王族の子【4】~古き血族の少年の物語

藤雪花(ふじゆきはな)

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パリスの王女

34、温泉湯治場

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ガーネリアンとアンジェラの部屋で相談する。
ガーネリアンとジュリアは王族同士ということで、わかりあえるところも多い。
以前、ガーネリアンとリリアスが熱いキスをしたことは有名である。
ジュリアはガーネリアンにもう少し親密な関係に進んでもらおうと思ったのだ。
それとなく進展を勧めると、ガーネリアンは端から見ていてかわいそうなほど真っ赤になった。
そして、同室のアンジェラを見る。

「わたしはあの時のあれで満足したのです!!わたしには、それ以上なんて無理です!」

(学校を燃やしてしまいます!)

「ではアンジェラは?」

ジュリアが見るところ、アンジェラも控目な彼女にしてはリリアスのことを相当好きである。

学園祭ではアンジェラは、大きな刺繍で百の花のタペストリーを作っていた。
その中心にあるのはゆりの花(リリー)だった。
それは、寮の部屋の壁一面を占領している。

「わたし、ですか!!」
一瞬アンジェラは乗り気になったが、すぐに落ち着く。

「わたしはそばにいるだけで、同じ空気を吸っているだけで満足です!!」


ジュリアのひとつめの作戦は、脱がなくてはならない状況に持っていくことである。
「温泉だって??」

アルマンを誘う。
つい最近、アルゴンの町から少し離れたところに新しい温泉湯治場ができたという話だった。

「剣術試合頑張っていたでしょう?皆でいかない?」
アルマンはすっかり乗り気だった。

「ええ~?温泉!それは良さそうだけど」
リリアスは警戒する。
「僕は温泉に入らないけど一緒にいくだけならいいよ」

ということで、次の休みに外出許可を得て一日小旅行となったのだった。


アルマンとトム、ジュリアとアンジェラ、そしてリリアス。
砂漠の民は馬に乗れる。しかし、ジュリアとアンジェラはアルマンとトムのペアで乗る。
全員パンツスタイルである。

「わたしはリリアスさまと一緒でも良かったのですよ」
とアンジェラ。

アルマンが美貌のジュリアを気に入っているように、トムもアンジェラを悪くは思っていない。
彼らの騎乗姿を見て、リリアスはこの組み合わせは良いのかも?と思う。

リリアスは砂漠に出るのは久々だった。
アルゴンの城壁をくぐり、田園を抜ける。
護衛も付けず、男装の女性とのペアで馬を駆る姿は二度見を誘う。

(このペアたちもいいかも!!)

リリアスはムハンマドがいないのを寂しく思わずにはいられない。
今回は事後報告予定だ。

次第に、畑は姿を消し、岩場の多い砂漠を抜けていく。
久々に乾いた風がリリアスの頬を、髪を抜けていく。

30分も馬を走らせれば目的地に着いた。
そこはジャンバラヤ族が管理する砂漠の湯治場だった。
ジャンバラヤ族の年配の男は、品の良いお客達に驚くも、丁寧に案内する。
リリアスも見るだけと思い、ついていく。
男湯、女湯は別々にテントが張られていた。
テントの逃がし穴から湯気があがっている。

「入らないのでしたら、先にみませんか?」
とのジュリアの誘いにリリアスは乗ってしまう。
天然の温泉もしばらくはいっていない。
貸切状態にアルマンはしてくれている。
誘われるまま、女湯に顔を覗かせた。
大きなテントの中は天然の岩場を整えて、豊かな湯と、蒸気を惜しげもなくもうもうとあげていた。
ぶわっと吹き付ける蒸気が、肺に肌に心地よい。

「リリアスさま、足元がお悪いので気を付けて、、」
とアンジェラ。

声をかけたが、中には入らず早速脱衣場に直行するようだった。
リリアスはかがんで手を差し入れた。
少し熱めの湯が乗馬で傷んだおしりや筋肉痛予防に良さそうだった。
もちろん、アルマン達の筋肉痛や打ち身などにも非常に良い。
誘ってくれたジュリアに感謝である。

