弟の俺が姉の身代わりで新妻になった件

めがねあざらし

文字の大きさ
49 / 70

第四十九話 side:U 歴史探訪と食事と

しおりを挟む
とにかく、先輩の説明は凄かった。さすが歴史好きと豪語するだけあって、そんじょそこらの知識ではない。用意してくれた資料兼しおり以上のことを、しかもそれを面白おかしく軽快に話してくれる。俺はひたすら、それを聞いて頷きながらメモをとる。が、追いつかないくらいだった。

「ああ、喋りすぎたかな・・・すまない、つい夢中になって」

俺の様子に気付き、先輩は少し恥ずかしそうに困ったように、首を傾げた。

「そんなことないです!大丈夫です!楽しいです!俺が知らないこともとたくさんあって・・・凄いですね、先輩」

俺が食い気味にそう言ったので先輩はきょとんとしたが、にこりと笑いながら俺の頭を撫でた。

「ははっ、ありがとう。そう言ってもらえると、嬉しいよ。これが会長だとアメでも舐めがら『要するにこの城が堅固ってことだな?』なんて聞いてくるんだ。総合するとそういうことだけれどね・・・張り合いがないったら・・・」

先輩が肩を竦める。先輩が言った会長の姿が容易に想像できて、俺は少しだけ笑ってしまった。

「会長らしいですね・・・でも要点はわかっていると言うか・・・」
「そうなんだよ。ああいうのを地頭がいいと言うのかもしれないな。割と先生受けもいいし成績もいいんだ。うちの系列で塾講師をしてもらっているけれど、子供達に大人気でね。よく子供をぶら下げているよ」

それも想像に易かった。背も高いし、運動選手ということもあって力もありそうだ。一度だけ、練習風景を見かけたことがあるが、普段はダルっとしたジャージに隠れている体躯は筋肉隆々で、重そうな槍を軽々と投げていく様は壮観の一言だった。嗣にぃとはまた違った筋肉のつき方で、あれはあれで格好良い。あさが好きそうだなーー好きと言うか登るな、あいつだったらーーと思ったのを覚えている。

「会長ってもう、就職は決まってるんですよね?」
「早々にね。うちで採りたかったんだが・・・桐月に盗られたよね・・・まあ、家が近いという単純な理由だけれども・・・」

はは、と先輩が乾いた笑いを漏らす。ウォフ・・・地雷だった・・・。そんな争奪戦も優秀だとあるのだなぁ・・・、俺が絶対に参加できそうにないやつだが。いや、これは卑下ではなく、正当な自己評価だ。
会長はおかしをぼろぼろこぼしながらでも姫先輩の渡した資料はさっと目を通して、要点のみ頭にいれてるみたいだし、運動もできると言うことは、自分の使い方をよく知っているということだ。成績も優秀でそれに加えて人当たりも良いともなれば、優良物件間違いなしには違いない。・・・まあ、同好会室ではだらっとしてるところしか見ないけど。そういえば、就職活動中のスーツ姿で落ちた女性が多かったらしい。背が高いし足めっちゃ長いもんな。

「まあ、かと言って桐月さんに私怨は混ぜていないよ?それにしても、その桐月さんは随分と心配性だね?」

再び歩き出しながら、先輩が苦笑を零した。
あああああああ・・・朝にあんなことを嗣にぃがするから・・・。

「ですねぇ・・・一緒に来たがってて、流石に断りました・・・。あ、先輩の恋人さんは大丈夫ですか?こんなデート日和に」
「ああ、うちは大丈夫だよ。快く送り出してくれた。みやげに和菓子でも、て言われたくらいさ。そこは年上だからね」

と言って余裕の笑みを浮かべる。どんな美女なんだ、それ。おっかしいなぁ、うちも年上なんだけどな・・・先輩の恋人さんは本当に大人だ。
いや、俺とどうこうする前の嗣にぃは結構しっかりとした大人に見えたんだけどな?ここ最近ーー特にお互いにちゃんと気持ちを伝えてからはーー崩れっぷりが半端ない。でもヤキモチって嬉しいけどこう言う出かける時はちょっと面倒臭い、とも思う。先輩のところはそういうのがないようで・・・包容力のある大人の恋人っていいな。・・・嗣にぃも十分大人だけど。・・・まあ、そうは言っても嗣にぃも大好きですしおすし。
ああ、そうだ。俺も嗣にぃに何かお土産買って帰ろう。先輩ならいい感じの店も知ってるだろう。後で聞いてみよう。

