アミティエ・アムルーズ 恋は薔薇のしらべ

いつ海

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琥珀とスパイス

6 花の悦び

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 背中を撫で降りた手で片方の尻を掴むと、陽色が驚きに息を詰めた。

「さっきの話を聞いて、あなたが身体に触れられることが苦手だった理由がわかった気がします」
 尻たぶをくいと広げ、アルノーは陽色に囁く。
「嗅覚と触覚は、情動と記憶を司る脳の同じ領域に結びついているはず。並はずれて強い嗅覚を持つあなたは、つまり──」
 薬指と小指で服の上から谷間を撫でると、陽色はびくりと震えて、アルノーにしがみついた。
「人よりもずっと、感じやすい身体をしているということ」
「違いま……あっ…」
 ふるふると頭を振っている陽色の首筋に鼻を埋めるようにキスをすると、否定しながらも、艶やかな吐息を漏らした。
「確かめてみましょうか?」
 セーターの裾から手を滑り込ませ、アルノーは探るように手を這わせる。

 見えない視界に浮かぶのは、いつだって自分を虜にしてきた白い肌。
 なまめかしい、絹の輝きを持つ肌だ。

「あ…っ!」
 臍のくぼみから、腹の中央の線をたどるように胸元へ。頂きにツンと尖った飾りを探り当て、指先に挟んでくりくりと転がす。
「あぁっ」
 邪魔なセーターはたくし上げて脱がせて、アルノーは自分もシャツを脱ぎ捨てた。

 陽色の身体を引き上げ、膝にまたがらせる。陽色はためらいがちに、目隠しをしたアルノーの頭を胸に沿わせた。
「本当に、このままで?」
 返事をする代わりに、熱を放つ肌に口づけると、こらえきれないとでもいうように、強くかき抱かれる。

 手探りで陽色のボトムを引き下げ、むき出しにした双丘を今度は両手で掴んだ。
「あ……」
 円やかな尻の感触を楽しみながら、陽色の肩に顎を乗せ耳に囁いた。
「陽色さん、オイルを」
「え?」
「あなたがさっきそこに置いた瓶を、取ってください」
「っ、見えて……?」
 慌てて身を離そうとする陽色を引き寄せ、耳朶に舌を這わせた。
「まさか」
 唇に探り当てたピアスに、奇妙な興奮を覚える。
「あなたは可愛い人だ。俺の目さえ封じれば、気づかれないとでも思いましたか?」

 琥珀のピアスは、陽色の熱を移されて、ほんのり温かく感じられた。
「暖炉の棚から瓶を取り上げる音が聞こえていましたよ」
 カリ、と軟骨に歯を立てる。
「あ…あぁっ!」
 言い当てられて恥ずかしいのだろう、陽色は震えながら半分泣くような嬌声を上げた。
 ソファーに押し倒し、裸の胸を密着させると、お互いの高ぶる鼓動にアルノーはあの夜を思った。
「思い出しますね、ここであなたを抱いた夜を」

 同じように赤々と暖炉の火は燃え、同じように接した肌は汗ばみ、同じようにこの人は震えていた。
 けれど今は、恐れからではなく快楽に震えている。
 この敏感な身体に、花開く悦びを教えたのは自分なのだ。
「アルノーさん……っ」
 陽色がアルノーのジーンズのジッパーを下げる。
 余裕なく服を脱がそうとする恋人に、笑みがこぼれた。
 もう一度耳たぶに口づけて、そこに光っているであろう蜜の色を想った。
「ほしい……アルノー……」
 零れ落ちるほどふんだんに蓄えられた花蜜を。


 手であたりを探ると、ソファーの隙間の冷たい小瓶に行き当る。
 キャップを咥えてひねり外すと、種実類の甘い匂いが漂った。
 それは粘性の高いボリジオイルに、香りの良いプルーンオイルを足したもので、陽色が二人のために調合したものだった。

 片手にオイルを出し、自身の猛りをしごき上げると、陽色の狭間へ指を滑らせる。
 目が見えない以上、動きはぎくしゃくと慎重にならざるを得なくて、まるで物慣れない自分の手つきにアルノーは苦笑した。
「何度も抱いてきたのに……初めて抱く気がします」
「──ん!」
 ゆっくりと一本目の指を滑り込ませ、なじませるように浅く動かすと、内部が小刻みにうねるのがわかった。
「陽色」
「あぁ、アルノー、っ」
 陽色がアルノーの首を引き、吸い付くようなキスをしてくる。
 口づけに応えながら、細い腰が浮くほど強く、アルノーは陽色を抱きしめた。
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