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【第3部 チェンジ】第七話 乱闘
70、呼び出し ②
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Lの指定の泉は、寮にしている王宮から一番近い森への散歩道を歩いて五分ほど入ったところにあった。高台にある王宮も城下にくらべて涼しいが、森の中にはいると日差しが遮られ、時折頬にふれる風がひんやりと心地よい。
いまや近隣から人々が流入し、人口も産業も文化も豊かに咲く大都会のエール国にありながら、その頂点に座す王宮の庭の片隅は太古の森に繋がっている。その森が延々と国境まで続いてることにロゼリアは足を踏みいれる度に感慨を覚えていた。
その植生、森に姿をちらりとみせる飼い慣らされていない動物たちがいる森の気配は、アデールと非常によく似ている。アデールの民は森と切り離せない生活を行っている。アデールとかつては巨大な一つの森を共有していたエールの、そのフォルス王が、森を人の生活の場に改編しても、ここだけは残し続けることにしたその想いにロゼリアは思いを馳せた。
日を照り返し銀色に輝く小さな泉が現れた。
泉のずっと向こう側には小さな瀑布があり、きらきらと白く輝いている。
パジャンと跳ねる魚の鱗が虹色にきらめく。
小さなさざ波がロゼリアの足元に打ち寄せた。
エール国の光を凝縮したような泉である。
「きれい」
ロゼリアは呟いた。
いくら見ても飽きない美しさだった。
アデールにある泉よりも数倍は大きい。森に覆いかぶさられ影を落とす濃緑色したアデールの泉よりも開放的だった。
「来てくれると思っていたよ」
ロゼリアは振り返った。
遊歩道を外れた森を背景に男が腕を組んで立っていた。ラシャールではなく、銀色に光を照り返す泉と同じ色の巻き毛の色男。
「ウォラス」
ロゼリアは混乱した。
不意に思い出す。手紙からほのかに香るローズはナミビアローズだった。
ナミビアローズはウォラスの香り。
「ラシャールは?」
「あいつはこないよ」
ウォラスはロゼリアに近づいていく。
その後ろから現れたのは、ノル、フィン、ラドー、バルト。
森影から現れた彼らの顔にはロゼリアを小馬鹿にするような笑みが浮かんでいる。
ロゼリアは不意に恐怖を感じた。
彼らから距離をとろうとじりじりと後ろに下がるが、その先は泉で逃げ場がなかった。
「きみはラシャールとどういう知り合いなの?以前あいつはわたしにあなたに近づくなと警告したけど、彼があなたを守りたい理由があるんだろうか」
ウォラスは獲物を追いつめたくてたまらないような目である。
「ラシャールとは何の関係もない。しいていうならば、妹に求婚したことがある関係ぐらいだ」
「それだけじゃ、ないだろ。彼が呼びだしたと思っただけで、こんなに人気のないところに一人で来るなんて。あなたとラシャールはひそかに関係があったりするんじゃないか?」
「そんなもの、ない」
はっきりとくぎっていうが、ウォラスは意にも介さない。
「ラシャールには噂がある。あいつ男が好きだっていう噂だ。演劇を男二人で観劇し、女優を振って帰ったという噂を女の子が教えてくれたよ。そんな男好きが、あなたのような男をほっておくわけがないだろ?」
「男二人で見にいくのがおかしいとも思わないし、女だから誰でもいいわけではないでしょう」
ウォラスはくすりと笑う。
「やけに肩を持つんだね。弱小中立のアデール国の王子さまは表向きエールの王子と仲良くして、裏ではパジャンの王子と、誰にもいえないような深い異文化交流をしているんじゃないか?」
パシャ……。
ロゼリアの足は泉に入る。足元はぬかるんでいた。
