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第二章 運命
28、6月の憂鬱 9
しおりを挟む起きた時なんとなく気だるくて風邪かな? そう思ったけど、授業受けていたら気にならなくなっていた。
最近、学園にいると体がだるいことが多くなっている、なんだろ? 入学してもうすぐ三ヶ月になるし、慣れない環境で疲れが出てきたのかな?
今日は勉強も仕事もする気にならなくて、放課後に中庭でぼぅっとしていたら、ちょうど通りかかった生徒会役員の先輩に、生徒会のお手伝いをして欲しいって言われた。
生徒会室に行くのは、先輩の手伝いを頼まれることがたまにあるから少し慣れている。
今日は資料作成の補佐。生徒会長のデスクでパソコン借りて簡単な資料作りをしていると、会議が終わったみたいでみんなが楽しそうにしている声が聞こえてきた。するとノックとともに部屋に生徒会の一人が入ってきた。
「桐生君、お疲れ様。お手伝いありがとうね、番の発情期で一人抜けているから、ほんと助かるよ! いつも急に手伝わせてごめんね、会議終わったからお茶だよ。ケーキもあるから桐生君も一緒に休憩しよう! 今日はザッハトルテだよ、チョコは好きだよね?」
彼はアルファだけどいつも俺に気を使ってくれる、先輩の幼なじみの白崎忍先輩だった。
「はい、ありがとうございます! ケーキまで嬉しいです。チョコ大好きです!」
あらかた片付いた資料を整えて、席を立ちついていった。白崎先輩は俺を何かと気にかけてくれる。
生徒会室という緊張する場でもいつも和ませてくれるし、学園内でもなぜか良く会うのでそのたびに話しかけてくれて、世間話しをするようになった。見知った顔を見て安心してしまった。
「桐生君、おつかれ! こっちおいでよ、おっきいケーキとっておいたよ」
以前、俺と先輩が同室になることを俺が断ると、なぜか泣きながら説得に当たったオメガで書記の先輩。その人に呼ばれたので隣に座った。あれ以来、懐かれている。
「椿、良太にあまり構うな。減るだろ」
「減るってなんですか!? あんまり独占欲だすと嫌われちゃいますよ、僕だって可愛い桐生君とお話したいんですよ! ねっ! 桐生君、生徒会長にベタベタされてウザイこともあるでしょ? たまには他の人と話して息抜きも必要だよね」
先輩がなにやら部屋にいる時のようなノリで俺に構うから困った。ここも部屋同様、リラックスできる場所なのかな?
ベタベタって、ばれているし? そして椿先輩みたいな超絶可愛い人から可愛いなんて言われて、どうとっていいのかわからない。
「別に君達の前でそんなことしてないだろう? 良太が困っているからやめろ。それと、俺のだ。可愛いって言うな、やっぱり減る」
いや、俺あんたの言葉に困っちゃうよ? なんなの? なんの羞恥プレイだよ。
「椿先輩、ありがとうございます。椿先輩みたいな可愛い人にそんなこと言わせてしまってすいません。僕がこの場に馴染むように和ませてくれてありがとうございます。ケーキ頂きますね! うわっ、おいしい……」
うん。椿先輩にはありがたくお礼を言って、先輩の言葉には安定のスキルであるスルーを発揮した。
「桐生君、すっかり彼の扱いに慣れているね、安心したよ。君とても素直だから無理やり懐柔されているんじゃないかって、生徒会の中では心配した声もあったんだよ。一ヶ月も一緒に居られるんだもんね、良かった、上條君が優しくなったのは桐生君のお陰だね」
「先輩はとても親切で良くしてくれています。僕のこと気にかけていただきありがとうございます! あっ、椿先輩クリームが付いています……」
口元を手で拭って、クリームをすくいあげてから、持っていたウエットティッシュを椿先輩の口元に当てた。
あれ? そしたら椿先輩が固まっている。目の前のオメガが可愛くて、幼い岬と重なってしまい、つい子供をあやすようにしてしまった! 年上に失礼だったかな。
「はっ、桐生きゅん! そんなことしてくれて嬉しいけど……向こうで怖い般若が僕を睨んでいるからっ」
えっ、般若? えっ先輩が怒っている。あっ! まずい? この可愛いオメガはもしや先輩の好きな人だった? ベータごときがオメガの口元に触るとかアルファ怒った?
「あっ、すいません! 僕、出過ぎたまねを! 椿先輩に、しかもオメガの方の唇に触るとか大変失礼なことしました。気持ち悪かったですよね? ほんとにごめんなさい! あのっ、先輩、勝手に先輩の大事な方に触ってしまってすいませんでした」
とにかく怖い顔している先輩にも謝ったほうがいいと思って、椿先輩同様に謝罪した。するとますますムッとしている先輩が「はっ?」って言った! そこで白崎先輩が入ってきた。
「あ――、もう桜そんな怖い顔するなよ! 違うから、桐生君。怒っているのはそこじゃなくて、大事にしている君が椿に構うのが許せなかっただけだよ、椿は同じ生徒会役員ってだけだからね? 変な誤解もしちゃダメだよ?」
えっ、わかりづらい!
