弟の俺が姉の身代わりで新妻になった件

めがねあざらし

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第三十二話 side:H スパイと連行と

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『駄目だよ、帰っておいで。君は僕の奥さんだよね?』

ゆうくんからの連絡に、実に大人気ないがそう言いそうになった。
なんとかそれを抑えて、『帰ってもいないの?ええ・・・』も飲み込んだ。

「いいと思うよ。そういう交流も必要だと思うし、楽しんでおいで。あ、でも帰りは迎えに行ってあげるから、場所を教えといてくれるかな?終わったら連絡してくれればいいからね」

なるべく冷静な声で、言葉も選んだつもりだ。出来た夫は演じられただろうか。
いやぁ・・・こういう事態は予想していたけれど、実際に起こるとなるとまるで違う。思ったよりも僕は冷静さを保てていない。幸いにもゆうくんから連絡をもらったのは終業時間だったので、そこは不幸中の幸いだ。仕事中ならば重大なミスをしていたかもしれない。
ああーー・・・嫌だな。飲み会。飲み会かぁ・・・しかも知り合いではなく、学部も学年もサークルの垣根もなく?なんだそれ。新歓コンパとも違うじゃないか。ただの合コンな気もするんだけれど・・・違うのだろうか?そもそも、歴史同好会というのも覗きに行きたいし、ゆうくんに絡んだ輩のサークルも気になっているというのに。
・・・もう、ゆうくんを閉じ込めてしまいたい。中庭式住宅にして彩光は取り入れつつ、外に出なくてもストレスにならないような居住空間を作ってあげて、そこに本をたくさん置けば大丈夫じゃないだろうか?ハレムのように僕一人が入れればいい・・・いやいやいやいや?!正気に戻ろう。危ない危ない・・・ああ、でもこれ、そこに「昼乃さんも置いたらどうかな?」と母に提案したら瞬く間に・・・うんうん!正気に戻ろうか、僕よ!!
とりあえず、だ。一度車を取りにマンションに戻ろう。
店の場所も名前もわかっている。二次会は何としても阻止したい。・・・束縛しすぎかな、と思わなくもないけれど、もう、その分幸せにすることでゆうくんには手を打ってもらう。嫌われるのは困るが・・・掻っ攫われるのは許せない。
そもそも行かせたくないのだ、僕は。可愛い女の子だけでなく、ガツガツとした肉食女子もいるだろうし、ゆうくんの可愛さから鑑みるに男でもいいや、という手合いだっていると思う。
うん、もう早めに店に行こう。こうなったら。

「何だ、お前。今日はジムに行かないのか?」

不意に後ろから声をかけられる。大濠くんだ。僕は声をかけてきた大濠くんを見上げた。そうだ、彼ならどうするんだろうか?彼も今、恋人と同棲中だ。

「大濠くんさ・・・大濠くんの恋人が知り合いもいない飲み会に行くって言ったら・・・どうする?」

大濠くんは僕の質問に「は?」と声を上げて首を傾げたが、そうだな・・・、と続けた。

「そもそも俺はそれを許していない。付き合い上、断れない飲み会や出事は互いに仕方ないと理解しているが、遊興のためだけの酒の席など必要ないだろう?交友関係の飲み会などには口を出すつもりはないが・・・限度はあるな。どうしても、と言うならば自宅で開いてもらう。もとより俺はあまり寛容でもないからな。それは自分でもわかっているつもりだ。ならば下手に寛容さを見せるのではなく、話し合いをすることを選ぶ。寛容ぶって憤懣をためる方が情けないと俺は思っている」

そうはっきりと言い切った。今の僕とはまるで反対だ。というか遠回しに情けないと言われた感じもする。大濠くんは自分の意見を言っただけで、そうではないことは百も承知だけれど。いやぁ、格好良いね。僕がそこまで吹っ切れるのにどれくらいかかるのだろう。

「・・・流石だね、大濠くんは・・・」
「何がだ。おい、ジムに行かないなら俺は帰るぞ」

ああ、そうか。昼休憩にジムに誘ったのは僕だ。人との約束も忘れるくらいに動揺してたのか。というか嫌だ嫌だと言いながらもちゃんと行くあたり、大濠くんは寛容なタイプだと僕は思うけどね。僕は立ちあがり、鞄を持つ。そして、大濠くんの肩を軽く叩いた。

