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第六十一話 side:U 片割れと誘拐劇の終わりと
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ずっと一緒にいても思っていたことではあるけれど、あさはいつも嵐のようだ。
今日なんて、そうでなくとも混沌とした場所に嵐が飛び込んできたわけで・・・。
そのパワフルさは、他を圧倒する。
「さすがにちょっと疲れてきたかなぁ・・・」
なんて体力おばけの嗣にぃがぼやくほどだ。
ひとまず、今回のことは周囲も色々と慮ってくれて『誘拐ごっこ』で収めてくれるようだった。
俺としては有難い。小っ恥ずかしい茶番を披露した甲斐があるというものだ。
・・・まあ、思うところがないかと問われれば、ある。そりゃあ、ある。たった1日とはいえ恫喝されて心が荒んだのは事実だ。俺に無駄な勇気があったら、自死を選んでいた可能性だってゼロじゃない。
ただ、話を聞けば聞くほど宮園撫子さんという人に同情せざるを得なかったーー失礼な話かもしれないが・・・ーー。時代錯誤と笑えれば良かったが、本人にすれば一生を左右するものだろうし・・・そんなこんなで、俺は俺で色々と収めたわけで。
と言っても、当の撫子さんは倒れたままで、姫先輩のお兄さんが介抱している真っ最中だ。俺と少し近付いただけで『それ以上は・・・』と言っていた人がベッドに寝かされて、手を握られている。
気を失っている今はともかく、目覚めたらまた気を失うのではないだろうか・・・。ちなみに運んだのも、先輩のお兄さんだ。それを知ったら、更に倒れるな。あれ。
俺がベッドの方を見ていると、あさが俺の腕を突いた。
「ねー、ゆう。久嗣とはどうなってんの?」
あさの質問に、「え」と俺と嗣にぃとの声が重なる。
「なぁんかさーせっかくだよ、せーーーーっかくこのスペシャルスーパークレバーなおねーちゃんがさ、色々と仕組んで久嗣に任せたのにさ・・・こいつの良い噂聞かないんだけど?」
嗣にぃを指差す。その指に従って見上げれば、なんとも困ったように笑った。
先輩のところにいるあさ。先輩をチラリと見ると、にこりと笑った。・・・先輩、確信犯っぽいな・・・。
あー・・・あの、先輩の家に逃げた日のことがあって、更に尾行事件と続いて、先輩の中で嗣にぃの株は底辺だ。今でも会うたびに「本当に大丈夫?うちには優秀な兄もいるよ?谷においでよ」と言われるくらいだーー俺、先輩似のお姉さんでも良いって言ったのにな?!なんでお兄さんばかりすすめられるのさ?!ーー。
しかも今日初めて会ったはずなのに・・・話したんだろうなぁ。
「いや、まあ・・・てか、仕組んだのかよ・・・」
「そりゃ、ね。お姉ちゃんは万能だから、ゆうの気持ちなんかお見通しだよ。久嗣も久嗣でさぁ・・・クソ鈍感だからね。こいつ、ずーーーーっとゆうを見てるのに、あたしと結婚する話してんだよ?馬鹿すぎない?あたしに失礼すぎない?!エリートイケメンぶってるけど、ただの鈍感ダメ男だよ?!何度あたしが、久嗣の妻になるのはあたしなんだけど?!、って言ったと思う?!」
指差した手で嗣にぃの腰辺りをバシンバシンとあさは叩いた。
もう一度嗣にぃを見上げると、あれそういう意味で・・・、と呟いて口元を覆う。あさも嗣にぃを見上げると、信じられないものを見るような顔に変わった。
「今?!ねえ、今なの?!・・・・・・ちょっと、まさか昔からゆうだけしか見てないのにも気付けてなかったの?!?!」
そうあさが叫ぶと、嗣にぃの顔が赤くなった。
俺はあさに視線を戻して、その肩を柔らかく叩いた。
「・・・まって、ちょっと待ってくれ。いつから俺は嗣にぃに、好かれてた・・・?」
「は?!私が物心ついたときには久嗣はゆうばっか見てたよ。さすがにどっちを贔屓とかなかったのは、人間が出来てるな、とは思ってたけどさ。いやーでもさぁ、駄目すぎんだろ!!!もう駄目だ、この男、駄目だ!久嗣はやめとこう?!絶対に事故物件だよ、こんなん!!鷹我にーちゃんはなっちゃんに決めたみたいだから、道にーちゃんか凪にーちゃんかにしよう?!ここまで馬鹿じゃないよ!!!!」
今度はグーで嗣にぃの下腹をあさは殴った。う、と嗣にぃが呻く。うん、まあ、ちょっと怖いよな・・・その場所・・・。あさが女の子とは言ってもな。
後ろの方で先輩が「おすすめは凪虎兄さんだよ」と付け加える。
・・・だから、なんで二人とも男ばっか薦めるかな?!
