ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

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そして彼は問う 1

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 親として、時に父親と母親との間には静かなる闘いが勃発する。

 静かな、そして譲れない闘い。

 そう、
 つまりは子供が最初に呼ぶのが「パパ」か「ママ」か。

 子供へ向かって刷り込みのように覚え込ませる親御さんも多いだろう。

 かくいう俺もガーネストやベアトリクスが幼い頃は一人の時こっそりと「にぃに、にぃに」と耳元で呟いていた。そして見事最初の栄誉を勝ち取った。

 余談だが、「パパ」「ママ」戦争は圧倒的にママ有利。
 接する時間がそもそも違うし、ご飯の意味の「まぁんまぁ」にも似通っているしな。
 それは兎も角、

 俺は無言で打ちひしがれていた。

 そしてそんな俺を気遣って、苦笑いを浮かべるリフ。

「仕方ないですよ、私の名前は発音しやすいですから。マオが一番好きなのはカイザー様ですよ」

 慰めてくれるリフの言葉が本心なのは知っているが、ショックを受ける今の俺には勝者の余裕にしか感じられない。


 マオが最初に呼んだ名、

「りぃ、ふぅー」

 それは紛れもなくリフの名だった。


 お気づきかとは思いますが、マオが喋れるようになりました。
 魔族の成長は早いとは聞いていたが実際に眼にするとびっくりする。

 朝、ベビーベッドを覗けば一歳ぐらいに成長してたマオたん。
 更に一晩経つと三歳児ぐらいになってた。

 ……子供の成長って早い。

「かじゃ、しゃまー」

 多分「カイザー様」って言ってくれてる。
 子供はさ行苦手だしな。

 そんなマオのお気に入りは俺のお膝。膝の上に座ってはご機嫌で足を揺らしてにこにこしてる。可愛い。
 心の声で『カイザー様好きー』って言ってくれてるのも滅茶苦茶可愛い。

「ベアトリクスよ、ベアトリクス。マオ、言ってみて」

「ガーネストだぞ。ガー・ネ・ス・ト」

「べちょちゅ?がちょ?」

 もはや原型がわからんが、かわゆいから良しとする!
 まぁ、この成長速度ならすぐに滑舌も良くなりそう。


 そして一週間経過。

「意外に発育が遅いな。甘やかし過ぎなのではないか?危機感が薄いから成長が遅いんだ」

 駄目だししつつ食事を掻っ込むのはジストだ。

 前回子育てアドバイスを貰う為に(ほぼ役立たずだったけど)ウチへ連れて来たらトーマスの作る食事に心奪われたっぽい。

 魔族の胃袋を掴むシェフ。
 我が家の使用人たちはハイレベル。

「やー!!」

 マオは初対面で頭を掴まれたことを覚えているのか、それともただ嫌いなのか。
 ジストが現れた途端お気に入りの俺の膝から飛び降りて距離をとったまま猫みたいにふーふー威嚇をしている。

「これからどうすればいいと思う?」

「知らん」

 もぐもぐしながら即答されてイラッとした。

「このペースで成長を続けると思うかい?個体差があるのは以前聞いたから、あくまで一般的な見解で構わないのだけれど」

「もう少しはするかも知れんな。だが、一度落ち着くのではないか?赤子の状態は危険なので一瞬だが、一般的にその後の成長速度は緩やかになる者が多い。あまり一度に成長するのも躰に負担がかかるし、必要とする魔力量や食事量にも影響するから一概に利点ばかりでないからな」

「つまり暫くは幼児状態?」

「人間で言えばそうだな。だが歩行が出来るならもう一人立ちだ。俺様が手頃な山にでもおいて来てやろうか?」

 さも親切気に鬼畜発言された……。

 魔族としては普通の感覚なのかも知れないけど。
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