。
「彼方くんってさ、好きな人とか、付き合ってる人とかいる…?」
僕の方を見ずに言う。
何となくずっと避けていたその言葉。
薄々、絵梨ちゃんが僕のことをどう思っているのか何となくは気が付いていた。気が付いていて、彼女からその話が出ないように、出そうになればかわしてきたその話。
僕は何と答えるべきか悩んだ。
正直に話す…?
それは一番いけない。
いるよと答えて誰かと聞かれたら困ってしまう。
なら何と答えるのがいいのだろう。
「……うん。いるよ」
悩んだ末、そう答えた。
「…やっぱりいるんだー」
明るく言ってはいたけれど、その笑顔はどこかぎこちなかった。
少しだけ胸が締め付けられたけど、絵梨ちゃんの気持ちには応えられない。
「ねぇ、どんな人?うちの学校?」
「優しくて、素敵な人だよ」
少し迷ってそう答えた。
なるべく核心に触れられないように。
再び歩き出す絵梨ちゃんの歩幅に合わせて僕も歩き出す。
「ふふ、優しいんだー」
柔らかく笑うその表情は少し寂しそうでもあった。
「うん。すごく優しい」
「その人って───」
絵梨ちゃんが言いかけた時、「彼方」と僕を呼ぶ声が聞こえた。
声のする方を向くと駅で清太が待っていた。清太は僕らの方へと歩いてくると「おつかれ」と声をかけた。
「清太!来てくれたの?」
「買い物行く約束してたろ?」
そう言って僕が肩に掛けていたカバンを持ってくれる。
「ありがと」
絵梨ちゃんは横に並んだ僕らを交互に見て目を丸くしたあと、小さく何かを呟いた。
「ねぇ、彼方くん」
「なに?」
僕が絵梨ちゃんの方を見るとすごく真剣な眼差しで僕を見ていた。
「私ね、彼方くんのこと好きだよ」
突然そう言われて僕の頭はフリーズした。
何を言ったらいいのかも思い浮かばない僕の隣から「は?」と清太の冷えた声が聞こえた。
絵梨ちゃんは「でもね」とにっこり笑って続けた。
「彼方くんに好きな人がいるってわかったから、それだけ伝えたくて」
その言葉を聞いて僕は「え…」と情けない声を出すしか出来なかった。
「彼方くんと付き合えたらいいなぁって思ったけど、無理みたいだね」
そう言ってぎこちない笑顔のまま、清太の方をちらりと見上げた。
「だけど、これからも今までみたいに仲良くしてくれたら嬉しいなって…。あ!もちろん、友達として!」
僕はその言葉に食い気味に「それはもちろん!」と答えた。
「ほんと?」
「うん!」
「よかったー!ありがとう」
そう言うと、僕らの前に立って「じゃあ、また学校で!」と手を振って帰っていった。
清太の方を見ると小さく息を吐いて頭をかいていた。
「びっくりした…」
「二人で何の話してたんだ?」
刺すような視線を向けられて咄嗟に目を逸らした。
「え…?なんのって…」
立ち止まったまま動かない清太から視線を感じる。ひゅうと強い風が僕を刺すみたいに吹いた。
「好きな人、いるかって聞かれたから…、いるよって…」
嘘はついていない…はず。
さっきいきなりあんなこと言われて記憶が曖昧にはなっているけど、確かそうだった気がする。
様子を伺うように清太の方を見ると「ふーん」とまだ訝しげな表情で見つめている。
「ほ、本当だよ?」
ゆっくりと歩き出した清太に合わせて僕も歩く。
僕から視線を逸らして前を見ている清太の横顔は、怒ってるような険しい顔をしている。
付き合ってる人がいるよって、清太と付き合ってるよって、本当のことを言うべきだったんだろうか。
だけどそんなこと言える訳がない。
それにあんな突然、告白されてそんな急に頭が回らない。
それが言い訳になるかはわからないけど…。
「ごめん」
僕が何を言おうか迷っていると清太が突然謝った。
「え?」
「別に彼方を疑ってる訳じゃない」
改札前のベンチにゆっくり座る清太に僕も倣う。
「そうじゃないんだ…」
項垂れる清太の横顔をじっと見て言葉の続きを待つ。
「今までもこんなことあったのか?」
「こんなこと?」
「その、誰かに告白されたり…」
顔を伏せたまま言う清太に僕は首を横に振る。
「一回もないよ!」
「本当に?」
「うん…」
「そっか…」
清太はこちらに顔を向けて手をそっと重ねた。
「ごめん。…ちょっと嫉妬した」
「え…?」
「いつも、あの子の話してたろ?だから、その、もしかしたら…って思って。……ごめん」
俯いて目を伏せながら口籠るように清太は言った。
それが信じられないような変な気持ちで…。でも、すごく嬉しい。
「怒ってないならいい」
「怒ってる訳じゃないんだ。彼方は悪くないのに、本当ごめんな」
僕は「ううん」と首を横に振って空いていた手を清太の重なった手に乗せた。
「嬉しいって、思ってるよ?」
僕が言うと不思議そうな顔をした。
「清太もそんなふうに思ってくれるんだって、嬉しくなった」
口元が緩むのを止められない。
そんな僕の頭を軽く叩くとそのまま手を引かれて立ち上がった。
「行くぞ」
そう言って手を繋いだまま改札を潜った。
清太の顔は見えなかったけど、きっと照れてるんだろうな。
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