王族の子【4】~古き血族の少年の物語

藤雪花(ふじゆきはな)

文字の大きさ
18 / 39
赤毛の王妹

17、置き手紙

しおりを挟む
ムハンマドは、一生懸命に話すリリアスの様子を眺めていた。

既に、ダンスの合同レッスンでの炭酸酒のグラスが発火する怪奇現象の話と、赤毛の妹の暴走の話は、別ルートから詳細を聞いている。

「ムハンマド、聞いてください。この一週間に、こんなことがあったんだ~、」
から始まって、一生懸命に話すリリアスは大変可愛らしい。

ムハンマドの誤算は、妹も火の加護をもっていて今まで誰も本人さえも気がついていなかったことだった。
現在ガーネリアンは、いったん王宮に戻り、自分の部屋で謹慎している。
加護の力を制御するには自己修練が必要である。
6つの加護をもつリリアスならば良い師匠になれるはずだが、ムハンマドとしてはそれは避けたいところだった。


(リリアスは自然と加護の力を持つものを惹き付けるようだ。その身に、神の祝福を合わせて6つの加護を持つからか、、)


それにしても、リリアスの机の上の黒いリボンが結ばれた箱の山を見て、ムハンマドは溜め息をつく。
開かれていないのが大半である。
先程ひとつ手にとってみると、手づくりのレースが華やかな胸飾りらしきものと、綺麗に書かれた手紙が入っていた。



リリアスさま
今度のダンスクラスの趣向に合わせて、
あなたの胸にある姿を想像して、心を込めて作りました。
   あなたの信奉者より


そういうものが山ほどある。
「ガーネリアンに恋心を突きつけられて、あなたの心は動いたのか?」
聞いてみる。

リリアスは真っ赤になった。
「そんなはずないでしょう!僕の心はムハンマドにずっと捕らわれているのだから!!」

(濃厚なキスをしていたと聞いているぞ?)
それは言わない。

リリアスは扱いを間違えると飛んでいってしまう、羽のある小鳥だ。
ムハンマドは、リリアスさえも気がつかないほどの大きな籠の中に、捕らえておこうと思う。

「ムハンマドの他の兄弟たちって全員がここにいるの」

「ガーネリアンとスティル、他数名だけだ。
後宮が廃止されて、多くの兄弟や姉妹は自由になった。学校から去ったものもいる。
バラモンの名を捨て、在野にくだる。
野心のないものは、王族に必要ない。
ガーネリアンは政治に利用されるだろう。うまく立ち回れば、彼女はパリスあたりの王妃になるだろう」

野心的なガーネリアンの発言を思い返す。
彼女はそのために頑張ってきたのだった。

パリス。
リリアスはパリスと聞いてどきっとする。



「キスをして、、」
話し疲れて、リリアスはムハンマドのキスをねだった。

「今度私と踊っておくれ。氷の城で踊ったよりも上手になったか?」

「もちろん!」

二人は濃厚なキスを与え合い、味わう。
赤毛の王妹と交わしたキスがお子さまのキスに思えるものだった。



ムハンマドは身支度を整える。
リリアスはすっかり眠ってしまっていた。
部屋を出ようとしてドアの下から差し込まれていた二つ折の手紙に気がついた。


妹のお礼をいいたい
図書館にて待つ


署名もないのにもかかわらず、ムハンマドは誰からのメッセージかすぐにわかった。
それは、手のなかで一瞬で灰になった。


王宮との森と隣接する図書館でバーライトは一人待つ。

(こないか、、、)
しばらく本のページをめくってみる。
そろそろ王宮に戻る時間だった。

(そうか、今日は弟の日だったか)

ムハンマドは最近、長期で王都をあけることはない。
離宮とは別に、割合大きな邸宅を拠点にしているようだった。
バーライトは静かに図書館を立ち去った。


もう一人の赤毛の王弟のスティルは、翌朝、食堂で黒髪を探した。
黒髪は、いつもの三騎士と金髪の男と、他に何人かと一緒に食事をしていた。
昨日のダンスのときと違って、髪をざっくりひとつに束ね、男姿だった。
いつもなら、兄たちとはどうであれ、全く関係のない愛人なのだから気にもかけない振りをしているのだが、今日のスティルは違っていた。

「リリアス」

呼び掛けるとテーブルについていた皆が驚いて顔を上げた。
リリアスも顔をあげる。
黒曜石の神秘的な目が煌めいていた。

「昨日はそのう、わたしは、、」
(なんにも力になれなかった)

誰にもわからなかったかもしれないが、スティルだけは自分が情けなかったのを知っている。
炎を鎮めたのは、ガーネリアン自身で、ガーネリアンを鎮めたのはリリアスだった。
あれからガーネリアンの姿は見ていない。
バーライト兄に昨日の件は伝わっているだろう。

「わたしを弟子にしてほしいんだ!」

リリアスは目を丸くした。
「弟子って何の??」

「精霊の加護の力を使いこなせるようになりたいんだ!」
思いがけず、大きな声になった。

「精霊の加護って伝説だろ?バラモン国の建国の時の、、、」

ざわざわと食堂がざわめき、誰かがささやいたのが聞こえてきた。
食堂中に響く大きな声を出してしまっていたようだった。

リリアスは軽く答える。
「弟子?いいけど??」

アルマンは、それって騎士を受け入れた感じと似てるんだけど!!と思ったのだった。



赤毛の王妹  完
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる

尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる 🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟 ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。 ――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。 お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。 目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。 ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。 執着攻め×不憫受け 美形公爵×病弱王子 不憫展開からの溺愛ハピエン物語。 ◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。 四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。 なお、※表示のある回はR18描写を含みます。 🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。 🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます! 婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

処理中です...