これ以上後ろには引けない。
「その言い方、品がないように聞こえるんだけど。僕には後ろ暗いことはなにもない」
ロゼリアはウォラスとその背後のジルコンの取り巻きたちの距離を測る。
彼らは近づいてきて、ウォラスは手をのばしたら届く位置まで来ていた。
ウォラスが自分を眺める満足そうな表情は、ロゼリアの恐怖を助長する。
ウォラスの背後のジルコンの取り巻きたちがひろがりロゼリアの左右への退路を断つ。
「あなたの、その傍若無人で無邪気な顔が、恐怖に歪むそんな顔がみたかったんだ。ジルコンにもラシャールにも気に入られているあなたが、何を訴えても自分の言葉が相手に届かないことを知り絶望し、自分の気ままな行動を振り返り、世間知らずで幼稚で馬鹿だったと思い知り後悔しつづけるような……」
ウォラスは逃げ場を失ったことを知ったアデールの王子の絶望の表情にぞくぞくしていた。
この表情がみたかったんだ、と思う。
ウォラスは、アデールの王子を捕まえ、その唇に無理やりキスをして、服を剥がし、裸にして泉にでも落とそうと思っていた。
ぐしょ濡れのアデールの王子は情けない姿を晒しながら戻ってくるのだ。
それで、ウォラスの思い付きに嬉々として乗ったジルコンの取り巻きたちも、鬱憤を晴らせるだろうと思う。
今後はウォラスやノルやバルド達を見ては顔を青くし、こちらの顔色をびくびくとうかがい、目立たないように黙るようになれば面白い。凛とはった胸を落ちくぼませて肌に艶がなくなればもっといい。
「もしかして、その身体でジルコンの気を許させ、閨の内でパジャン側の刺客となるつもりなんだろ?」
ノルが追い打ちをかけるように言う。
その眼に憎悪が宿っている。
ロゼリアにはその言葉の意味がもはや理解できなかった。
ひろがった取り巻きが、ロゼリアを押さえつけようとした。
身を守る武器はなにひとつ手元にない。
夢中で手首を蹴り上げ跳ね上げた。
うっとラドーは手首を押さえる。
フィンを回し蹴る。肩を押さえたノルの腕をつかんで苦痛の悲鳴が上がるまでひねり上げた。
ロゼリアは水際で、必死の抵抗をする。
絶対に捕まってはならなかった。何をされるかわからない。
秘密が暴かれ、暴力が支配する恐怖だった。
こんな人気のないところにひとりでのこのこ出てきた自分が、情けないほど後悔された。
「こいつ、すばしっこい!」
尚も、タックルして体を押さえようとするフィンを透かして辛うじてかわす。
フィンにぶつかった誰かが悲鳴を上げ泉に落ちた。
泉は岸辺は浅いが少しはいれば一気に深くなる。そこに落ち込んだようだった。
誰が落ちたか確認している余裕はロゼリアにはない。
自分がこの場から逃れることだけが重要だった。
だが、多勢を前にロゼリアのあがきは続かない。後ろからびくともしない強い腕に首を押さえられ腕を羽交い締めにされた。大柄なバルトだ。
ロゼリアは空気を求めてあえいだ。
腕を振り払おうにも、力づくでもがき続ければ肩が外れそうになる。
自分がどうなってしまうか、恐怖で何も考えられない。
ゆうゆうと近づいてきたのはウォラス。彼は捕り物を高みの見物をしていた。
ロゼリアは顎を捕まれ顔をあげさせれられる。
「お願い、やめて」
「噛むなよ」
息が切れ、心臓がばくばくと打つ。
ロゼリアの唇はウォラスに塞がれる。
それはこじ開けられ開かれ、奪われた。掠奪のキスだった。
ロゼリアはウォラスにされるがままだった。
悔しさに涙がにじむ。嗚咽が漏れた。
ウォラスは、略奪のキスとアデールの王子の涙に十分満足した。
その唇は柔らかく女のようだった。アデールの王子は何もかも甘く、清浄な香りがした。
ショックで呆然自失のアデールの王子を、この後は裸にして泉に投げ込むだけだった。
