魔法使いとて、築15年(偽)・十二階建てマンションオーナーは色々と大変です

葛城3号

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第二話: 顔合わせ

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※今回、短めです。次の話に続くつなぎみたいなもの




ーーーーーーーーーーーーーーーーー




 ──さすがに自分で口に出した言葉を反故するつもりはない。


 そういうのは、流星自身が嫌っている事だからだ。なので、それじゃあ……と案内しようとした流星であったが。


「──あ、待ってください」


 その直前に、夏海より『待った』が掛けられた。

 もしや、心変わりしたのか……と一瞬ばかり期待したが、


「あの、姉妹も一緒でいいですか?」
「え?」
「その、私だけだと申し訳なくて……いいですか?」
「いいって、そりゃあお前……」


 ──駄目に決まっているだろ……とは、即答出来なかった。


 それは、夏海の目に不安と……罪悪感が滲んでいたから。

 見知らぬ男の家に行く事への不安ではなく、姉妹は断られる可能性に不安を覚えている……その点が不思議で、流星の注意を引いた。

 考えてみれば、そうだ。自分一人だけ得したと嬉しく思う人もいれば、どうして自分だけと逆に罪悪感を覚える子も居る。

 この子……夏美は、後者のようだ。

 もちろん、これはあくまでも穿った推測に過ぎないのだが、打算もあるのだろう。1人だけならともかく、姉妹と一緒なら協力して逃げ出す事も出来る……と。

 まあ、そういう推測を抜きにしても、見知らぬ他人ならともかく、わざわざ一緒に連れて行こうとお願いする辺り、姉妹の仲は悪くないのかもしれない。


(まあ、1人増えたところで……いや、姉妹と言うからには2人か。2人増えたところで、大した違いはないだろう)


 そう判断した流星は、構わないと告げる。

 すると、ほうっ、と吐いた溜め息と共に目に見えて肩の力を抜いた夏美は、ペコリと軽く頭を下げた後……足音を立てないように、室内へと入って行った。

 慣れているのか、見えているのか。足音を立てず、乱雑に放置されている物にぶつかる様子もなく、スイスイと室内の向こう……暗がりの中へと姿を消した。


 ……。

 ……。

 …………少しの間を置いた後。


 豆電球の淡い明かりの向こうより、2人の少女を……いや、それだけじゃない。その2人よりも更に小柄な少女を背負いながら、夏海は計3人の女の子を連れて戻ってきた。


 一人は、少しばかり目じりが垂れているせいか、気弱そうな印象を覚える女の子。夏海と同じぐらいの髪の長さで、どことなくおっとりとした雰囲気が出ている。

 もう一人は、反対に少しばかり目じりが吊り上っているせいで、気が強そうな印象を覚える女の子であった。こっちは、いわゆるショートヘアというやつだ。


 寝ているところを起こされたせいか、それとも寝苦しくてちゃんと眠れていないのか……二人とも、大きな欠伸を零している。

 合わせて、寝間着と思われる上下の衣服は皺だらけで、おそらくはキャラクターがプリントされていたと思われる名残がちらほらと……まあ、年期を感じる。

 ゴムも伸びきっているようで、どちらも片手で半ズボンがずり下がるのを押さえている。寝ぼけているようで、気の強そうな子にいたっては、パンツがチラッと見えていた。


 ……これ、まともに事情を理解出来ていないのではないだろうか。


 そう尋ねたい気持ちになったが、今更言える事ではないので口を閉じる……ところで、この二人はよく似ている。

 二人とも、細かい違いはあるものの、顔立ちも体格も……全体的にそっくりだ。どちらも、夏海よりも一回り小柄という点も共通している。


「双子の、小学6年。髪が長い方が姉の『秋絵あきえ』、髪が短い方が妹の『冬雪ふゆき』」
「……背中の寝息を立てているやつは?」
「『さくら』、末の妹。小学5年生、眠りが深くて起こせられなかった」
「……ああ、そう」


 正直、年齢まで聞いた覚えはないのだけれども……と。


「……お姉ちゃん、何処へ行くの?」


 双子の紹介をする姉を他所に、秋絵と呼ばれた少女は目を擦りながら尋ねている。

 思った通り、寝ているところを起こして無理やり連れてきたようだ。冬雪と呼ばれた少女は目が覚めているのか、警戒した様子で夏海の背中に隠れてしまった。


「さっき話したでしょ、今日はこの人の家に泊まるから、貴女たちも来るように」
「……この人の?」
「お母さんとお父さんには何も言わなくていいの?」


 やはりそこが気になるのか、チラチラと部屋の奥……両親が寝ている部屋の方へと振り返る2人。


「寝ているところを起こしたら不機嫌になる。それに、あいつらまで起き出したら嫌でしょ」


 でも、夏海のその一言で納得したのか、夏海に促されるがまま外へと出る。あまりの聞き分けの、良さに流星の方が面食らったぐらいだ。


 というか……それほどに機嫌が悪くなるのだろうか? 