「春見、ちょっと休んでお茶でもどうだい?あちらに茶屋があるんだよ」

先輩が指差す方を見ると、そちらには城と合わせてか和風のカフェらしきものがある。軒先にはテラス席もあり、俺と先輩はそこに場所を取る。涼しい店内は既に満席だったからだ。
ちょっと待っておいで、と先輩が店内に入って行った。
軒先は日陰になっていて、外とは言っても多少マシだ。
今日は天気がいいからか、人が多い。観光客っぽい人やカップルっぽい人や。子供連れもちらほらいる。花の名所だし、資料館の他に子供向けの遊園地みたいなものもあるようだった。
歩いている人達をなんとなく見遣る。うわ・・・向こうの2人、背が高いな・・・。後ろを向いていて、顔は確認できないが、背が高いこともあってスタイルがいい。会長よりは低そうだが。今度は会長も一緒に何処かへ行ってみたい。会長と先輩の掛け合いは聞いているだけでも楽しそうだな、と思う。

「どうぞ」

声と一緒に、目の前に置かれたのは七色のかき氷だった。
先輩が買ってきてくれたものだ。

「レインボーかき氷、というらしいよ?」
「あ、すみません・・・!お幾らでした?」

俺が膝の上に置いていたリュックから財布を取り出そうとすると、先輩がそれを片手で止める。

「いいよ、これくらいは。俺の蘊蓄に付き合ってくれる礼だよ」

いやいや、俺は聞いてて楽しいのだけどなぁ・・・しかし、あまり遠慮するのも逆に失礼かもしれない。

「えっと、じゃあ・・・頂きます。ありがとうございます。でも先輩の話は飽きないし楽しいですよ。俺、好きです」

そう言うと、先輩は嬉しそうににっこりと笑って、俺の頭を撫でる。
そういえば、先輩はよく俺の頭を撫でる気がする。まあ、俺は俺で先輩によく見惚れているけど。

「春見は嬉しいことばかり言ってくれるね。溶けないうちにどうぞ」

勧められるままに、スプーンを手に取り、一口頬張る。ひんやりとした甘さが口の中に広がった。外が暑い分、それは凄く美味しく感じる。

「そういえばね、この間・・・春見を拾った時に、運転してくれた奴覚えているかな?」

先輩もかき氷を頬張りつつ、首を傾げる。
あの時は体調が悪いわ気が気じゃないわで、碌に挨拶もできなかったサングラスの人のことだ。

「あっ、ちゃんと挨拶できずに、顔もよく見てなくて・・・すみません。いつかお礼をしたいなって思いつつ・・・」
「ああ、そんなことはいいんだよ。いやそいつに彼女ができてね。まだ見せてもらってないんだがぞっこんでね」

ああ、そういえば・・・二人がそんな話をしていたことを思い出す。

「へえ、いいですね」
「まあ、そこまでならね。なんとまあ、その彼女にできてしまったんだ」
「え」

できるとは、ああ、そうかーーできてしまったのか、子供が。

「あいつは谷虎太郎と言ってね。俺の従兄弟で同い年で・・・学部は違うが、同じ大学なんだよ。名前だけなら歴史同好会の会員でもある」

なんと?!先輩と一緒ということはーー・・・あー・・・。

「学生結婚なんですね?」
「ご名答。学生の身分でけしからーーーーん!と大目玉さ。でも、あいつ・・・兄さん達にも普通に可愛がられてるからね。その子供か!と騒いで、毎日祝いと説教とを交互に受けているみたいだよ。伝え聞くだけで騒がしそうだろう・・・?いやぁ、出ててよかったよ・・・まあいずれ、その彼女さんには挨拶しないといけないけどね」