「いやいやいや!!大事にするから!!だから、あーちゃん・・・今はもう少し、猶予を・・・・・・」
「はぁ?戦犯すぎんだろ。首かっ飛ばした方がいいってば・・・パパに言うよ、パパに」
嗣にぃの顔が今度は青くなる。色々と忙しいなぁ・・・。そういえば、と俺はあさの肩をもう一度柔らかく叩いた。
「・・・妊娠のことって、父さんたち知ってんの?」
「てへ!まだ言ってない!だーって、パパから言うと絶対にマズイじゃん。虎太郎の首が久嗣の前にかっ飛ばされちゃう。とりあえず、ママに教えとけば丸くおさまると思うから・・・ねー、一緒に電話しよ?」
あさが上目遣いに俺を見る。
うぇ・・・俺が共犯っぽいじゃん・・・。もうそれ、母さんがいる時にしか無理なやつ。地味に気が重いな、と思っていると後ろの方で、「オレ、辞世の句とか読んだ方がいい?」と不届者が弱い声を出したのに先輩が「預かってやろうか?」と言っていて、ちょっと笑ってしまった。
俺とあさがあーだこーだと話していると嗣にぃが、
「とりあえず・・・積もる話は違う日にして、今日は解散した方がいいと僕は思うけどなぁ・・・あーちゃん、ここまで走ったり色々としたしね・・・ゆうくんも、疲れてるよね?」
俺たち二人を見ながら、苦笑を浮かべつつ首を傾げた。
周囲を見回すと、皆がーー気を失った撫子さん以外だがーー見ていた。
「あ、すみません・・・」
思わず、俺が謝るとそれぞれが「気にするな」といったような声をかけてくれる。
アロハとスーツは土下座で俺を拝んでいた。
俺が起こしたことではないが、中心は俺のような気もして、今更ながら申し訳ない気持ちだ。そんな俺へと、
「ねー、帰るならさ、このまま谷の家にゆうも帰ろうー?」
あさが俺の腕を引っ張ると「それもいいね」と先輩が追撃をしてきた。
先輩もどんだけ俺をそっちに連れて行きたいのだろうか・・・そう思ってくれるのは、すっごく嬉しいけれども。見上げた嗣にぃが何か言おうとしたが、俺が嗣にぃの片手を取って引っ張る。少しだけ、嗣にぃと俺との距離が近くなった。
「あさ、俺さ、この人が好きだから・・・久嗣さんと帰るよ」
そう言うとあさは、緩く息を吐いて肩を竦め「仕方ないなぁ」と笑った。
先輩は「もうちょっとなんだけどねぇ」と漏らした。
嗣にぃは「大事にするよ」と微笑んだ。
是非そうしてくれ。
※
「じゃあね、ゆう。久嗣さー明日もあたしはゆうと会うから!そこんとこ考えて大事にしてよね!」
「そうだぞ、桐月。お前は明日も仕事なのだから程々にしろ」
別れ際、あさはそう言って手を振り、嗣にぃは大濠さんに諫言を受けていた。
谷家の面々は鷹我さんを残して帰るようだ。
ところでその前に、部屋から出た途端、不届者が俺の前へと来て、
「あの、初めまして!ではないんですが!あささんとおつきあいさせてもらってます谷虎太郎です。そしてお聞きおよびでしょうがあささんを妊娠させてしまいました。でも、俺はあささんを愛していて今以上に幸せにします!どうか許してくださいお義兄さん!」
頭を深く深く下げる。先輩がその隣で、「車を運転していた・・・覚えているかい?」と言われて、ああ!と俺は思い出した。
正直な話、うるせー口だけならなんとでも言えるんだよ!この射精管理もできないチャラ男が!と罵ってやりたがったが、自分が助けられた人だと思えば、そこまで言うことも憚られて、奥歯を噛んで言葉を飲み込む。
まあ、先輩の従兄弟だしそこまで悪い人間じゃないかもしれない。
それに、もしこれ以降この男が浮気にギャンブルにと狂っても、先輩と嗣にぃの力でなんとかなりそうだ。あさもこの男がいいみたいだし。「ああ・・・いえ、まあ、うん・・・」なんて口篭っていたらあさがちょいちょいと服をつかんできた。
「こた、優しいから大丈夫。ぶっちゃけ、そいつよりマシだから」
