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第二章 婚約者編
第十二話 ロイヤルファミリーと僕④
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「トーマ……!」
「わあ……っ」
嬉しそうなフリードリヒ様に勢いよく抱きしめられて、僕は年齢に見合わない幼い子供のような悲鳴をあげてしまった。こんなに喜んでくれるなんて……!
僕は、ドキドキしながらも嬉しくて、ゆっくりと広い背中に腕をまわした。
「トーマ……愛している」
「はい、僕も……愛しています」
僕の中での覚悟は、もう決まった。フリードリヒ様の気持ちもが僕の気持ちと一緒だと、今日明確に分かった以上、僕はもう迷わない。愛しているという一言で、僕の中の不安も残っていた僅かな戸惑いもすべて消えていくのが分かる。
この先どんなことがあっても、僕はもうフリードリヒ様の手を離さない。僕なんかが……とか、いつか僕を嫌いになるかもなんて後ろ向きな考えはしない。
フリードリヒ様が一生守ると言ってくれた。その想いに、僕も報いたいから。
「そのように仲の良いところを見せつけられては、もう何も言えぬな」
抱き合う僕らを見て、長い沈黙の後、国王陛下が吹っ切れたように呟いた。仕方ない。そんな響きには近い言い方ではあったが、国王陛下の中の気持ちの整理がついた。そんな風に僕は感じた。
ポンと自身の膝を叩いた国王陛下は低い声で「分かった」とよく響く声で言った。
「二人の関係を認めよう。これ以降、お前たちの関係を否定することはしない。たとえ周りが何を言おうと、私はそなたたち二人の味方だ」
「……!」
国王陛下の言葉に、僕は反射的にぱあっと輝く笑みを浮かべてフリードリヒ様を見上げた。勿論、フリードリヒ様も満面の笑みだ。大きな手に腰をぐっと引き寄せられて、僕の体が宙に浮く。身長に見合うだけの体重はある僕を、軽々と頭上に抱え上げたフリードリヒ様は「やったぞ! トーマ!」と喜んだ。
まさかこの年齢になって、高い高いをされるとは思わなかった。でも、ちょっと楽しいのは秘密だ。小さい頃の幸せだった記憶が脳裏にふと蘇り、僕は少しだけ泣きそうになる。
「父上が認めてくれれば、何も怖いものはない!」
どうやら、フリードリヒ様は内心では相当緊張していたらしい。フリードリヒ様が王位がなくても僕を守るつもりだと言ったのは間違いなく本心からだろうけれど、この国のトップはあくまで国王陛下だ。無理矢理引き離さないとは言っても、無理矢理でないのなら協力する場合もあると言われるのと、はっきりと認めたと言われるのとでは雲泥の差がある。
王妃殿下は、そんなフリードリヒ様を見て「あらあら」と心底おかしそうに笑い、フィン様は心底ほっとした様子で肩の力を抜いていた。
「最初から二人のことを認めていたのよ。この人。不愛想だし、融通は利かないところはあるけれど、子供には甘い人なの。最初に言ったのよ。後継者が他にいないのならともかく、フィンもいるし、最悪他にも王族の血筋はいるんだから良いじゃないって。他の国ならいざ知らず、クリフォトは血筋云々よりも、強い殿方が王になるべきみたいなところあるんだもの。でも、中途半端な覚悟では二人が苦労するからとか言い出してねぇ。まぁ、確かにフリードリヒ殿下の節操のなさは私も心配でしたし、柄にもなく頑張っていたから余計なことは言わなかったのけれど……。でもねぇ、結局はあんなにあっさり認めるなら、最初から変な芝居なんてしなけければ良かったと思わない? 変に長引かせるから、トーマも辛かったでしょう?」
「い、いえ……」
「……ラーマ、やめなさい」
その後に誘われた夕食の席で、王妃殿下からすべてのネタ晴らしをされたのだが、王妃殿下……本当に口のまわる人だった。国王陛下が、少し顔を赤くしながら何とか王妃殿下を止めようとしていたが、その後も王妃殿下のお喋りが止むことはなかった。
(国王陛下がタジタジだ……)
でも、すごく……素敵だなと僕は思った。国王陛下も王妃殿下も、互いのことを信頼し愛しているのが見ていてわかる。フリードリヒ様もフィン様も、そんな二人の様子に少しだけ困ったというか、うんざりしたような表情を浮かべていたけれど、嫌な感じは一切しない。
「またか」そんな声が聞こえてきそうだけれど、この光景は彼らにとっては平和な象徴なのだ。そして、これからは僕にとっても日常になる。
こうして、その日、僕とフリードリヒ様は本当の意味で、名実ともに正式な婚約者としてクリフォト王家に迎えられることになった。
――――――☆――――――
ゆっくりとですが、更新を再開します。
「わあ……っ」
嬉しそうなフリードリヒ様に勢いよく抱きしめられて、僕は年齢に見合わない幼い子供のような悲鳴をあげてしまった。こんなに喜んでくれるなんて……!
