弟の俺が姉の身代わりで新妻になった件

めがねあざらし

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第五話 side:U 俺と眠れない夜と

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結局、下着は嗣にぃがコンビニで調達してきてくれた。
酔っていたところを申し訳なく思うものの、助かった・・・。
潔癖というわけではないけれど、それなりに気になるわけで。
逆にあさは結構ズボラだった。そう考えると俺たち双子は足して2で割るとちょうどいいのかもしれない。
バスルームから出ると、ソファにゆったりと座る嗣にぃが目に飛び込んでくる。スマホで何かしら作業をしているらしい。何の変哲もない姿なのだが、あれで様になるからイケメンって本当に凄い。
俺の父親も我が父ながら背も高いしーー何故受け継がなかったのか俺・・・ーーそれなりにイケメンの部類に入るとは思うのだが、嗣にぃを横にすると霞んで見える。
いや、この人なんで一般人やってるんだろうか。

「ゆうくん?」

嗣にぃをじっと見ていたところに、声をかけられてハッとする。
あっぶな・・・そもそも顔が好きすぎるのかーーいや顔だけじゃないけどもーーとにかく片想い期間が長すぎて拗らせているのか、うっかりするとこの顔に見惚れてしまうのを、俺はまずどうにかした方がいい。これから一年が既に思いやられる・・・。

「下着、ありがとう。えーと、嗣にぃも・・・どうぞ?」
「そうだね。僕も浴びようかな。ああ・・・明日からの服もどうにかしないとだね。飛行機に乗る前に買いに行こうか」
「えぇ。俺、取ってくるよ。そんな手持ちないし」

嗣にぃの提案に、俺は首を横に振る。
並の高校生をしていたので、そんなに手持ちがあるわけでもない。
うちは至って普通の家で、小遣いも一般的な一般ピープル。
それでも苦労をさせられたことはなく、都内に一軒家を購入している父はそれなりの給与なんだろう。詳しくは知らないが。
ただ、お隣の桐月さんの家は全く違うわけで。
桐月の家はどうも古くから続く由緒正しい家らしく、うちとは何もかもが違う。
まずわかりやすく家の規模が違う。俺やあさは気軽にお邪魔していたが、よく都内であれだけの広さを持てるものだ。家の中もまあ広いわ広いわお手伝いさんは数人いるわ、わかりやすく『THEお金持ち』という感じなのだ。
なので麗華さんにしろ嗣にぃにしろ、ちょっと金銭感覚が飛んでいるところをちょくちょく見る。ただこれ、うちだと気にしているのは俺と父さんくらいなもので・・・母さんとあさは楽しんでいたのだが。
あ、そういえば下着のお金渡さないとなぁ。家に帰って荷物用意して・・・何時に出ればいいっけ?旅行に行くならお金もおろしたい・・・。そう言えば、俺もスマホのチェックをした方が良いな。昨日から放置しっぱなしだ。
色々と考えていると、嗣にぃは既に目の前に居た。

「ゆうくんはもう僕のお嫁さんなんだし、財布係は僕なんだから、気にしなくていいんだよ?それに僕が選んだものを着て欲しいなぁ」

なんて言いながら、俺を抱きしめてくるものだから、そのまま俺は固まってしまった。
スキンシップ過多じゃないか?このイケメン。

「ゆうくん?」
「・・・っ・・・」

顔を覗き込まれる。
近い近い近い!なんなんだよ、もう!まだ酔っ払っているのだろうか。それともあさと・・・はないよなぁ!ゆうくん、って呼んでるし。見惚れる俺もだが、この距離の近さもどうにかして欲しい。昔からこんなんだっけ?!
じんわりと頬が耳が熱くなってくる。絶対、俺、赤くなってるじゃん・・・!
どうしたの?と更に嗣にぃの顔が近づく。息が触れ合う近さだ。

「・・・っ!もう!近いってばっ・・・!」

距離の近さに堪らず声を上げれば、嗣にぃがくすくすと笑い出した。
あ、また揶揄われてるじゃん!!くそっ!!
両手で嗣にぃの胸を押し返す。が、逆に力を入れて抱きしめられてしまった。
ちなみに身長がコンプレックスな俺は165ちょいしか背丈がない。
目の前の男は185以上はある。体格差が!体格差が憎い・・・!!