俺の後ろにいる嗣にぃを指差した。嗣にぃの溜息が聞こえる。塩対応すぎて笑えるなぁ。
まあ、あさが大丈夫って言ってたからこれ以上は追求はしないことにした。
・・・飛び蹴りくらいしたいし、顔見る度に舌打ちはしそうだが。まあ、そのうち慣れるだろう、俺も。あさを射止めたんだからもしかしたらすごい男なのかもしれないし。
そうやって皆と別れて、俺は嗣にぃの車の中にいた。
いつの間にか乗り慣れた助手席だ。初めは俺がいいのかな?とか思っていた場所は、俺しか駄目だぞ?!と思う場所になっている。
「大変な一日だったねぇ・・・」
運転しつつ、嗣にぃが苦笑を漏らす。俺一緒に苦笑を漏らした。
「ん・・・嗣にぃ、心配したよね。俺、スマホをどっかに落としたみたいでさ・・・連絡もできなくて、ごめん。でも、来てくれて嬉しかった」
「あぁ、スマホね。家にあるから大丈夫だよ。それに、ゆうくんは大事な子だしね。迎えに行くのも当たり前だよ」
「・・・大事・・・・・・ねえねえ、嗣にぃって、いつから、その・・・俺のこと、好きでいてくれたの・・・?」
「・・・昔から?なんだろうね・・・ごめんね、気付けていなくて」
やはり苦笑まじりで嗣にぃはそう落として、片手で俺の頭を撫でた。
なんだよ、それ。俺は詳しく知りたかったのに。・・・まあ、いいけど。変に取り繕われるよりは全然マシだ。
信号が赤になって車が停車したとき、俺は嗣にぃの服を引っ張りこちらへと寄せ、俺もシートベルトが許す限り身を乗り出す。そして、その頬へと口づけた。
「これで、許してあげるよ」
それだけ告げて、嗣にぃを解放して助手席へと座り直す。
嗣にぃが「お嫁さんが小悪魔で困る」と呟いたのに、何だそれ、と俺は笑った。
今日なんて、そうでなくとも混沌とした場所に嵐が飛び込んできたわけで・・・。
そのパワフルさは、他を圧倒する。
「さすがにちょっと疲れてきたかなぁ・・・」
なんて体力おばけの嗣にぃがぼやくほどだ。
ひとまず、今回のことは周囲も色々と慮ってくれて『誘拐ごっこ』で収めてくれるようだった。
俺としては有難い。小っ恥ずかしい茶番を披露した甲斐があるというものだ。
・・・まあ、思うところがないかと問われれば、ある。そりゃあ、ある。たった1日とはいえ恫喝されて心が荒んだのは事実だ。俺に無駄な勇気があったら、自死を選んでいた可能性だってゼロじゃない。
ただ、話を聞けば聞くほど宮園撫子さんという人に同情せざるを得なかったーー失礼な話かもしれないが・・・ーー。時代錯誤と笑えれば良かったが、本人にすれば一生を左右するものだろうし・・・そんなこんなで、俺は俺で色々と収めたわけで。
と言っても、当の撫子さんは倒れたままで、姫先輩のお兄さんが介抱している真っ最中だ。俺と少し近付いただけで『それ以上は・・・』と言っていた人がベッドに寝かされて、手を握られている。
気を失っている今はともかく、目覚めたらまた気を失うのではないだろうか・・・。ちなみに運んだのも、先輩のお兄さんだ。それを知ったら、更に倒れるな。あれ。
俺がベッドの方を見ていると、あさが俺の腕を突いた。
「ねー、ゆう。久嗣とはどうなってんの?」
あさの質問に、「え」と俺と嗣にぃとの声が重なる。
「なぁんかさーせっかくだよ、せーーーーっかくこのスペシャルスーパークレバーなおねーちゃんがさ、色々と仕組んで久嗣に任せたのにさ・・・こいつの良い噂聞かないんだけど?」
嗣にぃを指差す。その指に従って見上げれば、なんとも困ったように笑った。
先輩のところにいるあさ。先輩をチラリと見ると、にこりと笑った。・・・先輩、確信犯っぽいな・・・。
あー・・・あの、先輩の家に逃げた日のことがあって、更に尾行事件と続いて、先輩の中で嗣にぃの株は底辺だ。今でも会うたびに「本当に大丈夫?うちには優秀な兄もいるよ?谷においでよ」と言われるくらいだーー俺、先輩似のお姉さんでも良いって言ったのにな?!なんでお兄さんばかりすすめられるのさ?!ーー。