(天然の炭素水素温泉だ。疲れがよくとれそう)
入りたいな、なんて思ってしまう。

かがんでいるリリアスの後ろにたってジュリアはタイミングを計る。
これこそ、ジュリアが企画した今回の最大のイベント、待ちに待った瞬間だった。

「温度は熱そうですけど、リリアスさまは入らなくて良いのですか?」
といいつつ、ジュリアも近付き、そして足を見事滑らせる。

「きゃあっ」

リリアスに、ではなく、リリアスの横へ、だ。
リリアスは手を伸ばして支えようとして、慌ててジュリアと二人豪快にしぶきを撒き散らしながら、湯にどっぷり落ちた。
ジュリアの思惑した通りだった。

勢いがつき二人は一瞬頭の先まで湯に浸かる。ジュリアは熱い湯に落ちる衝撃で、思わず湯を飲み込んでいた。
助けようとするリリアスの腕と体が絡まり、よけいパニックになる。
溺れるっ!と思った時、脇をかかえられて、上半身を湯から引き上げられていた。
湯は思ったより浅い。
溺れると思ったのが嘘のようだった。

「あなたは、私よりお転婆だとはおもっていましたが、、」

ジュリアは金茶の顔にはりついた髪をかきあげられた。
目を開くと、同じくどっぷり頭の先まで湯を浴びて湯に浸かる、黒曜石の濡れたひとみがジュリアを覗きこんでいた。
これから、リリアスは脱いで服を乾かさねばならない。これが確認するチャンスだった。

我知らずふるえる手で、ジュリアはリリアスの腕をつかんでいた。
ジュリアは黒曜石の宝石のような瞳にからめとられた。

ジュリアの心臓が早鐘を打つ。
ジュリアを見るその目は懐かしさとジュリアの理解できない複雑な表情を浮かべていた。
ふっとリリアスの顔が弛む。

「あなたの目はカルサイトよりルージュに似ているね」
思わぬ名を聞く。

リリアスの目に写っているのは、ジュリアではなく、兄のルージュだと分かる。
ルージュとリリアスが知り合いなんて聞いたことがなかった。

「ルージュ兄さまを知っているの?」

「昔、昔に、、」

ジュリアはそのまま、立たせられ、リリアスと一緒に湯から上がる。
下着までぐっしょりの濡れ鼠だ。

「ジュリアは着替えは?」

「もっていませんわ、乾かさないと」

「僕も持っていない」

リリアスは迷う様子を見せたが、ジュリアを軽く胸に抱いた。
また、パニックになりそうになる。

「じっとしていて」

温泉のものではない、温かい乾いた風が二人の服を、髪をまきあげる。
心地よい風だった。

「ルージュと連絡を取ったりしているの?」
まだ抱き締められたまま。
風は二人の間や服の間も通り抜ける。

「え、ええ、、」

充分乾いたと思う頃、ジュリアは本題を思い出した。
ぐっと背中に手を回して体を押し付ける。
胸は晒しでなんとかなるかも知れないか、下の男の印は隠しきれないはず。
リリアスもジュリアもそんなに固いパンツではない。
男なら、なんからの存在感があるはずだった。

「あ、、」

強くジュリアから抱き返されて、リリアスが少したじろいで体を後ろに引く。
ジュリアは、逃さず引かれた分を追い詰める。
すると、腕を掴む思わぬ強い力でジュリアは引き離された。

「ほら、乾いたよ」

リリアスは少し顔を赤くして、怒ったような困ったような顔をしていた。
二人の服はすっかり乾いていた。


ジュリアがわかったこと。
リリアスは風と火の精霊の力を使えるということ。
二つは精霊の力がまだ残るパリスでも聞いたことがない。

そして一番大事なことだが、リリアスは女子たちの大多数の予想をはずして男ということだった。
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