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冷えた石畳を踏みしめるたび靴底に鈍い痛みが伝わってくる。明け方の空はまだ群青に近く東の端がかすかに白み始めていた。鳥の声は遠く、城下はしんと静まり返っている。リュシアンの熱を帯びた呼吸音だけが熱を帯び荒く響いた。
(こんなの…聞いてないぞ)
子爵を逃した後、リュシアンはしばらくひとりで佇んでいた。
だが突然、首の刻印が熱を帯び始めた。時間が経てばおさまるかとそのまま廃棄場にいたが、熱は収まるどころか刻々と強まり、皮膚は火にあぶられるようだった。
「……これは代償か…?」
熱い息を吐きながら首筋を押さえる。リュシアンからは見えないが、そこには新たな刻印の痕が赤く浮かんでいる。
刻印から走る熱はどうしようもなくリュシアンの体を昂ぶらせていた。
リュシアンの足取りはどうしようもない昂りにふらついていた。だが背筋だけは真っすぐに保ち表面上は何事もないように見せている。人目に触れればただでは済まない。夜明けの警備の目を避けながらリュシアンは皇子宮へ続く長い石の回廊を懸命に歩いた。薄明かりに濡れる石壁がじっとりと冷たく、対照的に体は熱に浮かされ呼吸を整えるたびに喉が震える。
やっとの思いで自室の前にたどり着き、扉を開ける。本来ならば扉の前は護衛騎士が見張っているが、ある事情ゆえにリュシアンを守る専属騎士はいない。この時ばかりは好都合だった。
中には、すでに灯された小さな燭台の光⸻そして、立ち上がる影があった。
「……遅かったですね、リュシアン様」
低く、しかし明らかに安堵のにじむ声。唯一の侍従⸻セドリックがそこにいた。深い緑の瞳をこちらに向け、次の瞬間には眉を寄せて駆け寄ってきた。
「護衛もつけずに、ちょっと行くからと…やっと戻ってこられたと思ったら次はどうされたのですか!? 顔が赤く汗までかいておられる様ですが」
やっとの思いで帰ってきた途端、昔からの侍従の小言にリュシアンは思わず背を壁に預けた。一気に緊張が解けたために熱が一段と強まり、視界が揺れるようだった。
「……平気だ。少し……遅くなっただけだ」
口ではそう告げながらもリュシアンの体は言うことを聞かない。見かねたセドリックはリュシアンの腕を取り強く支えた。
「平気などではありません!お体が熱い……発熱……?」
「……違う……」
リュシアンはかすれた声で否定したがそれ以上は言葉にできなかった。そんな様子にセドリックは困惑しつつも必死にリュシアンを支える。
「では……これは……一体……」
「……言うな。今は……落ち着かせるしかない。だから、外してくれ」
「っ、ですが」
「…頼む」
いつにもなくリュシアンの弱々しい姿にセドリックは困惑した。だが、リュシアンの懇願に目を大きく見開き戸惑いつつも頷いた。
「……わかりました。ですが……後で必ず、何があったのか教えていただきますからね」
セドリックの念を押すかの様な声が真摯に響いた。リュシアンは小さくうなずいた。真実を話すつもりはないが、今はただこの昂ぶりを抑えねばならなかった。
セドリックが出ていくのも見届けることなく、リュシアンは衣の留め具に指をかけた。熱に浮かされ震える指を懸命に抑えながらゆっくりと留め具を外していく。肌に冷たい空気が触れた瞬間、敏感になった神経が一斉に震えリュシアンは低く息を吐いた。
「……っ、は……」
声を押さえようとするが、どうしても零れてしまうようだった。今までになく敏感に全てを感じてしまう体に一瞬ためらったが、すぐに唇を固く結び直し胸元に触れた。胸の先が疼いてたまらなかった。
「……んっ、」
すでに硬く、指が少し掠めただけでも耐え難い快楽に襲われた。初めて感じる胸先の快感にリュシアンは耐えきれず小さく身を捩らせた。
「……っ、は……っっあ、っ」
声を震わせながら、もう一つの手でリュシアンは高まっている己にも手を這わせた。
熱に浮かされ、感覚が一層鋭くなっていく。そこはすでに先走りが溢れ糸を引き、今までにないほどに昂っていた。
「…っんん、っ…ぁ、あっ」
衣服がずり落ち、首筋の刻印が露わになる。刻印から走る熱はリュシアンの全身を敏感に昂らせていた。どうしても零れてしまう声。顔はすでにだらしなく快楽にとろけている。
リュシアンの手が動き出す。ぎこちないが懸命に感じるところを擦っている。熱に浮かされた身体はすぐに反応し、腰が弓なりに反った。快楽により力の入らない体は耐えきれず、ベットに倒れる。
「……っ、んんんんぅっっ……」
リュシアンは懸命に声を抑えようとしていたが堪えられないようだった。己を扱く動きはさらに速さを増していく。もはや声を抑えることは叶わず息が荒くなる。額から汗が落ち、首筋の刻印を伝った。昂ぶりはすでに爆発寸前だった。
「……っ、もう……っっっ」
吐息が震え限界が近いと悟る。次の瞬間、白い閃光のような快楽が駆け抜けた。熱が一気に噴き出し全身が痙攣する。
「……っん、あぁぁああ……っっ」
指先から熱が零れ落ちた。
静かな空間にリュシアンの荒い呼吸が響く。
余韻に体を震わせながらリュシアンはゆっくりと目を閉じた。熱はまだ残っているが先ほどのような昂ぶりはない。