その襟元に手をかけて、ひとつひとつボタンを外していく。
泉からノルが上がってくる気配。
普段は上品な彼に似合わない悪態をつく。
「早くその田舎猿を裸にむしって突き落とせ!」
アシメントリーの髪は顔に乱れて貼りついている。
「お願いやめて、ウォラス!」
最後のお願いだった。
ロゼリアはここで秘密が暴露されるのを覚悟する。
これからどうなるかわからない。
恐怖にロゼリアは目をぎゅっとつぶる。
見なければやり過ごせるかとでもいうかのように。
三つ目のボタンを外そうとしたウォラスの手が固まった。
その視線は、開いた襟元から現れた真白いきめの整った肌に吸いつけられていた。
細い首、美しい鎖骨だった。
戯れに遊ぶどの女よりも美しいと思う。そして違和感。女の首を愛撫するように、顔から喉に向かって手のひらで撫で下ろしてしまう。
その喉は突起がないことにウォラスはようやく気が付いた。
話し方は男そのものだったが、ロゼリアの声は男にしては少し高め。
そして、服から覗く胸には堅く晒しが巻かれている。
ウォラスは矢に急所を打たれたかのように硬直した。
それらが意味しているものはただひとつ。
この麗しきアデールの王子は服の下に男たちに暴かれてはならない秘密をもっていた。
「ウォラス、はやく裸にしろよ!」
バルドが言う。
すっかりウォラスは昂った気持ちは急激に冷めていった。
ウォラスは女を抱くが嫌がる女に暴力を振るう趣味はない。
「もう、いいだろ?十分嫌がらせはできたし、上出来だ。もう終わりにしよう。これでジルコンのお気に入りも懲りただろう?」
「ここでハイそうですか、と終えられる訳がないでしょう。それとも、俺たちをけしかけ動かして、ウォラス殿は俺たちが右往左往するのを眺めて楽しみ、そいつをキスして泣かせて楽しみたかっただけなのではないですか?」
「まあ、その通りなのだけれど」
ぐしょ濡れのノルが、ウォラスを睨みつけた。その目に不穏な色を宿らせる。
彼らの矛先が、今度はロゼリアからナミビアの王子、色男のウォラスに向かう。
既に暴力で発散しなければならないほど、彼らは怒っていた。
いまや近隣から人々が流入し、人口も産業も文化も豊かに咲く大都会のエール国にありながら、その頂点に座す王宮の庭の片隅は太古の森に繋がっている。その森が延々と国境まで続いてることにロゼリアは足を踏みいれる度に感慨を覚えていた。
その植生、森に姿をちらりとみせる飼い慣らされていない動物たちがいる森の気配は、アデールと非常によく似ている。アデールの民は森と切り離せない生活を行っている。アデールとかつては巨大な一つの森を共有していたエールの、そのフォルス王が、森を人の生活の場に改編しても、ここだけは残し続けることにしたその想いにロゼリアは思いを馳せた。
日を照り返し銀色に輝く小さな泉が現れた。
泉のずっと向こう側には小さな瀑布があり、きらきらと白く輝いている。
パジャンと跳ねる魚の鱗が虹色にきらめく。
小さなさざ波がロゼリアの足元に打ち寄せた。
エール国の光を凝縮したような泉である。
「きれい」
ロゼリアは呟いた。
いくら見ても飽きない美しさだった。
アデールにある泉よりも数倍は大きい。森に覆いかぶさられ影を落とす濃緑色したアデールの泉よりも開放的だった。
「来てくれると思っていたよ」
ロゼリアは振り返った。
遊歩道を外れた森を背景に男が腕を組んで立っていた。ラシャールではなく、銀色に光を照り返す泉と同じ色の巻き毛の色男。
「ウォラス」
ロゼリアは混乱した。
不意に思い出す。手紙からほのかに香るローズはナミビアローズだった。
ナミビアローズはウォラスの香り。
「ラシャールは?」
「あいつはこないよ」
ウォラスはロゼリアに近づいていく。
