ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

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寒さの原因は夜風か、俺か 4

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 風に薄雲が揺蕩たゆたって、ゆっくりと月に掛かる。

 完璧に月と雲が重なるその刹那、世界は闇に沈んだ。
 森の樹々に覆われた空間は、昏く、冷たく。凪いだ風に樹々の騒めきもなりを潜め、痛いほどの静寂が世界を包む。

 それもほんの一瞬で、
 再び緩やかな風が流れ、世界に音と光が戻る。


 昏い闇を裂いて雲の切れ間から姿を現した月は満月。

 煌々と輝く月は思わずはっとする程の光を投げ掛けて闇を従え輝いていた。


「美しいな」


 思いもかけず、そんな言葉が口をつく。
 魅入られるように月を仰ぎ、堪能すること数十秒。

 ずっと上を見上げていていい加減首が痛くなった俺は手すりに背を預けるように振り向いた。
 …ら、何か皆、超こっち見てんだけど何で?

 何で俺ガン見されてんの?

 俺、何かした?
 月見上げて一人で「美しいな」とか呟いてる男の存在が寒かったですか?

 あ、それか夜風で躰冷えた?
 早く中戻ろうよ的な??

 誰か正解教えて下さい。



 温かな飲み物を淹れるべくキッチンへと向かうリフを何とはなしに眼で追って、鮮やかな赤が眼に止まった。

「皆さんお腹はいっぱいですか?」

 時刻は九時過ぎ。

「余裕があるようならデザートでもいかがですか?」

 “デザート”魅惑のその言葉に反射的に女性陣の瞳が輝く。

 見慣れたその反応にクスリと笑みが漏れる。

 女性にとって夜遅くのカロリー摂取が罪悪感を伴うことは知っている。同時にその背徳感と“デザート”という誘惑が抗いがたい魅力を持つことも。

「今日は運動も沢山してますし、甘いモノ、食べたくないですか?」

 それは天使の言葉か、はたまた、悪魔の囁きか。

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