ほんとわかんないよ、怒るポイント。最近先輩が意味不明なのは多いけど、なんだろ? 俺のことペット扱いが過ぎるよ。
「あの、僕、皆さんと感覚が違うみたいで、僕の理解力が乏しくてごめんなさい。和やかな空気を乱してすいませんでした」
俺は上流階級の会話や感覚がわからないから、しゅんとしてしまった。そうだった! 上流階級の勉強もしろとジジイに言われていたから、毎回頑張ってこの部屋に来ていたのに、無駄な努力だった。
早く帰りたい……あっ、でもケーキは美味しいからもっと食べたい、でも先輩と同じ部屋行くのも嫌だから、図書館にでも籠りたい。
「違うよ良太、俺の心が狭いだけだ。ごめんねっ良太が椿にばかり構うから椿が羨ましくて、俺の口元だってふいてくれたことないのに、椿にそんなことするからっ、そんなにしゅんってしないで? 可愛いだけだからね?」
はっ? なんでお前の口ふくとか? そんなことするか!
みんなが変な誤解……は、しないとは思うけれど、するかもしれないからやめろ! また可愛いって、ペット扱いもやめろ、パワハラだ。という意味を密かに込めて困った顔をすると、椿先輩が声をかけてくれた。
「桐生君、僕に触ってくれるのは気持ち悪くないからね? でもアルファはそんな些細なことさえ、独占欲が発動して許してくれないよ。言葉を本気で受け取らないのが自分を守るコツだからね! 上條君もあまり桐生君を困らせることを言っていると、本当に飽きられちゃいますからね」
先輩の機嫌も直ったみたいで、普通に話している。良かった。
「良太はそんなに心が狭くない。ごめん良太、ケーキ食べたかったら俺のもあるからね? 椿は無視してゆっくり食べてね」
「上條君、桐生君以外への扱いが酷過ぎる! やっぱり恋人ができるとみんなには優しくできないからしょうがないかぁ」
先輩恋人いたのか? 今の流れから椿先輩では無いみたいだけど。
「ん? 先輩ってお付き合いしている人いたんですか? あっもしかしてこの学園の人? だったら僕こんなにそばにいたらまずいですよね? それとも外部の人ですか?」
ケーキを美味しく頬張っていて会話を続けていた。新情報か!? これは聞き出しておいて損はないな、それにしても婚約者がいたはずなのに、くそアルファめ! 楽しんでやがる。
「えっ!?」
椿先輩が目一杯驚いてきたので、俺もその溢れそうな大きな目に驚いた。
「ああ、桐生君は恥ずかしがり屋さんだったね。上條君と付き合っているの、みんな知っているから誤魔化さなくてもいいのに! もぅ、上條君も! 他の人にも手を出しているって誤解されていますよ、きちんと桐生君だけだよって言わないんですか?」
「えっ? つきあっ……」
俺が戸惑っていると、先輩が笑顔で遮ってきた。
「想像にお任せするよ?」
「?」
えっ? もしかして、先輩のこの甘い態度はそういう風にとられていた? ペット扱いだなんて普通の人間は思わないか。これはまずい、非常にまずい、ベータのくせにアルファに手を出しているとか思われた?
もしそうだとしても生徒会は先輩の仲間だから、あったかい目で見てくれるかもだけど、一般生徒は違うよね? 俺いじめにあう? 誤解とかなくちゃ、まだこの部屋だけの話なら間に合う!?
「椿先輩! そんな関係じゃないです。誤解しないでください。先輩は、確かにスキンシップが多いですが、僕は勘違いなんかしていません! それに僕にはもう大切な人がいるので、絶対にそんなことないですから!」
「えっ?」
「僕、彼女がいます。それより僕と噂になるなんて先輩に失礼ですよ、変な誤解しないでください」
またこのパターン、俺に付き合っている人がいる設定は無理があるかな? やっぱ男らしくみられてないのかなぁ、切ない。
あれ?
なぜだか部屋の空気が変わった、みんながまずいって顔している。先輩もはっとした顔してこっち見た。
「桐生君っ!? 君、何言っているの!? あっ、みんなの前で恥ずかしかっただけだよね? 嘘でもそんなこと言っちゃいけないよ、今すぐ誤解といて! お願い」
椿先輩は、泣きそうに訴えてきた。
「えっ? 誤解? 僕なんか変なこと言いました? なんでそんな顔しているんですか……」
あれ? なんかこの場にいたらいけない気がしてきたし、なぜか怖い。怖くてたまらない。何がいけなった? みんなも焦っている感じがある。明らかに先輩の空気感が変わった。
「悪いが今日は解散だ。みんな出てってくれ」
その場にいた生徒会役員たちは残っているケーキも気にせず、そのまま何も言わずすぐに部屋を出ていった。俺も慌てて動こうとするが、体がすくんでいる。それでも必死にみんなに付いて行こうとしたが、それはすぐにできなくなった。
「良太は残れ」
最後通告のような冷たくて感情のない声が聞こえた。俺はなぜか怖くて固まって動けなかった。
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