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琥珀とスパイス
7 一番の強み
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目を閉じて研ぎ澄まされるのは、何も嗅覚だけではない。
さきほどアルノー自身が陽色に言ったことではあるが、アルノーはそれを今、身をもって感じている。
まるで指先が、そして唇が、目の代わりになったかのような錯覚。
「あ…あぁ、アルノー…おねが、い……もぅ…っ」
すすり泣きに近い陽色の嬌声は、ずっと次の段階をせがんでいるのだけれど、生来の探究心があだとなって、アルノーは執拗な愛撫の手を止められなかった。
陽色の肌からは野ばらの甘酸っぱい匂いが確かにしていて、アルノーは自分が、房咲いた小さな純白の花に群れ集う蜂になった気がする。
蜜蜂が口吻を伸ばすように舌を伸ばして陽色の肌を味わい、片手で乳首をまさぐりつづけ、
もう一方の手は、奥深い蕾を開こうと、内部で指を蠢かしている。
「あ、もう──い……きます……」
何度目かの叶わぬ懇願の後で、陽色は力なく口にしてから、自分自身の手の中で極めた。
「は、あアッ…!」
アルノーの胸にあたたかな飛沫がかかり、青く甘い匂いが立ちこめた。
同時に、びくびくと指先に伝わってくる快楽の余韻に、アルノーは大きく喉を鳴らす。
「陽色……」
ぐったりとソファーに沈む陽色を促すように呼び、身を離して上体を起こすと、陽色の腕を引いた。
「おいで」
「やぁだ……」
閉ざされた視界では強引に事を進められず、陽色の呼吸が整うまで、ゆっくりと背をさすってやる。
やがてのろのろと起き上った陽色は、両手でアルノーの膝を掴み、無言のまま左右に開いた。
「──陽色?」
アルノーの猛り立つものが、すぐさまあたたかなぬめった場所に迎え入れられる。
「っ!?」
アルノーは今まで、陽色に口淫をさせたことは一度もない。
手を使った愛撫をしてもらうことはあっても、鋭い嗅覚を持つ恋人の口に、自分の青臭い欲望を突き立てるのは躊躇われたからだ。
「何を、ッ」
視界を遮られているというのに……いやだからこそ、陽色が一生懸命に舐める音や、わずかにかかる吐息が、アルノーの妄想をかきたてる。
たどたどしく不慣れな舌づかいでも、今のアルノーには強すぎる刺激だった。
「無理しないでください」
柔らかな髪を梳きながら、アルノーは陽色にそう頼んだ。
すると、陽色はむしろ大胆なまでに、アルノーの猛りを喉の深くまで咥え、頭を動かした。
「っ、なんで…」
陽色の手が、先ほどと同じように、なだめるように太ももを撫でる。
我慢しないでと言われているようで、アルノーは思わず陽色の髪を掴んだ。
「あ……くっ……!」
ドクリと脈打ち、勢いよく陽色の口内に吐精する。慌てて腰を引きながら、
「飲まなくていいですから」
乱れた呼吸で言うと、陽色は左右に首を振りアルノーの体液を啜り舐めた。
アルノーは陽色の両肩を掴んで引きはがし、がむしゃらに口づけた。
唾液で中和するように、隈なく口腔を舌で侵すと、陽色は夢から覚めるように深く嘆息した。
「馬鹿、なんてことするんだ」
「どうして?」
「どうしたもこうしたもありませんよ、俺はこんなこと望んでない」
「僕が望んでも?」
「……は?」
「ずっとこうしたかった。アルノーをもっともっと感じたいって、思ってた……」
くすっと笑い、陽色はアルノーの頬を撫でた。
「アルノーの優しさに応えたかった。でも僕は、あなたの匂いが何よりも好き──」
顎先を一撫でして、陽色の手が離れた。
「いや、しかしですね」
「僕があなたに目隠しした時、あなたはとても嫌な気持ちがしたでしょう? 一番の強みを取り上げられる気持ち。それとおんなじ」
してやられた、とアルノーは思った。
なんだか笑いがこみ上げてきて、アルノーは腕を伸ばすと陽色を抱き寄せた。
「パフューマーってやつは……いや、あなたって人は」
たまらなく、この腕の中の恋人が愛おしいと思った。
なめらかな肩にキスをしながら、
「それじゃあ、もう目隠しを取ってくれますか?」
あなたをこの目で見たいんだと耳に囁けば、
「やぁよ……」
駄々っ子のように、首を横に振る陽色。
愛おしいやら呆れるやらで、アルノーは大きなため息をついた。
「だったら仕方ない。あなたに、俺の目になってもらいます」
「ん?」
「あなたが望んだことだ。最後まで忘れないで下さいよ……」
アルノーにしてみれば、それはほんのちょっとした思いつきだった。
見えたことをありのまま口にしてくれればと、陽色に要求したに過ぎない。
なんせこちらは誰かさんのせいで目が見えないのだから。
