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第3章 ゆるやかな流れの中で
恥じらいと貞淑
しおりを挟むやはり今日の榊は普通にしているようでもどこか違うような気がする瞬だった。
その不安が何であるかはわからないが、それはここにいる限り自分では選べないものなのだという事だけは分かっている。
だから黙って気付かないふりをして今まで通り、自分を父に代わって導いてくれている榊に従うしかなかった。
榊は瞬の足が疲れないようおんぶしてエントランスまで行くと、そこから先は瞬を下に降ろした。
瞬の足下に屈んで外用の動きやすい靴に履きかえさせてくれている榊の背中に手を置く瞬は、その身体に自分にはない男の身体というモノを感じていた。
やがてここを出たら養父である堂島が榊に変わって自分の世話をしてくれるとずっと言われてきたが、養父では榊の代わりを出来るとは思えなかった。
世話をして貰う瞬は、主人のされるままに従わなければならないとずっと言われ続けて来た。
そしてそれを全て受け入れる事が瞬の幸せであり、主人の慰めにもなると。
慰めというのは、この身体に主人を迎え入れる事だということくらい瞬も分かっていた。
地下室から上の階に移って来て他の子達がそこを同じように解され何かを入れられているのを見て知ってしまった。
それが棒のような物だったり、変な形をした取っ手のついたものだったり、あるいはチューター自身のものだったり様々だった。
それはとても衝撃的で驚いたけれど、その子達がとても気持ち良さそうに感じているのを見ると、自分もそうされたらどうなるだろうと好奇心が湧いても来るが、そこはピシャリと榊に言われてしまう。
あの子達は人前でも望まれたら身体を開いて見せる事を望む主人の為にその躾けがされているのです。ですが、瞬の主人はそういう事は望んではいませんと一蹴されてしまった。
だから瞬にはあの躾けは必要ないのですと言った榊の目はどこか怒りに満ちて見えて、瞬はそれ以上何も言えなかった。
主人とはこれから瞬を父親として育ててくれる養父である。
その事が世間一般からすればおかしな事だというのも分かっているが、瞬もそれは抗えないものだという事は理解できていた。
自分は元々要らない子供で、あそこに居ても誰も瞬など居なくたって何とも思わない、むしろ居ない方がいいと思われていた。
それを子供ながらにずっと感じてはいたのである。
後から来た新しい母親に子供が生まれてからは、それが決定的になった。
半分はお父さんの血でも後の半分は穢れた女の血だとみんなに陰で言われていたのも知っている。
父は瞬の母親に騙されたも同然らしいのだった。
お金を湯水にように使い、勝手にまた出て行った母親の行方など瞬には知る由もない。
自分で産んでおきながら子供の面倒も見なかった母親に置き去りにされた瞬だった。
そして子育てなど今まで自分が大切にされて来た瞬の父親には無理に決まっていた。
それでも子供は誰かに頼らねば生きてはいけない。
だから預けられた父の実家で冷たくあしらわれても救いを求めたし、父が家柄がいい人と再婚して自分をまた手元に置いてくれた時は嬉しくてその手にも縋った。
だがその手は呆気なく振りほどかれ、瞬も自分から誰かの手に縋るのにもちょうど疲れていた、もう食事と寝る所さえもらえればそれで十分かと思いはじめたそんな時だったのだ。
父親からお前を養子に欲しいと言ってくれている人がいるから、その家に馴染むまでそれ専用の施設があるからそこで躾けを受けろと言われてここへ連れて来られた。
初めから全部大人に決められた事で、瞬には嫌だという選択肢は与えられなかった。
どんな人が自分を望んでいるのかもわからない、瞬は顔も知らない新しい父親が望む子供になる為にこの施設で躾けを受けなければ次には進めない事実だけが突きつけられていた。
初めは服も与えては貰えず、おしっこもウンチも人に世話をして貰う事に慣れなかったが、新しい父親は瞬を一から育てたいから瞬は赤ちゃんになればいいと榊に教えられた。
何も知らない赤ちゃんならば恥ずかしい事してもいいと言われて、榊に全部して貰うようになった。
それなのに恥じらいと貞淑さは忘れてはダメだと躾けられる。
それが一番矛盾しているとは思うのに、確かにそれは言って貰えている事が逆に瞬を助けてくれているのだった。
どんなに赤ちゃんなのだから安心して身を任せていればいいと言われても、もうそれなりに成長していた瞬の恥じらいが無くなるわけがない。
だから、身体は恥ずかしい事をされればどうしても羞恥心がわき、あられのない格好をしている事も、それに反応して声を発してしまう事も全部恥ずかしいのだった。
それを自分で抑える事など出来ない。
そんな時榊が優しく言ってくれる恥じらってもいい、感じる事を感じてしまう事は仕方がない、でもそれでも貞淑である事を忘れないでという言葉で現実に引き戻される。
だから、瞬はこんな長くこの施設に入れられているというのに、いつまでも初々しいしさが抜けないのであった。
瞬は、それは自分の躾け係である榊でなければそうはならなかったであろう事も良く分かっていた。
行われている躾けは厳しくても、榊の指にそれをされるなら、瞬はどんな痛みでも苦しい事でも耐えられる。
そんな事を言ったらまた酷いお仕置きをされる事も分かっている。
今までもそうだった。
主人ではなく瞬が榊を頼ってしまうと鞭で打たれた。
ここではあくまでも榊は主人に代わって瞬を躾けているだけで、榊が主人ではないのだと身体に教え込まれた。
榊が優しくしてくれるのは、主人の命に従っているだけでそこに自分の気持ちは無いと言われているのも分かっているつもりだった。
だがやはり本当の優しさを感じるのは、今この目の前に居る榊からなのだからしょうがない。
言葉に出せば鞭で打たれるならそれを飲み込むしかない。
言葉を飲み込み目だけを榊に向ける術を瞬も身につけてしまった。
するとそれが榊にも伝わって居るのか、二人の間には言葉など無くても分かり合える、信頼関係のようなものが深まっていった。
「手を繋いでください。落ち葉は滑りますから」
そう言って手を差し伸べられると瞬の頬は今度は苺のように赤くなった。
部屋より寒い所に連れて来られ青白くなった肌に急に赤みがさしたので、薔薇というよりは苺だった。
それにその顔はいつにも増して幼くて、また瞬のそんな初心な反応が見られた榊も連れ出た甲斐もあり楽しくもあった。
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