王族の子【4】~古き血族の少年の物語

藤雪花(ふじゆきはな)

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パリスの王女

36、嘆願書

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王都国立ではひとつの運動が起きていた。

はじめは女子の男装から始まっていたが、今では機能的で動きやすいパンツスタイルは、女子の日常の選択肢のひとつとなっていた。

そして、新学期に向けて、署名活動がはじまる。
男女のクラス別編成を取り払ってほしいというものだった。

バラモン国内では男女の役割りは伝統的に分かれてはいたが、最近では親衛隊に女子を取り込むムハンマドなど、積極的に女子の登用が始まっていた。そして、それはうまくいっている。

それらの例からも、これからの国造りには男女の別なく、優秀なもの、やる気のあるものを積極的に登用していくべきではないか、そのための訓練の学習の場に、王都国立は率先してなるべきとの主張である。

そして、女性だけでなく男性にも、閉ざされていた門戸を開いて自分らしい生き方を選択できるようにするべきではないか、と。


バーライトは王親展で届けられた嘆願書をムハンマド王弟に手渡した。
ムハンマドはざっと目を通した。

「こんな物が届いているのだか、、」
署名200名。ほぼ女子全員だ。

「リリアスの特例を全生徒に拡大してほしい、ということのようだが」

ムハンマドもむっつり返事する。
「同じようなものが学校にも届いている。明日、理事会が開かれる予定になっている」

「どうするのだ?」

「男女区別なく受けられるクラス枠を増やさねばならないだろうな。このままだと、女子全員が学校をボイコットしかねない」

「最近リリーの周りで男か女かで騒がしかったようだから、学びの場はこの際ほぼ全廃でよいのではないか?」
とバーライト。

その発言にムハンマドは眉を上げた。
「あなたの情報源はいつも素晴らしいな。いったい誰を使っている?」

「教えたら隠密の価値が下がろう?」

はははっとそうだな、と笑ってムハンマドは下がった。 
バーライトは手にもった嘆願書の最後の名前を眺めた。


  代表 ジュリア  ウィルソ  パリス


学園祭の出し物で、主人公の男装の女性を演じたはねっ返りの金茶の美貌のパリス国の王女だった。
バーライトの三人目の妻の座は空白のまま。
その座に、という話も出ている。

バーライトとしてはパリスとの友好を強固にするためにそれもやむを得ないと思っている。
別の言い方をすれば、パリスからの美貌の姫を人質にとも、貢ぎものにともとれる。
が、出来すぎる野心的な王妃は少し厄介だった。
ムハンマドかスティルか、と思うのだが、ムハンマドは頑として受け付けないだろう。

スティルはまだ12歳。
できれば彼に押し付けたい。

自分と政略結婚となった場合、様々な苦労がありそうな気がするのだった。


ジュリアは来年から男女別のクラスがダンスを含めた数種類の限られたものだけになり、自由に選択できるようになる掲示板を見ていた。

これは、学生が学校を動かした王都国立の歴史に残る最大の出来事だった。
ジュリアにしてみれば、男子が女子クラスを受けるならば、女子だって男子クラスを受けてもいいでしょ?とのリリアスに対抗しての思い付きだったのだが、それがみるみる学校中を巻き込む、男女同権的な運動に発展してしまったのだ。

「皆も自由にクラスを選択できるようになるんだね」

掲示板を眺めるジュリアに、リリアスが声を掛けた。
実はこの歴史的快挙に一番喜んだのはリリアスである。
男女合同のクラスではリリアスは自分をどちらがわに寄せるか意識しないで、素のままでいられるような気がするのだ。

「あの話なんだけど、、」

「?」

「私はルージュと同腹の子なの」

いきなりの話にリリアスは面食らう。
「えっと、お茶でもしなら話する?」

リリアスはテラス席の学内のカフェを指したが、「そうだわ!お茶ならここでは珍しいものがあるの、部屋にこない?」
と誘われる。

「じ、女子寮~!?」

「あなたなら問題ないわ!」

リリアスは数週間前に、抱き締められたことを思いだす。
性別が違うとはいえ、ルージュとそっくりなジュリアに警戒心が湧く。
だが、リリアスはルージュの最近の様子を知りたくて、招待を受けることにした。


ジュリアの部屋は簡易な流しのある特別仕様の独り部屋だった。
さすが、パリスの王族の子である。
リリアスは豪華な部屋にどきどきしながら入る。

「お茶はパリスの特産品のお茶なの。泡立てるように混ぜる、、」

「ああ、これなら知ってる。懐かしいね」

樹海では儀式の前に、眠気覚ましにいただいていたお茶だ。
苦いお茶なので甘い菓子とよく合う。

「兄たちとは割りとよく手紙のやり取りはしているんだけど、兄のカルサイトがあなたのことを元気かときいているわよ。学園祭のとき急に午後から倒れていたでしょう?」

カルサイトはルージュによく似た優しい表情の兄だ。
ジュリアは人を見かけで判断してはいけないことを知っている。

「カルサイトは無事に帰国したんだ」

少しほっとする。バードが無茶をしないでいてくれたなら良かった。
ジュリアはリリアスの表情を読み解こうとしていた。

「それでね、あなたのこと、ルージュお兄さまにも手紙に書いたのよ。黒髪の女装で授業を受けるクラスメイトがいて、それでみんなも自由に授業を受けられるようになればいいって、、」

リリアスはお茶の陶器の器を取り落としかけた。

「名前も書いたの?あなたの手紙に」
かぶりをふる。
「書いてないわ。ほんの一行書き添えただけだわ。いつもは一ヶ月以上は一回の手紙のやり取りに間が空くのに、すぐに返事が返ってきたのよ」

ジュリアはルージュの手紙をリリアスに寄越した。
リリアスは震える手で受けとる。
シンプルな手紙だった。


その黒髪の若者は私の古くからの友人だと思う。
名をリリアスというのではないか?
彼のことを毎回教えてほしい。
どんな些細なことでもうれしい。


「あなたはルージュお兄さまとどういう知り合いなの?聞いていいのかしら?」


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