「少しだけ行こうよ。運動をするとスッキリするしね。治くんもいると思うよ」
「俺は自宅で素振りで良いんだがな・・・」

有酸素運動も大事だよ、と告げつつ大濠くんと連れ立って、オフィスフロアを出る。
よし、軽く汗を流してシャワーを浴びてスッキリしたらーーゆうくんをスパイしよう。大人気なくても良い。これは夫婦の危機なのだ。



ゆうくんから聞いた店は居酒屋だった。中は随分と賑わっていて、ガヤガヤとしている。メニューの豊富さと味が売りらしく、大濠くんや治くんが好きそうだ。今度二人を連れてきてみよう。僕はどちらかと言えば落ち着く静かな空間が好きなのだが、3人で来る時は大概、大濠くんが煩くなるので周りが騒がしい方が良いのだ。
入り口から死角になるカウンターに僕は陣取っていた。洗面所が近いので、利用されるとバレそうだが・・・まあ、その時はその時でどうにかなるだろう。
車で来ているので、酒類は避けて適当にメニューから注文する。
開始は19時30分からと少し遅めだ。お持ち帰り時間とかと合わせてないか、この時間・・・どうしても捻くれた見方になってしまう。
そうこうしているうちに、指定時間近くとなり若い子たちがゾロゾロと入ってきた。女の子達は頭の先からつま先までバッチリと決めていて、男の子はすらっとした今風の子が多い。彼らは見るからに若く、働いているものとは違うキラキラとしたオーラに包まれている。若いって凄いなぁ・・・眩しい。・・・僕は大丈夫か、これ。捨てられそうで怖いのだけど・・・?!帰宅した途端にゆうくんから、

『嗣にぃみたいにくたびれたおっさんの、変態プレイにはついていけない。今すぐ別れる』

なんて言われたら・・・・・・首輪付きの鎖ーー足輪もオプションで付いているーーと南京錠を取り出さなければならない。お手洗いにいけるくらいには改良する必要性があるけれど。いやいや、まさか。僕の可愛い奥さんに限って・・・なんて想像を広げていたら、ゆうくんが入ってきた。
今朝に出た格好と違うので、一度帰宅したのだろう。大きめサイズの白いドルマンシャツに黒色のチノパンを合わせている。あれは僕が選んだものだ。あああああああ・・・可愛い・・・。ちょっと袖が長めで彼シャツみたいになっていいんだよね、あれ。
身長のこともあってボーイッシュな女の子に見えなくもない。あの無垢な感じ・・・狙われないだろうか。今すぐ連れて帰って、抱きしめてキスしたいなぁ・・・。
皆、個室の方に行くので、襖が閉まってしまうと、当たり前だが中の様子までは探れない。もどかしいことこの上ないが、仕方がない。時間だけが過ぎていく。
しかし、おかしいな・・・もっと人数がいるような感じの話だったのだが、個室に入った女の子は5人で、男の子もゆうくんを合わせて5人だったように思う。合コンじゃないかな、あれ。え、騙されて合コンに参加してない・・・?
僕は、スマホを取り出してゆうくんにメッセージを送った。

ーー飲み会はどう?楽しんでる?お酒は飲んじゃ駄目だよ?
ーーずっと烏龍茶飲んでるよ。なんか思ってたのと違って人が少ない。嗣にぃはお仕事終わったの?
ーー今日も頑張ったよ。帰りは迎えに行くからね。
ーーお疲れ様です。多分早めに帰ると思うから、出る前には連絡する。

うーーーん・・・知らぬは本人ばかり、という感じなのだろうけど・・・。結局そこでも追求することなんて出来ない見栄っ張りの僕だ。意気地のない・・・大濠くんに喝を入れてほしい・・・。
運ばれてきた烏龍茶を飲む。わ!ゆうくんと同じメニューだ!・・・とか能天気に思いたい。グダグダとしている僕の横を、先ほど個室に入った女の子達が通る。その子達の会話が聞くともなしに耳に入った。

「今日の、どう?」
「レベルは高めかなー。あのウブな子、よくない?」
「可愛い感じのでしょ?ちょっと背がなぁ・・・でも大学を考えればアリ」
「いうこと聞いてくれそう。私、狙っちゃおうかなー」
「あとはさー・・・」

