黒き刻印と騎士団長に捧ぐ心

ゆゆじ

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プロローグ

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民衆の心を表すように曇った空が城の石壁に深く陰を落としている。リュシアンはその陰の中、誰にも見せない顔をしていた。

「……本当に、戻ってきた」

胸の奥の焦燥を揺らすかのように冷たい風が頬を掠める。刻印が首筋をじりじりと締めつけ、熱く、痛みを伴う代償がリュシアンを苛んでいた。
帝国を血に沈めた最悪の未来から、寿命を代償に時間を巻き戻すことに成功した。過去の自分が見過ごしてしまった冤罪、救えなかった命、そのひとつひとつを取り戻すためにリュシアンは戻ってきたのだ。

城内の灯りはまだまばらで、誰もリュシアンの表情には気付いていない。
表向きは冷酷な皇子⸻内心は焦燥と恐怖と、祈りで満ちながら悪虐の仮面を被り直した。

「必ず助ける……子爵」

リュシアンは誰にも届かない声で呟いた。
目の前にはこれから無実の罪で処刑される者がいる。悲壮げな顔をする者、愉悦に満ち溢れた顔をする者、罵詈雑言を浴びせる者、様々な民衆に囲まれ無実の子爵は処刑場の真ん中で、その日の皇帝の気分により処刑が決められたために絶望に目を濁らせ項垂れていた。子爵の家族もまた、絶望に顔を歪ませその姿を見ている。叫んだり、泣いたりしてしまうと一緒に処刑されてしまうため悲しむこともできずに…。


これから始めることは、誰にも知られてはいけない。帝国を血に沈めた未来の発端である今日。子爵の命を救うため、再びこの地に戻ってきたのだから。
この命と引き換えに、未来を変えてみせる⸻固い決意を胸にリュシアンは一歩を踏み出した。

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