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それでもその月へと手を伸ばそう。 2
しおりを挟む「いやだって、私は兎も角ティハルトは天才だし。王として信じられないくらいの努力も積んでる。それは過去だけじゃない、今もだよ。君たちが日々成長してるように彼は今も成長を止めていない。相手も自分も進んでいるんだからその差が簡単に埋まらないのは仕方のないことだろう」
言われた言葉にハッとする。
「その差がもどかしく自分が成長していないように思えるかも知れないけど、そうじゃない。寧ろ簡単に追いつけると思っているならそれこそ失礼だよ。それに自分の成長は気づきにくいものだから」
立ち上がった兄上がダイアへ歩み寄りその頭をポンポンと撫でる。
「今日君はベアトリクスを簡単に抱き上げて見せただろう?あんなにも幼く小さかった君が一人の女性を支えられるまでになった。そのことに気づいている?それに不甲斐無い男に大切な妹を預ける程、私はお人よしではないよ?」
「他所の男に妹を託すのはそれこそ癪なんだから」
整った顔を僅かに顰めながらぼやいた後、ダイアへ向けられていた黄金の瞳が俺達へと向けられた。
「生徒たちを守った咄嗟の行動、混乱する生徒たちを纏め上げた指揮能力。パニックによる二次被害もなしにすんだのは君たちの功績だ」
俺を映した瞳が柔らかな色を帯びて綻ぶ。
「よく守った」
その一言に感じたのは、泣きだしたくなるほどの 誇らしさ。
信頼してくれたことに、信頼に応えられたことに、胸が震える。
「落ち込む必要なんてないのに。君たちに自分を卑下されたら世界中の人間が立場を失くしてしまうよ」
「まぁな、それも俺言った」
「大体、顔が良くて家柄も良くて能力も高いのに贅沢ですよね。いっそ妬まれて然るべき立場なのに、全方位に喧嘩売ってると思われても仕方ないと思います」
「お前が言うなって話だけどな」
「でも落ち込むぐらいが可愛げがありますよね。ティハルトとか完璧すぎて欠点がないことが欠点というか…。偶に嫌味に感じます」
「だからお前が言うなー。それお前もだから」
「まぁ、満足したらそこで成長は止まるから。彼を追い続ける限り、その先を目指すなら君はどこまでも成長出来るよ」
くしゃくしゃとダイアの頭を撫でる兄上は、一国の王子相手ではなく親友の弟として、弟分として笑いかけた。
「俺も、兄上に少しでも近づけるよう頑張ります」
どこか軽くなった心に思ったまま呟けば兄上がぱちりと瞬く。
「……正直、竜に挑むのはお勧めしないけど。でも仕事のことなら何でも教えるし、強くなりたいなら久々に手合わせしようか?」
「本当ですかっ?!」
「ああ、何ならハンゾー達やアインハードにも稽古をつけて貰うかい?」
兄上に手合わせをして貰うなんて久しぶりで声を弾ませれば、駆け寄って来たメラルドが自分もとぴょんぴょん跳ねながら手を上げる。
「アインハード…?」
「もしかしてジャウハラでも名が知られてますか?元冒険者の“竜殺し”です。私の剣の師なので」
「ちょっ、マジでっ?」
「あれ?ディーク副団長にも言ってなかったですっけ?」
「初耳だわっ!!え、会えんの?俺も手合わせして貰いたいっ!!」
何時の間にかメラルドだけでなく副団長やシリウスまで喰いついていた。
「正直、師匠のこと“竜に単体で挑むとか頭が可笑しい”って思ってた筈だったんですけどね…」
「いや、普通に可笑しいからな?」
感慨深げな呟きに即座に返される突っ込み。
「規格外だから比べちゃ駄目だっていうのはわかった気がする」
兄上たちの遣り取りを聞いていたダイアがポツリと呟き、俺達は激しく同意した。
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