「……くそ、こんな代償聞いてない…」
かすれた声で呟き、束の間の安堵に身を委ねた。
(こんなの…聞いてないぞ)
子爵を逃した後、リュシアンはしばらくひとりで佇んでいた。
だが突然、首の刻印が熱を帯び始めた。時間が経てばおさまるかとそのまま廃棄場にいたが、熱は収まるどころか刻々と強まり、皮膚は火にあぶられるようだった。
「……これは代償か…?」
熱い息を吐きながら首筋を押さえる。リュシアンからは見えないが、そこには新たな刻印の痕が赤く浮かんでいる。
刻印から走る熱はどうしようもなくリュシアンの体を昂ぶらせていた。
リュシアンの足取りはどうしようもない昂りにふらついていた。だが背筋だけは真っすぐに保ち表面上は何事もないように見せている。人目に触れればただでは済まない。夜明けの警備の目を避けながらリュシアンは皇子宮へ続く長い石の回廊を懸命に歩いた。薄明かりに濡れる石壁がじっとりと冷たく、対照的に体は熱に浮かされ呼吸を整えるたびに喉が震える。
やっとの思いで自室の前にたどり着き、扉を開ける。本来ならば扉の前は護衛騎士が見張っているが、ある事情ゆえにリュシアンを守る専属騎士はいない。この時ばかりは好都合だった。
中には、すでに灯された小さな燭台の光⸻そして、立ち上がる影があった。
「……遅かったですね、リュシアン様」
低く、しかし明らかに安堵のにじむ声。唯一の侍従⸻セドリックがそこにいた。深い緑の瞳をこちらに向け、次の瞬間には眉を寄せて駆け寄ってきた。
「護衛もつけずに、ちょっと行くからと…やっと戻ってこられたと思ったら次はどうされたのですか!? 顔が赤く汗までかいておられる様ですが」
やっとの思いで帰ってきた途端、昔からの侍従の小言にリュシアンは思わず背を壁に預けた。一気に緊張が解けたために熱が一段と強まり、視界が揺れるようだった。
「……平気だ。少し……遅くなっただけだ」
口ではそう告げながらもリュシアンの体は言うことを聞かない。見かねたセドリックはリュシアンの腕を取り強く支えた。
「平気などではありません!お体が熱い……発熱……?」
「……違う……」
リュシアンはかすれた声で否定したがそれ以上は言葉にできなかった。そんな様子にセドリックは困惑しつつも必死にリュシアンを支える。
「では……これは……一体……」
「……言うな。今は……落ち着かせるしかない。だから、外してくれ」
「っ、ですが」
「…頼む」
いつにもなくリュシアンの弱々しい姿にセドリックは困惑した。だが、リュシアンの懇願に目を大きく見開き戸惑いつつも頷いた。
「……わかりました。ですが……後で必ず、何があったのか教えていただきますからね」
セドリックの念を押すかの様な声が真摯に響いた。リュシアンは小さくうなずいた。真実を話すつもりはないが、今はただこの昂ぶりを抑えねばならなかった。
セドリックが出ていくのも見届けることなく、リュシアンは衣の留め具に指をかけた。熱に浮かされ震える指を懸命に抑えながらゆっくりと留め具を外していく。肌に冷たい空気が触れた瞬間、敏感になった神経が一斉に震えリュシアンは低く息を吐いた。
「……っ、は……」
声を押さえようとするが、どうしても零れてしまうようだった。今までになく敏感に全てを感じてしまう体に一瞬ためらったが、すぐに唇を固く結び直し胸元に触れた。胸の先が疼いてたまらなかった。
「……んっ、」
すでに硬く、指が少し掠めただけでも耐え難い快楽に襲われた。初めて感じる胸先の快感にリュシアンは耐えきれず小さく身を捩らせた。
「……っ、は……っっあ、っ」
声を震わせながら、もう一つの手でリュシアンは高まっている己にも手を這わせた。
熱に浮かされ、感覚が一層鋭くなっていく。そこはすでに先走りが溢れ糸を引き、今までにないほどに昂っていた。
「…っんん、っ…ぁ、あっ」
衣服がずり落ち、首筋の刻印が露わになる。刻印から走る熱はリュシアンの全身を敏感に昂らせていた。どうしても零れてしまう声。顔はすでにだらしなく快楽にとろけている。
リュシアンの手が動き出す。ぎこちないが懸命に感じるところを擦っている。熱に浮かされた身体はすぐに反応し、腰が弓なりに反った。快楽により力の入らない体は耐えきれず、ベットに倒れる。
「……っ、んんんんぅっっ……」
リュシアンは懸命に声を抑えようとしていたが堪えられないようだった。己を扱く動きはさらに速さを増していく。もはや声を抑えることは叶わず息が荒くなる。額から汗が落ち、首筋の刻印を伝った。昂ぶりはすでに爆発寸前だった。
「……っ、もう……っっっ」
吐息が震え限界が近いと悟る。次の瞬間、白い閃光のような快楽が駆け抜けた。熱が一気に噴き出し全身が痙攣する。
「……っん、あぁぁああ……っっ」
指先から熱が零れ落ちた。
静かな空間にリュシアンの荒い呼吸が響く。
余韻に体を震わせながらリュシアンはゆっくりと目を閉じた。熱はまだ残っているが先ほどのような昂ぶりはない。
「……くそ、こんな代償聞いてない…」
かすれた声で呟き、束の間の安堵に身を委ねた。
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