ウブで背が、って・・・ゆうくんだよね、それね。男子の中では一番小さかった。
あーーーーーーーー狙われてるーーーーーーーーー・・・しかも、チラッと見た感じ5人の中で一番可愛い子が狙ってるーーーーーーーーー・・・。
どう連れ出すべきか・・・現時点で飲み会は中盤と言ったところだろう。なるべく平穏に、問題ないように。時間を間違えて早めに着いた・・・は苦しいか?
色々と思案していたら、さっきの女の子達はいつの間にか戻っていて、今度は同じ個室の男の子二人が連れ立って洗面所へ向かっている。
今度は聞き耳を立てた。

「女子のレベル、まあまあだな。端の2人?」
「そうだなぁ。でもさ、ぶっちゃけさ・・・小早川の代わりに来た子が一番可愛くないか・・・?お前の隣」
「ああ、はるみ・・・?だっけ?俺ははじめ、あの子が女子大の子かと思った。良いの来たわ、って。お持ち帰りだわって。あれで男かー・・・いや、いける気がするあの見た目なら気にならないかも」
「新しい扉を開いちゃうやつ」

聞こえたのはそこまでだ。さっきよりもっと正確に狙われてるよね、あれ。春見って、春見ゆう・・・。いや、まあ、ね。ただの軽口かもしれない。単に友達になりたい、とかね。でも実際に僕があの可愛さにやられて、新しい扉を開いた第一号だ。・・・後続者は必要ない。
頭がカッとなるとはこのことだ。僕は残りの烏龍茶を一気に飲み干して、グラスを置き、立ち上がった。その足で会計を済ませて、個室へと向かう。
迷いなく襖をバーンっと開けた。中の子達が驚いて一斉にこちらを見た。その中にはゆうくんもいる。

「え、つぐに・・・」
「こんばんは。驚かせて申し訳ないね?門限があるから、その子を迎えに来たんだ」

人受けの良い笑顔を浮かべて僕はその子達に言いつつ、ゆうくんへと向かって手を差し出す。

「ゆうくん、おいで」

ゆうくんは唖然とこちらを見ていたが、僕が声をかけると、慌てて立ち上がった。お先に失礼します、と頭を下げる。いいのに、そんなの。そうして僕の手を取った。

「水を差してしまったお詫びだよ。これで皆でこの後も楽しんでね」

座卓の端にお札を数枚置いた。「あ、あざーす・・・」と誰かが僕に言う。
ゆうくんが靴を履いたのを確かめて、僕はその手を引き寄せて肩を抱く。
女の子の何人かは僕の笑顔に見惚れているようだった。この顔はこういう時、役に立ってくれるものだ。失礼するね、と一つ会釈をして襖を閉めた。

「つ、嗣にぃ、どうしたの?」

疾しさのないゆうくんは、僕の登場にただただ驚いたようだ。そうだよね。ゆうくんは知らなかったんだろうなぁ・・・メッセージもそんな感じだったし。でも、僕は何も答えず、肩を抱いたまま歩いた。居酒屋を出て、駐車場へ。ゆうくんを助手席に乗せてから精算を済ませて、運転席に座る。ゆうくんは助手席にちょこんと座って、シートベルトをしていた。ああ、もう、可愛い・・・!しかしそれよりも僕の中には苛々としたものがあり、言葉が出ない。車を発進させて、夜の街を走った。
ゆうくんは僕を窺いながら、「どうしたの?門限あったの?ねえ?」とか、色々と話しかけてくれたが、僕はずっと黙ったままだった。
ゆうくんは悪くないというのは分かっている。好んで出たものでもない。結局これは酷く自分勝手な嫉妬だ。自身の心の狭さに自己嫌悪しながらも、やり場のない嫉妬や怒りで本当に酷い態度だっただろう。
海に沿う公園のところまで車を走らせ、その駐車場に車を停めた。周囲は街灯のみで薄暗く、車は何台か停まっていたが気にするほどでもない。僕がシートベルトを外すと、ゆうくんも外した。

