娼館で死んだΩ、竜帝に溺愛される未来に書き換えます

めがねあざらし

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81、開かれた記憶の扉

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ペンダントの冷たい金属が、肌に触れた。
その瞬間——世界が反転するような めまい に襲われた。

「っ……!」

エリオットは思わず胸元を押さえる。
しかし、指先は 確かな感触 を捉えていた。
そこにあるのは、ほんのわずかに温もりを残した銀のペンダント。

(これは……ああ、これは……)

目を閉じた瞬間、意識が深い海へと引きずり込まれる。
まるで 時の流れが巻き戻るかのように——


——息が苦しい。
喉が焼けるように乾いている。

壊れた体。
衰弱した四肢。
冷たくなっていく指先。

(……ああ、僕は……死ぬんだな……)

そんな 諦念すら滲んでいたはずなのに——
その人が僕を抱き上げた瞬間、すべてが変わった。

「……っ、どうして……!」

熱が震えている。
腕の力が、壊れるほどに強まる。

(知っている……この腕を……この温もりを……)

霞んだ意識の中で、誰かが 僕の頬を撫でていた。
低く、苦しげな声が耳元で響く。

「……遅かったか……!」

黄金の瞳が揺れていた。
泣きそうな、でも決して泣かないように、必死にこらえているような表情で——

(どうして……あなたが……)

名前を呼ぼうとして、声が出なかった。
もはや、声を発する力すら残っていないのだと、本能的に悟る。
彼の温もりが、痛いほどに伝わってくる。
けれど、 もう何もできない。

「君を……こんなところに、置いておけるわけがないだろう」

——懐かしい匂いがした。

ふわりと、銀の鎖が肌に触れる。
首元にかけられたペンダント。
それは、彼が震える手で 最後にしてくれたことだった。

(……ありがとう……)

かすれた声でそう伝えた瞬間、
世界が 静かに、光に溶けていった——


「っ……!!」

意識が 現実に引き戻される。
エリオットは はっと目を見開いた。

「エリオット?」

シグルドが、すぐ目の前にいる。
自分を覗き込む 黄金の瞳 。
その瞳を見た瞬間、 理解した。

「……あなたが……」

(ずっと、僕が探していた人……)

胸が締め付けられる。
記憶の断片が、 ひとつの形に繋がっていく。

「あなたが、あの人……最期の……」

震える声で、エリオットは言葉を紡ぐ。
シグルドは、何も言わずに エリオットをじっと見つめていた。

「……思い出したのか?」
「……っ、思い出した……ええ、多分……そう、なのに……」

ペンダントの重みが、今ようやく理解できた。
これは、僕が 死ぬ間際 に、シグルドがかけてくれたものだった。

「どうして……どうして今まで、気づかなかったんでしょうね……」

それは 呆れるほど明白な答えだったのに 。
けれど、シグルドは静かに微笑んで、そっと エリオットの頬に手を添える。

「気づかなくて当然だ」
「え……?」
「理を変えたのは私だ。そして時間は巻き戻った。だが、君の記憶は制約に縛られた…… そういうものだ」

シグルドの声は 優しく、けれどどこか苦しげでもあった 。

「……君が私を思い出せなかったのは、そういう仕組みだったからだ」
「仕組み……?」

エリオットは、混乱しながらも 彼の手の温もりを感じていた。

「……私は、ずっと君を探していた。ある程度のことは私の方に記憶として残っていたからな。今度は、失敗しないように事を進めた」

シグルドは静かに、けれど 強い確信をもって そう言った。

「もう二度と、君を失いたくはなかったから——」

彼の言葉が、胸の奥深くに 響いた 。
エリオットは、強く シグルドの手を握り返す。

「……僕も……探していました、あなたを」

震える声で、それだけを絞り出した。

もう彼を拒む理由なんてエリオットにはない 。
あの人がシグルドと分かった以上。
そして記憶を取り戻した今、もう逃げるつもりもない 。

「……いつも、あなたは僕を驚かすばかりですね……」

冗談めかして、けれど 涙が滲む声で そう言った。
シグルドは 微笑んで ——

「そうだな……すまない」

ただ、その額に そっと口づけた。
エリオットは そっと目を閉じる 。
額に残る 温かい感触 。
それは かつての別れの時と違い、もう失われることのない温もりだった。

(……やっと、辿り着いたんだ)

心が ふっと軽くなる のを感じる。
そのまま、シグルドは そっとエリオットの手を握ったまま 囁く。

「……一つずつ、説明しようか」

静かな声が部屋に響く。
エリオットは、 強く頷いた。

「お願いします……」
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