しかも今日初めて会ったはずなのに・・・話したんだろうなぁ。
「いや、まあ・・・てか、仕組んだのかよ・・・」
「そりゃ、ね。お姉ちゃんは万能だから、ゆうの気持ちなんかお見通しだよ。久嗣も久嗣でさぁ・・・クソ鈍感だからね。こいつ、ずーーーーっとゆうを見てるのに、あたしと結婚する話してんだよ?馬鹿すぎない?あたしに失礼すぎない?!エリートイケメンぶってるけど、ただの鈍感ダメ男だよ?!何度あたしが、久嗣の妻になるのはあたしなんだけど?!、って言ったと思う?!」
指差した手で嗣にぃの腰辺りをバシンバシンとあさは叩いた。
もう一度嗣にぃを見上げると、あれそういう意味で・・・、と呟いて口元を覆う。あさも嗣にぃを見上げると、信じられないものを見るような顔に変わった。
「今?!ねえ、今なの?!・・・・・・ちょっと、まさか昔からゆうだけしか見てないのにも気付けてなかったの?!?!」
そうあさが叫ぶと、嗣にぃの顔が赤くなった。
俺はあさに視線を戻して、その肩を柔らかく叩いた。
「・・・まって、ちょっと待ってくれ。いつから俺は嗣にぃに、好かれてた・・・?」
「は?!私が物心ついたときには久嗣はゆうばっか見てたよ。さすがにどっちを贔屓とかなかったのは、人間が出来てるな、とは思ってたけどさ。いやーでもさぁ、駄目すぎんだろ!!!もう駄目だ、この男、駄目だ!久嗣はやめとこう?!絶対に事故物件だよ、こんなん!!鷹我にーちゃんはなっちゃんに決めたみたいだから、道にーちゃんか凪にーちゃんかにしよう?!ここまで馬鹿じゃないよ!!!!」
今度はグーで嗣にぃの下腹をあさは殴った。う、と嗣にぃが呻く。うん、まあ、ちょっと怖いよな・・・その場所・・・。あさが女の子とは言ってもな。
後ろの方で先輩が「おすすめは凪虎兄さんだよ」と付け加える。
・・・だから、なんで二人とも男ばっか薦めるかな?!
「いやいやいや!!大事にするから!!だから、あーちゃん・・・今はもう少し、猶予を・・・・・・」
「はぁ?戦犯すぎんだろ。首かっ飛ばした方がいいってば・・・パパに言うよ、パパに」
嗣にぃの顔が今度は青くなる。色々と忙しいなぁ・・・。そういえば、と俺はあさの肩をもう一度柔らかく叩いた。
「・・・妊娠のことって、父さんたち知ってんの?」
「てへ!まだ言ってない!だーって、パパから言うと絶対にマズイじゃん。虎太郎の首が久嗣の前にかっ飛ばされちゃう。とりあえず、ママに教えとけば丸くおさまると思うから・・・ねー、一緒に電話しよ?」
あさが上目遣いに俺を見る。
うぇ・・・俺が共犯っぽいじゃん・・・。もうそれ、母さんがいる時にしか無理なやつ。地味に気が重いな、と思っていると後ろの方で、「オレ、辞世の句とか読んだ方がいい?」と不届者が弱い声を出したのに先輩が「預かってやろうか?」と言っていて、ちょっと笑ってしまった。
俺とあさがあーだこーだと話していると嗣にぃが、
「とりあえず・・・積もる話は違う日にして、今日は解散した方がいいと僕は思うけどなぁ・・・あーちゃん、ここまで走ったり色々としたしね・・・ゆうくんも、疲れてるよね?」
俺たち二人を見ながら、苦笑を浮かべつつ首を傾げた。
周囲を見回すと、皆がーー気を失った撫子さん以外だがーー見ていた。
「あ、すみません・・・」
思わず、俺が謝るとそれぞれが「気にするな」といったような声をかけてくれる。
アロハとスーツは土下座で俺を拝んでいた。
俺が起こしたことではないが、中心は俺のような気もして、今更ながら申し訳ない気持ちだ。そんな俺へと、
「ねー、帰るならさ、このまま谷の家にゆうも帰ろうー?」
あさが俺の腕を引っ張ると「それもいいね」と先輩が追撃をしてきた。