「嗣にぃ・・・?」

ゆうくんの肩に手を回して、力任せに引き寄せる。そうしてゆうくんの顎を片手で捉え、僕の方を向けさせた。僕を見る瞳には、少しばかり不安が浮かんでいる。・・・ゆうくんが悪いわけじゃないのにね。

「嗣にっ、んんっ・・・」

僕の名を呼ぶ唇を乱暴に塞いだ。舌を捩じ込んで、咥内を舐める。いつもならば、ゆうくんの舌が絡んでくるが、今は随分と消極的だ。それにも苛立ちを感じながら、絡めとる。

「んふっ・・・ん、んぅ・・・」

ゆうくんが息を漏らしつつも、僕の胸に手を置いて、緩く押す。今は抵抗をしないで欲しい・・・ただでさえ、優しくできる自信がない。ゆうくんの手を無視して、肩をより一層強い力で抱き寄せた。ゆうくんの舌を吸い上げて、自分の歯の間に置いて噛む。

「ん、んんっ・・・!」

痛いほどではないだろうが、ゆうくんの身体がびくん、と震えた。何度か甘噛みをしてから、再度吸い上げて離す。
ゆうくんの口端から、混ざり合った唾液が一筋落ちた。

「つぐに・・・ぃ、怒ってる・・・?」

僕はその問いにも答えず、顎から首筋を撫でて、シャツの一番上のボタンを外して寛げた。露になった首筋の付け根に、齧り付く。ぐっ、と力を込めて。

「・・・っつ、あ・・・っつ、ぐにぃっ・・・痛い・・・っ」

噛み痕の付いた場所を吸い、肌の上に二重の痕を付ける。それを何度も繰り返す。その間もゆうくんは「痛い」と「やめて」を漏らした。肩を抱く手はそのままに、もう一方の手で運転席の座席位置を移動させて後ろまで下げる。そうしてハンドルと座席の間の空間を広げて、

「おいで」

ゆうくんの身体ごと引き寄せる。「まって・・・!」と小さな声をあげて、ゆうくんは戸惑いつつも狭い車内を移動してきた。対面で僕の膝上へと跨らせる。靴で車内を汚すことを気にしているようなので、それも脱がせて落とし、細い腰に手を回して僕は再びゆうくんの首筋に唇を寄せる。ゆうくんの手は僕の肩に置かれていた。

「・・・っ、嗣にぃ・・・ど、して、怒って・・・」

ゆうくんのシャツのボタンを一つ一つ外して、肌を露にしていく。全部を外したところで、指先を滑らせて脇腹から胸までを撫で上げた。ふる、とゆうくんの肩が揺れる。

「つぐに、ぃ・・・やぁ・・・こんな所で、外から・・・」
「暗くて、見えないよ。ねぇ、ゆうくん・・・」

親指で、小さな突起をくにっと押すと、ゆうくんが息を詰めた。僕は首筋から唇で肌の上を辿り、指で弄っている反対側の突起を見つけて啄む。

「ふあっ、やぁ・・・っ、あ、・・・な、に・・・?」
「今日の、・・・合コン、だよね・・・?」

僕の質問に、ゆうくんの身体がわかりやすいくらいにびくんと跳ねた。

「あ、俺、それさっき、知って・・・!知らな、くて・・・っ」

まあ、そうだろうな、とは思ってたよ。長居をする気もなかったようだし。ゆうくんに悪気も騙す気もなかったなんて、分かっている。僕の唇の下にあるゆうくんの小さな突起が、弱い刺激だけでぷっくりと顔を見せた。それをねろりと一度舐め上げながら、もう一つは指先で押し込む。

「ひゃ、あ、ん・・・っ・・・」
「いいんだよ。ゆうくんが嘘を吐こうとしたわけじゃないくらい、僕だってわかるつもりだよ。僕の行動が行き過ぎだっていうのも、わかってる」

僕がそう言うと、ゆうくんは少し安堵したように息を吐いた。「でもね」と僕は言葉を繋げながら、押し込んだ乳首を人差し指と親指を使って摘み上げた。ゆうくんの身体が突然の刺激に大きく跳ねる。

「ひあっ・・・やあっ・・・っあ・・・っ!」
「ゆうくんは悪くないけど・・・これ、お仕置き案件だよね?」

僕はにっこりとゆうくんへとそう告げて、今度は首筋でなく、小さな乳首へと齧り付いた。
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