「ゆうくん、かわいいねぇ。とにかく旅行中は僕が選んだ服を着てよ。ね?」
「わかった!わかったから!シャワー!!いっていいよ!・・・っあっ!」

俺が言い終わる前に、額に口付けられる。
ちょっとさーーーー!!これは抗議せねば!!
俺は顔を赤くしながらも、見上げて睨んだ。

「嗣にぃさぁ!近い!なんでそう、近いのかな?!普通男が男にキスとかしないからな?!それとも普通に嗣にぃ、すんの?!」
「そりゃしないよ?やだなぁ。でもゆうくんだし、お嫁さんだし・・・いいんじゃないかな」

は?!はぁ?!はぁああああああああ?!
言われたことに目を瞬かせる。相対して笑顔の嗣にぃ。
なんだ、その理論は!俺があさならそりゃベタベタするのもいいけどさ!やっぱあさに逃げられたのがショックで頭がどうかしてるんじゃないだろうか。
とか考えてたら、隙をついてまた額にキスされた。

「・・・っ!!もう!!シャワーに!!行けっ!!」
「はいはい。あ、シャツはベッドの上に置いてあるよ。パジャマ代わりにどうぞ」

思いっきり手を伸ばしたら、嗣にぃの身体が漸く離れた。
そのまま笑いつつ、嗣にぃは逃げるようにバスルームに入っていく。

「俺、やっていけるのか・・・これ・・・」



あれから。
なんかもうガックリと疲れてしまい、借りたシャツに着替えてから俺はベッドに潜り込んでいた。
飾られていた花やらは嗣にぃが出かけた時点で、集めてサイドテーブルに置いたので、今はベッドの上にはない。
あの花、演出とはいえどう使うんだろうとか、嗣にぃが近すぎるとか、考えていたらいつの間にか俺は眠っていたらしい。ベッドが少しだけ揺れて目が覚める。
薄く目を開くと部屋の中は間接照明だけが残っており、薄暗い。
消してくれたのだろう。後ろに人の気配がする。嗣にぃがベッドに入ってきたのだ。・・・一つしかないからそりゃそうか、と思った途端ーー後ろから抱き込まれた。

「・・・っ・・・」

思わず、息を呑む。
首にかかる吐息、背中に感じる体温。俺の肩に顔がある。
自然を装って身を捩り逃げようとしたが、余計にぎゅっと抱かれる。
俺の心臓がバクバクと鳴って煩い。
俺、さっき、近いって言ったのになぁ・・・!もう本当に心臓がもたない。
あ、でも待てよ・・・?!小さい頃もこんな感じだった気はする・・・。
そして思い出す。
これはもしかして、小さな小さな頃に俺が言った『抱っこされたら眠れる』が原因ではないだろうか・・・?!
小学校前だった気がするけどね、それね!今、俺18なんだけどね?!もしかしてまだそう思ってるのだろうか?!
あーーー!あさーーー!感謝していいか恨んでいいかわからないんだけど、この状況・・・!
しかし俺が原因ならば、拒むのもどうなんだろ・・・そもそも何をされたわけでもないのだし。じゃあ、もう、寝たふりしかないだろう・・・!
なので、俺は狸寝入りを決め込むことにした。の、だが・・・。

「ひ、ぅっ・・・」

頸をペロリと舐められた。ちゅ、と音を立てて同じ場所を吸われる。
え、ちょ・・・?!

「・・・っ・・・!」

思わず声が出そうになって、片手で口を押さえた。
もう一度舐められて、今度は甘噛みをされる。人にこんなふうに触られるのは、当たり前だけれども初めてで、肌が震える。
いや、本当にさ!この男さ!なんだよ・・・?!だから、俺、さっきも近いって・・・!!ねえ、てかする?!男にこれする?!

「あっ・・・?!」

いい加減に文句を言おうとしたところで、指先が服の上から脇腹を撫でる。
何度か擽るように上下に往復し、その後にシャツの端から手が潜り込んで直接肌に触れてきた。脇腹から腹にかけて撫でていき、そのまま上に行こうとしたので、

「嗣にぃ・・・っ!!」

その手を掴んで後ろを振り返った。

「やっぱり起きてた」

嗣にぃは悪戯っ子のようにくすくすと笑みを落としながら俺を見ていた。
もう何度目だよ、揶揄われるの・・・!

