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第七章 決断
148、番のいない発情期 2
しおりを挟む季節外れのインフルエンザにかかった。
勇吾さんの出した答えがこれだった。タイミングよく週末勇吾さんと過ごしている時に熱を出して、熱が下がらず検査をしたらインフルエンザだった、そういう話にした。
インフルエンザの最中に発情期も重なり、先輩の元に戻る時には発情が終えていていた、そんなシナリオ。
すんなりいくのかは不安だったが、先輩は俺に連絡してもスマホさえ見ないと思い、鬱陶しいと思われながらも勇吾さんに毎日連絡していた。そこで勇吾さんは発情期がきたことも隠さず話した。
今回は俺と先輩の信頼関係もある程度あったおかげと、勇吾さんには恋人がいるのも知ったからか、先輩は全てを勇吾さんに任せていた。俺のスマホにはメッセージが一件入っていたが、それは発情期が明けてから開いた。
少しでも番に繋がる何かがあったら、発情期をうまくやりきれない、そんな気がして先輩についてはいっさい口にもしなかった。
「僕はすっかり信用されたのか、それとも文句を言っても良太君は帰ってこないと思って何も言わなかったのかはわからないけど、上條君はおとなしかったね」
発情期が終わって、ゆっくりしていたら勇吾さんがそんな話をしてきた。
「案外、もうどうでも良くなったのかもよ? 手に入れたからそれほど執着しなくなったのかも」
「う――ん、それだとありがたいけど、そんなうまくいってるかなぁ? 自信がついたのは確かだとは思うけど、君への執着に関しては甘く見ない方がいいと思うよ?」
「ふふ、勇吾さんは心配性だな。それより今回もありがとう。勇吾さんのお陰で楽に過ごせた! 発情に負けて意識が無くなるのって、本当はいつも怖かったんだ。こんなに思考があったのは初めて」
そう、勇吾さんが俺に合う薬を試したいと言っていたそれがすごく合っていたのだ。薬を飲めば、頭がバカにならずすんなり過ごせた。途中、むらむらして精を吐き出しはしたけど、後ろがどうしても疼いてしょうがないとか、アルファの精液が欲しいとかは思わなかった。でも、医療用の男性器は、数回勇吾さんに挿れてもらったけど……それは恥ずかしかった。
意識があるから性に関してはとても恥ずかしかった、でもクリアな思考ができたのは嬉しい。
「これは良太君にしか使えないものなんだ」
ん、どう言うことだ? 俺がわからないと言う顔をしたらクスクス笑っていた。
「上條君から、今回も血液をいただいたんだ。次の研究のためにストックしときたかったから。で、前にもらったものから作り出した薬。これはこれでいい開発ができたよ」
勇吾さんご機嫌だ。
どうやら、俺で人体実験をしたらしい。それはもう了承済みだからいいのだけど。結構重要な実験だったらしく、岩峰医院では番の血液からつくった抑制剤の開発をしていたので、その薬作りにも大変役に立ったみたいだ。
番がどうしても発情期に立ち会えない場合、番と過ごした時と同じくらいに楽に過ごせるというものを作り上げたのだった。
むしろ番といるよりも楽。
そんなに効く薬があるなら、番のアルファは一緒に過ごさなくても安心していられる。あくまでも緊急用としての服用にする法律も整えてからのお披露目にはなるみたい。だって、それによって番のオメガを雑に扱われても世間は困るだろう。
あの薬があれば、あんなに発情に苦しむことない。当たり前に手に入るようになってしまったら、それはそれでアルファの楽しみも減ってしまう。なるほどね。でも凄いもの開発するな。勇吾さん、なにかとんでもない賞でも狙っているのか?
「それは良かったね! 薬開発のためでも、まだ番でいる理由があるなら俺も気持ちが楽だよ。卒業までは俺でどんどん実験して、勇吾さんの研究に役立ててね」
「そんなつもりで良太君を見ているわけじゃないんだよ? 安全だとわかったから君に使ったんだ。不必要な苦痛を君には絶対に負わせないから、それだけは信じて」
「もちろんわかってるよ。勇吾さんだけは、誰よりも信頼してる」
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