先輩もどんだけ俺をそっちに連れて行きたいのだろうか・・・そう思ってくれるのは、すっごく嬉しいけれども。見上げた嗣にぃが何か言おうとしたが、俺が嗣にぃの片手を取って引っ張る。少しだけ、嗣にぃと俺との距離が近くなった。
「あさ、俺さ、この人が好きだから・・・久嗣さんと帰るよ」
そう言うとあさは、緩く息を吐いて肩を竦め「仕方ないなぁ」と笑った。
先輩は「もうちょっとなんだけどねぇ」と漏らした。
嗣にぃは「大事にするよ」と微笑んだ。
是非そうしてくれ。
※
「じゃあね、ゆう。久嗣さー明日もあたしはゆうと会うから!そこんとこ考えて大事にしてよね!」
「そうだぞ、桐月。お前は明日も仕事なのだから程々にしろ」
別れ際、あさはそう言って手を振り、嗣にぃは大濠さんに諫言を受けていた。
谷家の面々は鷹我さんを残して帰るようだ。
ところでその前に、部屋から出た途端、不届者が俺の前へと来て、
「あの、初めまして!ではないんですが!あささんとおつきあいさせてもらってます谷虎太郎です。そしてお聞きおよびでしょうがあささんを妊娠させてしまいました。でも、俺はあささんを愛していて今以上に幸せにします!どうか許してくださいお義兄さん!」
頭を深く深く下げる。先輩がその隣で、「車を運転していた・・・覚えているかい?」と言われて、ああ!と俺は思い出した。
正直な話、うるせー口だけならなんとでも言えるんだよ!この射精管理もできないチャラ男が!と罵ってやりたがったが、自分が助けられた人だと思えば、そこまで言うことも憚られて、奥歯を噛んで言葉を飲み込む。
まあ、先輩の従兄弟だしそこまで悪い人間じゃないかもしれない。
それに、もしこれ以降この男が浮気にギャンブルにと狂っても、先輩と嗣にぃの力でなんとかなりそうだ。あさもこの男がいいみたいだし。「ああ・・・いえ、まあ、うん・・・」なんて口篭っていたらあさがちょいちょいと服をつかんできた。
「こた、優しいから大丈夫。ぶっちゃけ、そいつよりマシだから」
俺の後ろにいる嗣にぃを指差した。嗣にぃの溜息が聞こえる。塩対応すぎて笑えるなぁ。
まあ、あさが大丈夫って言ってたからこれ以上は追求はしないことにした。
・・・飛び蹴りくらいしたいし、顔見る度に舌打ちはしそうだが。まあ、そのうち慣れるだろう、俺も。あさを射止めたんだからもしかしたらすごい男なのかもしれないし。
そうやって皆と別れて、俺は嗣にぃの車の中にいた。
いつの間にか乗り慣れた助手席だ。初めは俺がいいのかな?とか思っていた場所は、俺しか駄目だぞ?!と思う場所になっている。
「大変な一日だったねぇ・・・」
運転しつつ、嗣にぃが苦笑を漏らす。俺一緒に苦笑を漏らした。
「ん・・・嗣にぃ、心配したよね。俺、スマホをどっかに落としたみたいでさ・・・連絡もできなくて、ごめん。でも、来てくれて嬉しかった」
「あぁ、スマホね。家にあるから大丈夫だよ。それに、ゆうくんは大事な子だしね。迎えに行くのも当たり前だよ」
「・・・大事・・・・・・ねえねえ、嗣にぃって、いつから、その・・・俺のこと、好きでいてくれたの・・・?」
「・・・昔から?なんだろうね・・・ごめんね、気付けていなくて」
やはり苦笑まじりで嗣にぃはそう落として、片手で俺の頭を撫でた。
なんだよ、それ。俺は詳しく知りたかったのに。・・・まあ、いいけど。変に取り繕われるよりは全然マシだ。
信号が赤になって車が停車したとき、俺は嗣にぃの服を引っ張りこちらへと寄せ、俺もシートベルトが許す限り身を乗り出す。そして、その頬へと口づけた。
「これで、許してあげるよ」
それだけ告げて、嗣にぃを解放して助手席へと座り直す。
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