ローズゼラニウムの箱庭で

riiko

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第一章 生い立ち〜出会い

9、桐生良太 8

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 俺と絢香はジジイが懇意にしている岩峰総合病院の副院長である、岩峰勇吾いわみねゆうごさんという人の家に案内された。

 勇吾さんは、三十歳ベータで二歳の息子がいる。

 奥さんには出産と同時に先立たれた。大きな屋敷には使用人もたくさんいるし、温室や庭も広くて自然あふれる素敵な家だった。ちなみに亡くなった奥さんも息子さんもオメガだ。オメガが家の中でも楽しく暮らせる工夫がしてあり、オメガに理解が深い。

 病院ではオメガ科を任されていて、オメガ研究の権威でもあり、ジジイの薬の開発や治験に協力している、要はビジネスパートナーであった。

 俺と絢香は、部屋をそれぞれ用意された。

 勇吾さんはとても人当たりがよくて、さらにかっこよかった。アルファの刺すような男前とは違うけど俺も絢香も安心して接することができるくらい柔らかい人だった。

 そして、そして! 息子のみさき君がとっても可愛くていい子なのだ。こんなに可愛いと心配になるだろうなってくらい可愛くて、勇吾さんもめろめろの溺愛だった。

 岬は、俺と絢香にすぐに懐いてくれて、勇吾さんが微笑ましく見ていたが少し寂しそうだったのが笑えた。

 数日して落ち着くと、俺たちは勇吾さんの診察を受けて治験を開始した。安全面からしばらくは屋敷を出ないように言われている。勇吾さんの家は医療施設も整っていた。

 そして絢香は妊娠しているのが発覚した。

 間違いなくあのアルファの子供だろう、オークションでは売却前に間違いが起きないよう、万全の体制での客の相手をしていたから。絢香はたとえ憎い男の子供でも宿った命は産みたいと言う、俺はまたしても天使だと思った。
 
 そして勇吾さんもそれに賛成した。つがいと離れたオメガは不安になってしまう恐れがあるけれども、妊娠中は子供を守るよう強くもなるし発情期も来ない。だから今の絢香にはいいことなのかもしれないねと。

 しばらく治験の協力が難しくなると悩んだ絢香は、一人で決断はできないとジジイに伺いを立てたがジジイはことのほか喜んで祝福してくれたそうだ。

『出産にかかる不安ももちろん、生活全て保証するからなにも心配いらない』と絢香は電話をもらって、泣いていた。

 なんとなく、幸せがまたやってくるのかなって思える生活が始まった。

 そしてジジイとの関係は秘密なので、世間的には俺の母親の知り合いだったという勇吾さんが、俺の後見人になった。

 実は勇吾さんと母さんは、幼い頃から家同士の繋がりもあり、幼馴染であったと聞いた時は驚いたが。

 そしてジジイの通えという学園は、幼稚舎からある超エリート校で、そこへ高校から編入するのは相当ハードルが高いらしい。さらにジジイから提示された条件、それは学年首席だった。

 通常バカ高い学費がかかるので、金の出所を疑われてはせっかくの身分もバレてしまう。だからただのベータとして過ごすカモフラージュで、奨学制度を利用して入学しろとの命令だ、その奨学制度は学年首席レベルではないと取れないのだ。そして首席ならベータでも、例の財閥の跡取りに近づけるチャンスもあるだろうと。

 学園は全寮制、本来なら寮から出るのは許されないが、週末は家庭教師のバイトという特別な理由を学園に許可してもらえば、岩峰家で週末を過ごせるし絢香に会えて治験も続行できる。そして逐一、学園でのことを報告しろと。

 そのために苦学生を演出する、特別枠の奨学制度は必須だった。

 もともと勉強が好きだった俺は、家庭教師もつけてもらい一年間みっちりしごかれてはいたが、勇吾さんの家で岬と絢香と毎日幸せな日々を過ごさせてもらえた。

 そうこうしているうちに、絢香も無事に女の子を出産した。

 俺の学歴は小学五年生で終わっていたが、そこは金の力でなんとかしてもらい、受験も終わり無事に学年首席の地位を獲得して、奨学生として学園に入学を果たした。

 ここから俺の新たに作られた人生がスタートする。入学までの充実した穏やかな時間をこの岩峰家で過ごしていた。

 ただ、穏やかな時間は決して続かないのも知っている。あとどれくらいこんな時間を過ごせるのかな、俺はこれからの生活が変わる瞬間が怖かった。
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