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不埓な悪戯にはめられて_8
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しばらく無言で橘先生の背中を見送っていた成瀬くんは、振り返ると走り寄ってきた。
「ごめん、ごめんね、センセ」
謝りながら私を強く抱き寄せた。
そのなじんでしまった腕の強さと温度にふいに気が抜けて、気づいたら両目から涙があふれていた。
「あ、あんなことしてたら、バレるって、ま、前に言った、じゃない」
しゃくりあげながら文句を言うと、成瀬くんは「ごめん」と何度も謝った。
素直に謝られて、よけいに不安と恐怖と安堵とでぐちゃぐちゃになった感情に火がついたみたいになった。
「だ、だいたいね、いつ、いつ私と成瀬くんが愛し、愛しあってるなんて。そんなの、全然、賭けしようとか、わけ分かんないことばかりで。ほんと意味分かんない。何が、う、うそで、何がほんとか」
泣きじゃくりながら言うせいで、うまく言葉にならないのがもどかしくて悔しくて、それまで押さえていたものをぶつけた。
私がひとしきり吐き出すまで、成瀬くんは黙っていた。
ようやく嗚咽ばかりになると、私の抵抗も文句もまるごと包み込むみたいに、成瀬くんが私をぎゅうっと抱きしめた。
「センセ」
柔らかくて甘い声に、荒れていた感情が一気に別の甘い緊張を孕んで、胸の奥が音をたてた。
「センセ、好きだよ」
息ができないほどに胸の奥がしめつけられた。
成瀬くんがどこか観念したように、どうしようもないくらいに昂る感情を抑え込むように、言った。
「好き」
「好き」
「ほんともう、センセのことマジ好き」
続けざまに「好き」を繰り返しささやかれ、声も出せないほどに鼓動が早まって、信じられないのと嬉しいのとで、よくわからなくなった。
成瀬くんが私を抱きしめる腕の強さはいっそう激しくて、顔が熱くて、全身が火照って、どうしようもない。
顔をあげると、私を見つめる成瀬くんの目とあった。
「成瀬くん」
成瀬くんが私の泣き濡れたほおを指でゆっくり拭うように撫でた。
その指の優しさに、さっきまでの恐怖を忘れてしまいそうになる。
早く帰った方がいいとか、橘先生は諦めたのかとか、そんなことよりも、成瀬くんが、あの高校生だった時に見せてくれていた切なげな眼差しがそこにあって。
「センセ、好き」
まっすぐ見つめられながら、また成瀬くんが口にした。
「……ほ、んとに?」
目が離せないまま聞くと、成瀬くんは頷いた。
「信じて」
ためらいもなく言い切ると、成瀬くんは身を寄せるようにして顔を近づけてきた。
そっと唇が重なった。
慰められているかのように優しい。
それからいったん離れて、今度は深く重なった。
「センセ、2人きりになれるとこ、行こう?」
交わす吐息の合間にささやかれた熱っぽい言葉に、断る、なんて選択肢はなかった。
「ごめん、ごめんね、センセ」
謝りながら私を強く抱き寄せた。
そのなじんでしまった腕の強さと温度にふいに気が抜けて、気づいたら両目から涙があふれていた。
「あ、あんなことしてたら、バレるって、ま、前に言った、じゃない」
しゃくりあげながら文句を言うと、成瀬くんは「ごめん」と何度も謝った。
素直に謝られて、よけいに不安と恐怖と安堵とでぐちゃぐちゃになった感情に火がついたみたいになった。
「だ、だいたいね、いつ、いつ私と成瀬くんが愛し、愛しあってるなんて。そんなの、全然、賭けしようとか、わけ分かんないことばかりで。ほんと意味分かんない。何が、う、うそで、何がほんとか」
泣きじゃくりながら言うせいで、うまく言葉にならないのがもどかしくて悔しくて、それまで押さえていたものをぶつけた。
私がひとしきり吐き出すまで、成瀬くんは黙っていた。
ようやく嗚咽ばかりになると、私の抵抗も文句もまるごと包み込むみたいに、成瀬くんが私をぎゅうっと抱きしめた。
「センセ」
柔らかくて甘い声に、荒れていた感情が一気に別の甘い緊張を孕んで、胸の奥が音をたてた。
「センセ、好きだよ」
息ができないほどに胸の奥がしめつけられた。
成瀬くんがどこか観念したように、どうしようもないくらいに昂る感情を抑え込むように、言った。
「好き」
「好き」
「ほんともう、センセのことマジ好き」
続けざまに「好き」を繰り返しささやかれ、声も出せないほどに鼓動が早まって、信じられないのと嬉しいのとで、よくわからなくなった。
成瀬くんが私を抱きしめる腕の強さはいっそう激しくて、顔が熱くて、全身が火照って、どうしようもない。
顔をあげると、私を見つめる成瀬くんの目とあった。
「成瀬くん」
成瀬くんが私の泣き濡れたほおを指でゆっくり拭うように撫でた。
その指の優しさに、さっきまでの恐怖を忘れてしまいそうになる。
早く帰った方がいいとか、橘先生は諦めたのかとか、そんなことよりも、成瀬くんが、あの高校生だった時に見せてくれていた切なげな眼差しがそこにあって。
「センセ、好き」
まっすぐ見つめられながら、また成瀬くんが口にした。
「……ほ、んとに?」
目が離せないまま聞くと、成瀬くんは頷いた。
「信じて」
ためらいもなく言い切ると、成瀬くんは身を寄せるようにして顔を近づけてきた。
そっと唇が重なった。
慰められているかのように優しい。
それからいったん離れて、今度は深く重なった。
「センセ、2人きりになれるとこ、行こう?」
交わす吐息の合間にささやかれた熱っぽい言葉に、断る、なんて選択肢はなかった。
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