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パリスの第一王子
28、カルサイトを助けた者
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パリス国第一王子カルサイトは自分への襲撃以降、少し立ち位置に気を使う。
まさか、風の加護の力を使っての襲撃を、精霊の力が失われつつあるバラモンで受けるとは思わなかったのだ。
加護の力があるものに本気でこられると、危うい場合は多い。
側近の二人は間に合わなかっただろう。
カルサイト自身は衝撃を覚悟した。
ありえないほど真っ直ぐに向かってきた矢を彼からそらせたのは、頬肉や髪、まぶたと、体前面を厚く撫で上げた上昇気流の風の壁だった。
(ここに、風の加護を使えるものが他にもいる!)
瞬間に見回す。
その者はカルサイトを助けたところをみると敵ではない。
バラモンの王と王弟は火の加護を持つ話は聞くが、風の加護の力の話は聞いたことがない。
王の後ろに控える二人は襲撃に気がついていない。
「私の弟のセージが出ますわ!!」
なんて、王妃同士で話している。
カルサイトは王弟の黒髪の愛人をみた。
昨日気に入ってから王妃シーラの話を聞き、調べさせたがこの愛人はなかなか数奇な人生を歩んでいるようだった。
現在も学校は男クラス、女クラス両方を受けているという。
昨日は、男姿ではあったが、まるでカルサイトには何の不自然も感じなかった。
(つい、構ってしまいたくなる感じはわかる、、)
現に、カルサイトもパリスに連れて帰りたくなったのは確かである。
この黒髪の若者の、数奇な運命はまだ続くかもしれないと思う。
その狙撃の瞬間、件の黒髪のリリアスは、矢に気がつき、腰を浮かせていた。
目を見開いて、矢の行方を最後まで追っていた。
肩をかすめたのを確認して、すぐに矢がきた方向に顔を向ける。緊張で全身が張り詰めているのが傍目にもわかる。
それから、息を吐くと何事もなかったかのように席につく。
バラモンの両脇の王と王弟も立ち上がっている。
瞬時にバーライトが親衛隊を呼び、指示を
する。ムハンマドも何事か指示し、狙撃手を逃がさない命令を飛ばす。
「カルサイト殿下、御無事ですか?」
バーライト王は、目の前で行われた暴挙に青くなり、彼の前に親衛隊が立つ。
カルサイトの前にも、側近が盾となる。
「不逞のやからがいるようです。ひとまずここから退きませんか?」
カルサイトは側近を下げさせた。
「まだ襲ってくるようなら、たて続けに放ってくるだろう、これは脅しのような一矢だ。厳戒体制となるからもう、狙えないだろう」
自分を狙うのは弟のルージュだろうと思う。
父王の体調は非常に悪く王位の交代も間近ではある。第二王子のルージュは、以前は周囲が囃し立てるぐらいであったが、最近は、弟自身も王座を狙う素振りを見せていた。
異国の地で、邪魔な兄王子を異国の蛮族に殺られた体裁を整え、ルージュには容疑が向かないようにする。
かつバラモンに蛮族を粛清させ、バラモン国の力をそぎ、侵略の足掛かりをつけることも考えられるかもしれなかった。
「ですが、、」
バーライト王はいいよどむが、カルサイトが引くつもりがないのを見ると、カルサイトの後ろに刺さる矢の検分を指示する。
「みたところ、ジャンバラヤ族のものに見えるが、そう装ったものである可能性もある。確認はしますが、カルサイトでんかもすぐに、決めつけないでくださいますか?」
そう話している間に、黒髪の若者は蒼白な顔をして立ち上がった。
何やらムハンマドにいい席をはずす。
バーライト王も視線で追っていることに、カルサイトは気がついた。
ムハンマドは不機嫌に矢の放たれた方向をにらんでいた。
彼から立ち上る怒りの炎が見えるようで、
彼を怒らせることはやめておくのがよいようだった。
午前の部が終わり、午後の部。
屋台を厳戒体制で巡り、学生たちの屋台食をいただく。
「ほんとうにこんなもので申し訳ありません!」
といいながら、接待役のシーラともう一人の妻は楽しそうだ。
バーライトとムハンマドはそれぞれの、警備兵、警察兵団と打ち合わせにでている。
黒髪の若者は昼前に出てから戻ってこない。
明らかに、あの一矢から態度がおかしい。
(風の加護をもっているのは彼だ)
これは確信である。
彼はどこにいったのだろうと思って、人混みを探す。
カルサイトには自分の側近二人がつく。さらにつけようとする王弟の申し出を断っていた。
そして、青い顔をしながら、歩いてくるリリアスを見つける。
彼に学生の何人かが気がつき、心配そうに声をかけられていた。
「リリアス?大丈夫かよ?顔色が悪いよ!救急室に休みにいく?」
「大丈夫、ちょっと気分が悪いだけ、部屋で休むから、、、ムハンマドを、、」
カルサイトはリリアスに駆け寄る。
リリアスは限界だった。
カルサイトは崩れ落ちるリリアスを支える。
「カルサイト様、どうなさるのです」
カルサイトがリリアスを抱きかかえるのをみて、側近が声をかける。
「貧血か?少し横になれるところまで運ぶだけだ」
「なら、私が、、」
といいかけるのを遮る。
「場所ならここからなら救護室か、リリアスの部屋かというところかしら?」
シーラは落ち着いていう。
「彼の部屋に運ぼう」
カルサイトは学生に案内を頼む。
ムハンマドにも連絡を頼む。カルサイトからみてもムハンマドの黒髪の若者に対する執着度合は強そうだった。
お気に入りを部屋に運んで休ませる、それだけのはずだった。
まさか、風の加護の力を使っての襲撃を、精霊の力が失われつつあるバラモンで受けるとは思わなかったのだ。
加護の力があるものに本気でこられると、危うい場合は多い。
側近の二人は間に合わなかっただろう。
カルサイト自身は衝撃を覚悟した。
ありえないほど真っ直ぐに向かってきた矢を彼からそらせたのは、頬肉や髪、まぶたと、体前面を厚く撫で上げた上昇気流の風の壁だった。
(ここに、風の加護を使えるものが他にもいる!)
