【完結済】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?

キノア9g

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第1話:死に戻りと幼馴染の異変

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 ――シナリオは、完璧に理解していたはずだった。


 俺の名前は レオン・エルステッド。
 気づけば俺は、大好きだったRPGゲームの世界に転生していた。

 この世界は、かつて俺が何百時間もやり込んだ名作 《エルヴェリア戦記》 の舞台。
 俺が転生したのは、勇者パーティの魔法使いというポジションだった。

 強大な魔力を持ち、戦闘では最前線に立つ重要キャラ。
 ――だが、どう足掻いても途中で死亡する運命が決まっている。

 プレイヤーの感情を揺さぶるために用意された、物語の途中で退場するキャラクター。

 だが俺は、レオン・エルステッドというキャラが大好きだったし、何より――俺は、勇者に強く惹かれていた。
 プレイしていた頃から、彼のひたむきさに胸を打たれて、気づけば彼の背中ばかり追っていた。
 その想いが、キャラクターの枠を超えて、自分自身の感情として根付いていた。
 だから、自分が死ぬことよりも この世界で勇者と一緒に冒険できること に興奮した。

 ――死亡フラグ? そんなもん、やり込んだ俺なら回避できる。

 前世の知識を駆使し、レベルを上げ、最強の装備を整えた。
 シナリオの流れさえ、大幅に変えた。

 それなのに。

(……なんでだよ)

 あっけなく、俺は死んだ。

 どれだけ準備をしようが、何をしようが、見えざる強制力でも働いているかのように、俺は死へと引きずられた。
 それがこの世界の “運命” なのか? それとも……

 答えが出ないまま、俺の意識はゆっくりと闇に沈んでいった。



 ◇◇◇


 瞼の裏に、ぼんやりとした光が差し込む。

 ……あれ?

 確かに俺は死んだはずだ。
 だというのに、意識は消えず、むしろ リアルな布団の感触 を感じる。

 これは死後の世界か? それとも――

 重たい瞼を押し上げると、視界に飛び込んできたのは 見覚えのある天井 だった。

(……どこかで見たことが……いや、これ……)

 ――俺の部屋じゃないか?

 ぼんやりとした頭のまま、身を起こそうとする。

 その瞬間。

「レオン……!」

 誰かの声がした。

 驚いて顔を向けると、そこには幼馴染のアレン・ウィンザーがいた。
 ふわりとした栗色の髪に、感情の色を映すような青い瞳。
 俺が唯一気を許せる相手で、気づけば一緒にいるのが当たり前になっていた存在。
 “ただのモブ”だと思っていたのは、あくまでゲームをしていた頃の話で――いま目の前の彼は、どうしようもなく、リアルだった。

 俺のすぐそばに座り込み、顔を覗き込んでいる。
 涙を堪えるような顔で、俺をじっと見つめていた。

「……は?」

 何が起こっているのか、頭が追いつかない。

 なぜ俺は 生きている?
 なぜ アレンがいる?

 俺は 確かに死んだはず だ。

 混乱したまま、布団を押しのけて立ち上がる。

 窓の外に目を向けると、 懐かしい村の景色 が広がっていた。

(……俺が旅立つ前に住んでいた村?)

 さらに部屋の中を見回し、息を呑む。

 机の上には 魔法の鍛錬に使っていた古いノート。
 壁にかかるのは、数年前に仕立てたまま 今は小さくて着られないはずの服。

 どれもこれも、ずっと前のもの ばかりだった。

(おかしい……俺は、この部屋には一度も戻っていなかったはずだ……それに旅立つ前に解約して)

 その時、不意にアレンが俺の手を握った。

「急に倒れるからびっくりしたよ。よかった……本当によかった……!」

 小さく震える声。

 ふわりとした栗色の髪、大きな青い瞳。
 俺が唯一気を抜ける相手だった、ただのモブの村人。

 なのに――

 なぜ、こんなに 泣きそうな顔 をしているんだ?



 ◇◇◇


 部屋の様子やアレンの話から、少しずつ状況が飲み込めてきた。

(まさかとは思うんだが……)

 俺は 死ぬ1年前に戻っているのか?

 それならばこの状況の説明がつく。

 懐かしいこの部屋の様子も。
 アレンの態度も。
 そして―― 今日は、勇者が村に訪れる日だ ということも。

 なら、俺がやるべきことは決まっている。

「なあ、アレン。俺、勇者に会いに行くわ」

 俺は覚悟を決めて口にした。

 これはきっと、俺に与えられたチャンスなのだ。
 今度こそ、死の運命をぶっ壊すための。
 こんなシナリオに負けたままでいてたまるか。

 けれど、アレンの反応は 予想外 のものだった。

「ダメ」

「……え?」

「ダメだよ、レオン。行っちゃダメ」

 いつもの穏やかな口調とは違っていた。

 はっきりとした 拒絶 が、そこにはあった。

「なんで?」

「……なんでも、ないよ」

「なんでもなくねぇだろ」

 死に戻る前の1年前の流れでは、アレンは普通に俺と一緒に勇者を見に行った。
 むしろ、俺以上に近くで見られることにワクワクしていたくらいだった。

 なのに、今回はそんな様子一切なく、やけに必死で会いに行くことを止めてくる。

 こんな流れなかったはずなのに、どうして?

 その違和感を確かめようとした瞬間。

「お願い……レオン、行かないで……!」

 ――アレンが俺に抱きついてきた。

「……はぁ!?」

 突然の行動に動揺した。

 抱きしめられていた腕が、不自然に力を込めて俺を押し倒した。

「……アレン?」と戸惑う間に、彼は迷いのない手つきで縄を取り出し、あっという間に俺の手足を柱へ固定していく。

「おい、ちょっと待て、これ本気で……!」

 抵抗する間もなく、俺はまるで拷問器具にでも縛りつけられたかのような状態になっていた。

「おい!? アレン、これどういう――」

「ダメなの。レオンは、勇者になんて会っちゃダメ」

 アレンは俺を 離そうとしない。

 まるで、俺がどこかに消えてしまうことを恐れているかのように。



 結局この日、俺は勇者に会えなかった。
 
 だが、それ以上に気になることがある。

 それは―― 幼馴染の異変 だ。

(何かが、おかしい気がする)

 この違和感の正体を、俺はまだ知らない。

 だけど――

 これが俺の運命を大きく変えることになるなんて、
 この時は、まだ気づきもしなかった。
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