「くそっ・・・!嗣にぃ、近いから!離して・・・!」

あーーーもう!悔しいったらありゃしない・・・!
だいたいこっちは心臓が口から飛び出しそうなんだよ・・・!
俺は再び身を捩って腕から逃げようとしたのだが、駄目だよ、という言葉と共にまた抱き込まれた。

「ちょっ・・・!」
「昔は抱っこしてって言ってたのになぁ・・・」

それか!やっぱりそれなのか!

「それ、小学生になる前の話だろ?!今、俺、高校卒業した男子なんですけど?!」

俺は諦めずにもがき続けたが、相手はびくともしない。
それどころか楽しげだ。おかしくないですかね、神様ね・・・もうちょっと俺に力があっても良くないか?
今魔王に『力(物理)が欲しいか』と尋ねられたら即答する自信がある。

「そうだねぇ。すっかり大きくなったね・・・まあ、さ。それなりに僕も傷心だし、慰めてよ奥さん」
「うっ・・・その言い方ってずるくないか・・・?そりゃ、あさは俺の姉だけど・・・」
「そうだよ。僕は悪い大人だからね。優しいゆうくんに漬け込んで甘えるから、ゆうくんは仕方なく僕を甘やかすといいと思うよ」

ふふ、と頭の上から笑い声が落ちてくる。振り返り見上げるも薄暗くて表情がしっかりと見えるわけではない、けれど・・・やはり傷付いているのだろうか。あさに逃げられて。
いや、そりゃ傷つくか・・・。そりゃな。結婚式の当日だしな・・・。
実のところ、二人は好きあっていたのだろうか?
俺は側から見ていただけで、二人がどういう付き合い方をしていたのか、いまいちわからない。
婚約してからは月に一度程度、出かけていたように思う。毎回二人して俺にお土産を買ってきたのでそれは覚えているのだが・・・あさは嗣にぃのことなんて言ってたっけ?
俺は俺で嗣にぃの相手が自分じゃないことなんて、随分と前からわかっていたし、二人が結婚することも分かっていたので、関係を深く気にしたことがなかった。
あさが結婚相手だからと恨む気持ちもない。むしろあさで良かったとずっと思っていた。俺とあさは見た目がとにかく似ているので、あさが隣にいると自分が隣にいるようでもあったのだ。我ながらおかしな自己防衛ではあったけれど、他の女の子だったらきっと許せなかっただろう。
だから俺はただただ目で嗣にぃを追い、あさがたまに起こすとんでもない失敗をカバーしつつ、その他は2人が俺に優しいことを享受していただけだ。
俺は双子だから、あさのことはそこそこ分かっていた気はしたけれど、それも今になれば違っていたのだと思う。
あさはなんで俺には話してくれなかったのだろう・・・もうちょっと俺がちゃんとしてればあさは逃げないで良かったかもしれないし、嗣にぃも花嫁に逃げられなくて済んだのかもしれない。二人は幸せだっただろうか。
もう一度、嗣にぃを振り返り見上げると、

「・・・なんだよ、寝てるのかよ・・・」

そこには既に規則正しい寝息をたてる嗣にぃがいた。
怒涛の一日だったしなぁ・・・疲れてるよな。
腕の中で体を少しだけ動かして向かい合わせの姿勢に変え、手を伸ばし、前髪に触れる。
暗いのでやはり顔は見えにくい。ただいつもより心持ち寝顔は幼く見える気もした。

「・・・仕方ないから甘やかしてやるよ・・・」

小さく呟いて、嗣にぃの首元に顔を寄せる。
はっはー・・・近づいといてなんだが、良い匂いがするんですけど・・・まさか9歳も年上の男に『良い匂い』なんて思うとは・・・思春期男子か。あ、まだ思春期か?俺・・・って青年期だろうがよ!
これ体臭?ボディソープ?・・・て、いやいやいや。アホか、俺は。もうやだ夜中に一人漫才したくない。

結果ーー俺は変に興奮して一睡もできなかった。
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