その後ろから現れたのは、ノル、フィン、ラドー、バルト。
森影から現れた彼らの顔にはロゼリアを小馬鹿にするような笑みが浮かんでいる。
ロゼリアは不意に恐怖を感じた。
彼らから距離をとろうとじりじりと後ろに下がるが、その先は泉で逃げ場がなかった。
「きみはラシャールとどういう知り合いなの?以前あいつはわたしにあなたに近づくなと警告したけど、彼があなたを守りたい理由があるんだろうか」
ウォラスは獲物を追いつめたくてたまらないような目である。
「ラシャールとは何の関係もない。しいていうならば、妹に求婚したことがある関係ぐらいだ」
「それだけじゃ、ないだろ。彼が呼びだしたと思っただけで、こんなに人気のないところに一人で来るなんて。あなたとラシャールはひそかに関係があったりするんじゃないか?」
「そんなもの、ない」
はっきりとくぎっていうが、ウォラスは意にも介さない。
「ラシャールには噂がある。あいつ男が好きだっていう噂だ。演劇を男二人で観劇し、女優を振って帰ったという噂を女の子が教えてくれたよ。そんな男好きが、あなたのような男をほっておくわけがないだろ?」
「男二人で見にいくのがおかしいとも思わないし、女だから誰でもいいわけではないでしょう」
ウォラスはくすりと笑う。
「やけに肩を持つんだね。弱小中立のアデール国の王子さまは表向きエールの王子と仲良くして、裏ではパジャンの王子と、誰にもいえないような深い異文化交流をしているんじゃないか?」
パシャ……。
ロゼリアの足は泉に入る。足元はぬかるんでいた。
これ以上後ろには引けない。
「その言い方、品がないように聞こえるんだけど。僕には後ろ暗いことはなにもない」
ロゼリアはウォラスとその背後のジルコンの取り巻きたちの距離を測る。
彼らは近づいてきて、ウォラスは手をのばしたら届く位置まで来ていた。
ウォラスが自分を眺める満足そうな表情は、ロゼリアの恐怖を助長する。
ウォラスの背後のジルコンの取り巻きたちがひろがりロゼリアの左右への退路を断つ。
「あなたの、その傍若無人で無邪気な顔が、恐怖に歪むそんな顔がみたかったんだ。ジルコンにもラシャールにも気に入られているあなたが、何を訴えても自分の言葉が相手に届かないことを知り絶望し、自分の気ままな行動を振り返り、世間知らずで幼稚で馬鹿だったと思い知り後悔しつづけるような……」
ウォラスは逃げ場を失ったことを知ったアデールの王子の絶望の表情にぞくぞくしていた。
この表情がみたかったんだ、と思う。
ウォラスは、アデールの王子を捕まえ、その唇に無理やりキスをして、服を剥がし、裸にして泉にでも落とそうと思っていた。
ぐしょ濡れのアデールの王子は情けない姿を晒しながら戻ってくるのだ。
それで、ウォラスの思い付きに嬉々として乗ったジルコンの取り巻きたちも、鬱憤を晴らせるだろうと思う。
今後はウォラスやノルやバルド達を見ては顔を青くし、こちらの顔色をびくびくとうかがい、目立たないように黙るようになれば面白い。凛とはった胸を落ちくぼませて肌に艶がなくなればもっといい。
「もしかして、その身体でジルコンの気を許させ、閨の内でパジャン側の刺客となるつもりなんだろ?」
ノルが追い打ちをかけるように言う。
その眼に憎悪が宿っている。
ロゼリアにはその言葉の意味がもはや理解できなかった。
ひろがった取り巻きが、ロゼリアを押さえつけようとした。
身を守る武器はなにひとつ手元にない。
夢中で手首を蹴り上げ跳ね上げた。
うっとラドーは手首を押さえる。
フィンを回し蹴る。肩を押さえたノルの腕をつかんで苦痛の悲鳴が上がるまでひねり上げた。
ロゼリアは水際で、必死の抵抗をする。
絶対に捕まってはならなかった。何をされるかわからない。