陽色はしばらく考えた後、ためらいがちに、その要求に応じたのだったが──。
さきほどアルノー自身が陽色に言ったことではあるが、アルノーはそれを今、身をもって感じている。
まるで指先が、そして唇が、目の代わりになったかのような錯覚。
「あ…あぁ、アルノー…おねが、い……もぅ…っ」
すすり泣きに近い陽色の嬌声は、ずっと次の段階をせがんでいるのだけれど、生来の探究心があだとなって、アルノーは執拗な愛撫の手を止められなかった。
陽色の肌からは野ばらの甘酸っぱい匂いが確かにしていて、アルノーは自分が、房咲いた小さな純白の花に群れ集う蜂になった気がする。
蜜蜂が口吻を伸ばすように舌を伸ばして陽色の肌を味わい、片手で乳首をまさぐりつづけ、
もう一方の手は、奥深い蕾を開こうと、内部で指を蠢かしている。
「あ、もう──い……きます……」
何度目かの叶わぬ懇願の後で、陽色は力なく口にしてから、自分自身の手の中で極めた。
「は、あアッ…!」
アルノーの胸にあたたかな飛沫がかかり、青く甘い匂いが立ちこめた。
同時に、びくびくと指先に伝わってくる快楽の余韻に、アルノーは大きく喉を鳴らす。
「陽色……」
ぐったりとソファーに沈む陽色を促すように呼び、身を離して上体を起こすと、陽色の腕を引いた。
「おいで」
「やぁだ……」
閉ざされた視界では強引に事を進められず、陽色の呼吸が整うまで、ゆっくりと背をさすってやる。
やがてのろのろと起き上った陽色は、両手でアルノーの膝を掴み、無言のまま左右に開いた。
「──陽色?」
アルノーの猛り立つものが、すぐさまあたたかなぬめった場所に迎え入れられる。
「っ!?」
アルノーは今まで、陽色に口淫をさせたことは一度もない。
手を使った愛撫をしてもらうことはあっても、鋭い嗅覚を持つ恋人の口に、自分の青臭い欲望を突き立てるのは躊躇われたからだ。
「何を、ッ」
視界を遮られているというのに……いやだからこそ、陽色が一生懸命に舐める音や、わずかにかかる吐息が、アルノーの妄想をかきたてる。
たどたどしく不慣れな舌づかいでも、今のアルノーには強すぎる刺激だった。
「無理しないでください」
柔らかな髪を梳きながら、アルノーは陽色にそう頼んだ。
すると、陽色はむしろ大胆なまでに、アルノーの猛りを喉の深くまで咥え、頭を動かした。
「っ、なんで…」
陽色の手が、先ほどと同じように、なだめるように太ももを撫でる。
我慢しないでと言われているようで、アルノーは思わず陽色の髪を掴んだ。
「あ……くっ……!」
ドクリと脈打ち、勢いよく陽色の口内に吐精する。慌てて腰を引きながら、
「飲まなくていいですから」
乱れた呼吸で言うと、陽色は左右に首を振りアルノーの体液を啜り舐めた。
アルノーは陽色の両肩を掴んで引きはがし、がむしゃらに口づけた。
唾液で中和するように、隈なく口腔を舌で侵すと、陽色は夢から覚めるように深く嘆息した。
「馬鹿、なんてことするんだ」
「どうして?」
「どうしたもこうしたもありませんよ、俺はこんなこと望んでない」
「僕が望んでも?」
「……は?」
「ずっとこうしたかった。アルノーをもっともっと感じたいって、思ってた……」
くすっと笑い、陽色はアルノーの頬を撫でた。
「アルノーの優しさに応えたかった。でも僕は、あなたの匂いが何よりも好き──」
顎先を一撫でして、陽色の手が離れた。
「いや、しかしですね」
「僕があなたに目隠しした時、あなたはとても嫌な気持ちがしたでしょう? 一番の強みを取り上げられる気持ち。それとおんなじ」
してやられた、とアルノーは思った。
なんだか笑いがこみ上げてきて、アルノーは腕を伸ばすと陽色を抱き寄せた。
「パフューマーってやつは……いや、あなたって人は」
たまらなく、この腕の中の恋人が愛おしいと思った。
なめらかな肩にキスをしながら、
「それじゃあ、もう目隠しを取ってくれますか?」
あなたをこの目で見たいんだと耳に囁けば、
「やぁよ……」
駄々っ子のように、首を横に振る陽色。
愛おしいやら呆れるやらで、アルノーは大きなため息をついた。
「だったら仕方ない。あなたに、俺の目になってもらいます」
「ん?」
「あなたが望んだことだ。最後まで忘れないで下さいよ……」
アルノーにしてみれば、それはほんのちょっとした思いつきだった。
見えたことをありのまま口にしてくれればと、陽色に要求したに過ぎない。
なんせこちらは誰かさんのせいで目が見えないのだから。
陽色はしばらく考えた後、ためらいがちに、その要求に応じたのだったが──。
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