瞬間に見回す。
その者はカルサイトを助けたところをみると敵ではない。
バラモンの王と王弟は火の加護を持つ話は聞くが、風の加護の力の話は聞いたことがない。
王の後ろに控える二人は襲撃に気がついていない。
「私の弟のセージが出ますわ!!」
なんて、王妃同士で話している。
カルサイトは王弟の黒髪の愛人をみた。
昨日気に入ってから王妃シーラの話を聞き、調べさせたがこの愛人はなかなか数奇な人生を歩んでいるようだった。
現在も学校は男クラス、女クラス両方を受けているという。
昨日は、男姿ではあったが、まるでカルサイトには何の不自然も感じなかった。
(つい、構ってしまいたくなる感じはわかる、、)
現に、カルサイトもパリスに連れて帰りたくなったのは確かである。
この黒髪の若者の、数奇な運命はまだ続くかもしれないと思う。
その狙撃の瞬間、件の黒髪のリリアスは、矢に気がつき、腰を浮かせていた。
目を見開いて、矢の行方を最後まで追っていた。
肩をかすめたのを確認して、すぐに矢がきた方向に顔を向ける。緊張で全身が張り詰めているのが傍目にもわかる。
それから、息を吐くと何事もなかったかのように席につく。
バラモンの両脇の王と王弟も立ち上がっている。
瞬時にバーライトが親衛隊を呼び、指示を
する。ムハンマドも何事か指示し、狙撃手を逃がさない命令を飛ばす。
「カルサイト殿下、御無事ですか?」
バーライト王は、目の前で行われた暴挙に青くなり、彼の前に親衛隊が立つ。
カルサイトの前にも、側近が盾となる。
「不逞のやからがいるようです。ひとまずここから退きませんか?」
カルサイトは側近を下げさせた。
「まだ襲ってくるようなら、たて続けに放ってくるだろう、これは脅しのような一矢だ。厳戒体制となるからもう、狙えないだろう」
自分を狙うのは弟のルージュだろうと思う。
父王の体調は非常に悪く王位の交代も間近ではある。第二王子のルージュは、以前は周囲が囃し立てるぐらいであったが、最近は、弟自身も王座を狙う素振りを見せていた。
異国の地で、邪魔な兄王子を異国の蛮族に殺られた体裁を整え、ルージュには容疑が向かないようにする。
かつバラモンに蛮族を粛清させ、バラモン国の力をそぎ、侵略の足掛かりをつけることも考えられるかもしれなかった。
「ですが、、」
バーライト王はいいよどむが、カルサイトが引くつもりがないのを見ると、カルサイトの後ろに刺さる矢の検分を指示する。
「みたところ、ジャンバラヤ族のものに見えるが、そう装ったものである可能性もある。確認はしますが、カルサイトでんかもすぐに、決めつけないでくださいますか?」
そう話している間に、黒髪の若者は蒼白な顔をして立ち上がった。
何やらムハンマドにいい席をはずす。
バーライト王も視線で追っていることに、カルサイトは気がついた。
ムハンマドは不機嫌に矢の放たれた方向をにらんでいた。
彼から立ち上る怒りの炎が見えるようで、
彼を怒らせることはやめておくのがよいようだった。
午前の部が終わり、午後の部。
屋台を厳戒体制で巡り、学生たちの屋台食をいただく。
「ほんとうにこんなもので申し訳ありません!」
といいながら、接待役のシーラともう一人の妻は楽しそうだ。
バーライトとムハンマドはそれぞれの、警備兵、警察兵団と打ち合わせにでている。
黒髪の若者は昼前に出てから戻ってこない。
明らかに、あの一矢から態度がおかしい。
(風の加護をもっているのは彼だ)
これは確信である。
彼はどこにいったのだろうと思って、人混みを探す。
カルサイトには自分の側近二人がつく。さらにつけようとする王弟の申し出を断っていた。
そして、青い顔をしながら、歩いてくるリリアスを見つける。
彼に学生の何人かが気がつき、心配そうに声をかけられていた。
「リリアス?大丈夫かよ?顔色が悪いよ!救急室に休みにいく?」
「大丈夫、ちょっと気分が悪いだけ、部屋で休むから、、、ムハンマドを、、」
カルサイトはリリアスに駆け寄る。
リリアスは限界だった。
カルサイトは崩れ落ちるリリアスを支える。
「カルサイト様、どうなさるのです」
カルサイトがリリアスを抱きかかえるのをみて、側近が声をかける。
「貧血か?少し横になれるところまで運ぶだけだ」
「なら、私が、、」
といいかけるのを遮る。
「場所ならここからなら救護室か、リリアスの部屋かというところかしら?」
シーラは落ち着いていう。
「彼の部屋に運ぼう」
カルサイトは学生に案内を頼む。
ムハンマドにも連絡を頼む。カルサイトからみてもムハンマドの黒髪の若者に対する執着度合は強そうだった。
お気に入りを部屋に運んで休ませる、それだけのはずだった。
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