 逆に見たくなるというか、興味が引かれるというか……いや、気のせいだな、うん、絶対に見たくはない。

 家族1人から嫌がられるのならば相性の問題に出来るが、3人に嫌がられるとなると、それはもう相性を通り越して性質に問題があると、流星は判断した。


「これで、全員か?」


 そっと扉を閉めて通路を進み、エレベーターホールへ。後はもうボタンを押して、専用エレベーターにて最上階へ向かえば己の家だが……ふと、気になった流星は尋ねてみる。


「あとは、お姉ちゃんが1人」


 すると、案の定というか、まだ居た。

 しかし、幸いにも残り1人。フラグを成立する為の人探しのイベントをこなしているような気分になりながらも、何処にいるのか分かるかと尋ねてみれば……だ。


「たぶん、近くの公園で寝ていると思う」
「は?」
「あそこ、屋根が付いているベンチがあるから……去年、私もそっちで寝ていた」
「……すまん、ちょっと頭痛くなってきた。それ、大丈夫なのか?」
「ここらへんで不審者情報は全く無いから、下手に人の居る所に行くより安全だって……」
「そ、そうか……逆転の発想……なのか、それ?」


 あんまりと言えばあんまりな話に、流星は頭を抱えたくなった。

 はたして、これは日本の話なのだろうか……そう言いたくなるような話だが……まあ、今更か。

 とりあえず、姉に連絡を取って貰うことにする。

 必要が有る場合は直接そこへ向かうか、電話で呼び出すか(幸いにも、夏海の姉だけは携帯電話を所持しているようだ)のどちらからしい。

 なので、流星のスマホより連絡を取ってもらう。その際、知らない番号からなので少しばかり問答があったようだが、とりあえずは来る事になった。


 ……。

 ……。

 …………で、だ。


 霧雨とはいえ、絶え間なく降り続けている最中を走れば濡れるのは当たり前。

 少しばかり息を乱してエレベーターホールに飛び込んできた女性……いや、少女を見やった流星は……思わず、溜め息を零した。


 どうしてかって、それは……少女の恰好が、目に毒であったからだ。


 あまり手入れが行き届いていないのか、野暮ったい印象こそ覚えるが、素材は良い。というか、顔立ちは贔屓抜きで美形である。


 しかし、眼前の少女の注目点はそこではない。


 何よりも、まず目を引くのは……ヨレヨレのジャージ(色あせてボロボロである)でも隠しきれない、豊満な胸元であった。

 そう、基本的には体型が出にくいジャージなのに、はっきりとその大きさが確認出来る。しかも、掌まで隠れる大き目サイズを着ているというのに、だ。


(よくもまあ、この顔とスタイルで今まで何事も無かったものだなあ……まあ、それはコイツも一緒か)


 チラリ、と。

 未だに末妹をおんぶしている夏海を見やった流星は、ガリガリと頭を掻いた後……改めて、影山家の長女であるらしい少女へと向き直った。


「あ~……事情はさっき電話で夏海から聞いていると思うけど、改めて自己紹介。俺はこのマンションのオーナーの尾田流星……君は?」
「えっと、あの、影山春香かげやまはるかです、高校3年生です」
「……えっと、どうする?」
「私もお願いします」
「……俺が言うのも何だけど、お前ら何でそんなにあっさり信用するんだ?」
「私は違うけど、夏海は人を見る目があるから……その夏海が拒否しなかったのなら、私としても嫌がる理由はないかな~って……」
「……あ~、そうっすか」


 何だろう、考えるだけ無駄なのだろうか……それとも、俺が心配し過ぎなのか、あるいは、勝手に考え過ぎているだけか。


「……それじゃあ、付いて来てくれ。言っておくが、今は夜だ。あまり騒がないように」


 何が何だか、いまいち考えがまとまらなくなった流星は、だ。

 一旦、考える事を止めると、一様に頷いて了解した影山姉妹を連れて……気分はカルガモの親が如く、己の城である最上階に連れていくのであった。

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