祝いと説教のステレオはちょっと嫌だなぁ・・・ま、まあ先輩の家なら学生結婚でも問題なさそうだけど。あー・・・学生でか。まあ俺も女の子だったら、とっくに妊娠してるかもしれないくらいはしてるな・・・って何を考えているのやら、俺は。あほか。
変なことを思い、ちょっと赤面ししてしまう。それを見た先輩が、熱中症じゃないよね?大丈夫かい?と心配させて申し訳ない気持ちだ。
その後に「すまない、うちのことを」と苦笑を浮かべながら謝られたけど、親密になれた証っぽくて俺は嬉しかった。かき氷を食べた後は、先輩の説明とともに城内を歩いた。
天守からの相模湾の眺望は、夏の陽に水面がキラキラと照らされており、素晴らしく美しかった。資料館をまわった後、お昼にしようということになった。
そのときの、デートっぽいな、と思ってようやく嗣にぃがうるさかった理由がわかった。あーーーねーーー・・・確かに、これは・・・。ヤキモチ面倒臭い、とか思ってしまって悪かった。ごめん、嗣にぃ。いやぁ、遅すぎるな、俺な・・・。
でも、まあ、先輩とのお出かけは、楽しいんだよなーーー!



ランチは駅近くにある海鮮料理店に入った。広めの店内は綺麗で、洒落たな和モダンの内装で纏められており、落ち着いた雰囲気だ。カウンター席へと、二人並んで座る。

「まかない丼、というのが人気らしいよ。春見もそれでいいかい?」
「あ、はい。俺、なんでも美味しく食べれるのが自分の長所なんで!」

それは確かに長所だ、と笑いながら先輩がそれを二つ注文する。
ところで先輩が歩くたびに、結構な人が振り返る。今、オーダーを取りにきた店員さんは男だったが、先輩をまじまじと見ていた。先輩の綺麗さはどこかで、と思っていたが・・・そうだ麗華さんだ。嗣にぃのお母さんである麗華さんも、似たような感じの佳人だな、と思い出す。いやぁ、一緒にいる人が綺麗だと、なんだか鼻が高い気分だ。嗣にぃのときも人は振り返るが、それは大体女性なのだ。まあ、イケメンですからね。俺の夫ね!
先輩と雑談をしていたら、注文していた食事が運ばれてきた。
人気なだけあって、種類豊富なぶつ切りの刺身がのった海鮮丼で、量もかなりある。かまぼこやキュウリが良い色のアクセントになっていて、食欲を誘った。
二人で並んで、いただきます、と手を合わせて頬張る。

「美味しいね、これ・・・山葵油であらかじめ和えているのか・・・へぇ」
「色々な魚が入ってますね」

先輩と仲良くなり、昼なども共に食事をしていて驚いたのは、結構食べるところだ。それは俺も一緒で、嗣にぃに言わせれば『その細い身体の何処に入っていくんだろうね』らしいのだがーー先輩を見ていると、ああこれか、と思い至った。
というわけで、今日は二人で色々と城内でも買い食いをしていたりする。
もりもりと俺が食べていると、先輩がこちらを見て手を伸ばしてきた。

「春見、ご飯粒が・・・・・・ほら」

どうやら口端に米粒をつけたまま、俺は食べていたらしい。はっず。子供かよ・・・と恥ずかしさに頭を掻いたところ、先輩が取ってくれた米粒をひょい、と食べてしまった。

「えっ」

俺が驚くと、今度は先輩が、ああ・・・、と赤くなる。

「すまない。兄が常にしてきていたものだから・・・どうにも染み付いてしまっていてね・・・。恋人にも注意されたんだが、一朝一夕でなおるものでも・・・」

と、そこまで先輩が言ったところで、後ろの席でガタン、と大きい音がした。俺と先輩がビックリして振り返ると、そこには真面目を絵に描いたような、けれど整った面立ちの長身男性が、眉を吊り上げて立っており、離れた席には額に手を当てて天井を仰ぐーー嗣にぃ、がいたのだった。
おいーーーーーーーーーーーーー?!?!?!
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...