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第六章 本心
138、冬の休暇 4
しおりを挟むイブにホテルに来て、そのまま抱かれた。
二度目に目覚めた時には、先輩は隣にいなかった。窓を見ると外がだいぶ明るいのがわかる。よく寝たな、そして背伸びをしてみると体の違和感も気怠くはあるが、動けないほどではない。
「あっ」
寝返りを打ったら、自分の左手の薬指に光り輝くものがはまっている。
……指輪。
いつの間にこれを付けたのだろう? 一瞬歓喜で体が震えそうになったが、すぐにそれは冷めた。
俺なんかにこの輝きはふさわしくない。これはダメだと涙が出てきた、俺にはとても重すぎるそれはまるで鎖のようにのしかかる。嬉しいのに、でも素直に喜べない。このひとときは、先輩を好きでいられるこの時だけは何も考えずに彼を愛せばいい、愛されればいい。そう思っていたのに、でも心は罪悪感でいっぱいになる。
割り切ればいいって決めたのに、なのに、俺の周りには優しい人でいっぱいだから、決心なんてすぐに鈍る。先輩をだまして永遠の愛を得ようとしている。そして勇吾さんを騙して先輩を心に思っている。今だけ、今だけって……。
それを割り切るには、俺には器が足りない。大切なものができると人は弱くなる、その言葉が何度も自分にのしかかる。
絢香に出会った日から、俺は大切なものでいっぱいの人生になった。それまでは人を騙すことなどなんとも思わなかったのに、今の自分は、とても弱い人間だと思い知らされる。
先輩の愛情が俺を苦しめる、弱くさせる。それでも今はこの時間を手放す勇気はない。
墜ちるところまで墜ちる、それが俺には合っている。これ以上ないくらい愛してもらって、これ以上ないくらい裏切る、そうして俺を刻み込ませていく、そういう愛情を与えることをこれから迷ってはいけない。
左指に輝くこの指輪は、俺を戒める鎖だ。
そんな考えを巡らせていたら、俺の愛しい番が部屋にきた。俺は満面の笑みでそれを迎える。
話していると先輩の指にも同じ指輪がはまっているのが見えた。それを見た途端、俺の熱情が上がった。たまらなく愛おしい、今はただこの男に包まれていたい。俺から彼を誘うような香りを出した。それに答えてくれたのがまた嬉しくて歓喜した。明け方まで盛っていたにも関わらず、起きてからもセックスは続いた。
この部屋に連れてこられて意識があるのはこのベッドの上だけだった。俺にどんなに金をかけてくれても、結局はやるコトをやるだけだ。だからこんな立派な部屋など必要ないのに、俺を大切に思ってくれるそんな行動も、また俺を苦しめる。
愛されたくなかった。愛などなく、ただ俺を人形のように扱って、陵辱して、苦しめてくれれば罪悪感なく裏切れるのに。
どうしてこの男は、俺を宝物のように大切に扱ってくれるのだろう。
「酷くして、お願い、もっと僕を、思いっきり酷く扱って? 狂っちゃうくらい、何も考えられないくらい、僕を求めてっ」
情事の熱のせいにして俺は本音をぶつけた。先輩は俺の狂った発言にも喜びを感じたみたいだった。きっと情事中の戯言だと受け取っただろう、さらに熱く楔をうちつけてきた。俺は涙を流しながらもそれを受けとめて、高みに達した。
聞けばこの豪華な部屋を、イブとクリスマスの二日間も抑えていたらしい。
ルームサービスで遅めの朝食を済ませて、一緒に風呂に入り、そしてまたセックスをする。そんな風に部屋で過ごして、映画を見たりと、まったりとしていた。
俺は途中、何度も先輩の手を握って、左手にはまっている指輪をずっと撫でていた。先輩からはそんなに気に入った? そう聞かれては、喜ばれた。
終始笑顔で過ごし、愛を囁いていた。その繰り返しをしながら、クリスマスの夜は部屋で夜景を見て、ディナーを運んでもらって二人きりで過ごした。
時折、自分の左手にハマる指輪を触れて。
まだ大丈夫だ。
まだ……まだ俺はできる。そう信じて番にキスをしてそのまま体を委ねた。
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