秘密が暴かれ、暴力が支配する恐怖だった。
こんな人気のないところにひとりでのこのこ出てきた自分が、情けないほど後悔された。
「こいつ、すばしっこい!」
尚も、タックルして体を押さえようとするフィンを透かして辛うじてかわす。
フィンにぶつかった誰かが悲鳴を上げ泉に落ちた。
泉は岸辺は浅いが少しはいれば一気に深くなる。そこに落ち込んだようだった。
誰が落ちたか確認している余裕はロゼリアにはない。
自分がこの場から逃れることだけが重要だった。
だが、多勢を前にロゼリアのあがきは続かない。後ろからびくともしない強い腕に首を押さえられ腕を羽交い締めにされた。大柄なバルトだ。
ロゼリアは空気を求めてあえいだ。
腕を振り払おうにも、力づくでもがき続ければ肩が外れそうになる。
自分がどうなってしまうか、恐怖で何も考えられない。
ゆうゆうと近づいてきたのはウォラス。彼は捕り物を高みの見物をしていた。
ロゼリアは顎を捕まれ顔をあげさせれられる。
「お願い、やめて」
「噛むなよ」
息が切れ、心臓がばくばくと打つ。
ロゼリアの唇はウォラスに塞がれる。
それはこじ開けられ開かれ、奪われた。掠奪のキスだった。
ロゼリアはウォラスにされるがままだった。
悔しさに涙がにじむ。嗚咽が漏れた。
ウォラスは、略奪のキスとアデールの王子の涙に十分満足した。
その唇は柔らかく女のようだった。アデールの王子は何もかも甘く、清浄な香りがした。
ショックで呆然自失のアデールの王子を、この後は裸にして泉に投げ込むだけだった。
その襟元に手をかけて、ひとつひとつボタンを外していく。
泉からノルが上がってくる気配。
普段は上品な彼に似合わない悪態をつく。
「早くその田舎猿を裸にむしって突き落とせ!」
アシメントリーの髪は顔に乱れて貼りついている。
「お願いやめて、ウォラス!」
最後のお願いだった。
ロゼリアはここで秘密が暴露されるのを覚悟する。
これからどうなるかわからない。
恐怖にロゼリアは目をぎゅっとつぶる。
見なければやり過ごせるかとでもいうかのように。
三つ目のボタンを外そうとしたウォラスの手が固まった。
その視線は、開いた襟元から現れた真白いきめの整った肌に吸いつけられていた。
細い首、美しい鎖骨だった。
戯れに遊ぶどの女よりも美しいと思う。そして違和感。女の首を愛撫するように、顔から喉に向かって手のひらで撫で下ろしてしまう。
その喉は突起がないことにウォラスはようやく気が付いた。
話し方は男そのものだったが、ロゼリアの声は男にしては少し高め。
そして、服から覗く胸には堅く晒しが巻かれている。
ウォラスは矢に急所を打たれたかのように硬直した。
それらが意味しているものはただひとつ。
この麗しきアデールの王子は服の下に男たちに暴かれてはならない秘密をもっていた。
「ウォラス、はやく裸にしろよ!」
バルドが言う。
すっかりウォラスは昂った気持ちは急激に冷めていった。
ウォラスは女を抱くが嫌がる女に暴力を振るう趣味はない。
「もう、いいだろ?十分嫌がらせはできたし、上出来だ。もう終わりにしよう。これでジルコンのお気に入りも懲りただろう?」
「ここでハイそうですか、と終えられる訳がないでしょう。それとも、俺たちをけしかけ動かして、ウォラス殿は俺たちが右往左往するのを眺めて楽しみ、そいつをキスして泣かせて楽しみたかっただけなのではないですか?」
「まあ、その通りなのだけれど」
ぐしょ濡れのノルが、ウォラスを睨みつけた。その目に不穏な色を宿らせる。
彼らの矛先が、今度はロゼリアからナミビアの王子、色男のウォラスに向かう。
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