僕は、ドキドキしながらも嬉しくて、ゆっくりと広い背中に腕をまわした。
「トーマ……愛している」
「はい、僕も……愛しています」
僕の中での覚悟は、もう決まった。フリードリヒ様の気持ちもが僕の気持ちと一緒だと、今日明確に分かった以上、僕はもう迷わない。愛しているという一言で、僕の中の不安も残っていた僅かな戸惑いもすべて消えていくのが分かる。
この先どんなことがあっても、僕はもうフリードリヒ様の手を離さない。僕なんかが……とか、いつか僕を嫌いになるかもなんて後ろ向きな考えはしない。
フリードリヒ様が一生守ると言ってくれた。その想いに、僕も報いたいから。
「そのように仲の良いところを見せつけられては、もう何も言えぬな」
抱き合う僕らを見て、長い沈黙の後、国王陛下が吹っ切れたように呟いた。仕方ない。そんな響きには近い言い方ではあったが、国王陛下の中の気持ちの整理がついた。そんな風に僕は感じた。
ポンと自身の膝を叩いた国王陛下は低い声で「分かった」とよく響く声で言った。
「二人の関係を認めよう。これ以降、お前たちの関係を否定することはしない。たとえ周りが何を言おうと、私はそなたたち二人の味方だ」
「……!」
国王陛下の言葉に、僕は反射的にぱあっと輝く笑みを浮かべてフリードリヒ様を見上げた。勿論、フリードリヒ様も満面の笑みだ。大きな手に腰をぐっと引き寄せられて、僕の体が宙に浮く。身長に見合うだけの体重はある僕を、軽々と頭上に抱え上げたフリードリヒ様は「やったぞ! トーマ!」と喜んだ。
まさかこの年齢になって、高い高いをされるとは思わなかった。でも、ちょっと楽しいのは秘密だ。小さい頃の幸せだった記憶が脳裏にふと蘇り、僕は少しだけ泣きそうになる。
「父上が認めてくれれば、何も怖いものはない!」
どうやら、フリードリヒ様は内心では相当緊張していたらしい。フリードリヒ様が王位がなくても僕を守るつもりだと言ったのは間違いなく本心からだろうけれど、この国のトップはあくまで国王陛下だ。無理矢理引き離さないとは言っても、無理矢理でないのなら協力する場合もあると言われるのと、はっきりと認めたと言われるのとでは雲泥の差がある。
王妃殿下は、そんなフリードリヒ様を見て「あらあら」と心底おかしそうに笑い、フィン様は心底ほっとした様子で肩の力を抜いていた。
「最初から二人のことを認めていたのよ。この人。不愛想だし、融通は利かないところはあるけれど、子供には甘い人なの。最初に言ったのよ。後継者が他にいないのならともかく、フィンもいるし、最悪他にも王族の血筋はいるんだから良いじゃないって。他の国ならいざ知らず、クリフォトは血筋云々よりも、強い殿方が王になるべきみたいなところあるんだもの。でも、中途半端な覚悟では二人が苦労するからとか言い出してねぇ。まぁ、確かにフリードリヒ殿下の節操のなさは私も心配でしたし、柄にもなく頑張っていたから余計なことは言わなかったのけれど……。でもねぇ、結局はあんなにあっさり認めるなら、最初から変な芝居なんてしなけければ良かったと思わない? 変に長引かせるから、トーマも辛かったでしょう?」
「い、いえ……」
「……ラーマ、やめなさい」
その後に誘われた夕食の席で、王妃殿下からすべてのネタ晴らしをされたのだが、王妃殿下……本当に口のまわる人だった。国王陛下が、少し顔を赤くしながら何とか王妃殿下を止めようとしていたが、その後も王妃殿下のお喋りが止むことはなかった。
(国王陛下がタジタジだ……)
でも、すごく……素敵だなと僕は思った。国王陛下も王妃殿下も、互いのことを信頼し愛しているのが見ていてわかる。フリードリヒ様もフィン様も、そんな二人の様子に少しだけ困ったというか、うんざりしたような表情を浮かべていたけれど、嫌な感じは一切しない。
「またか」そんな声が聞こえてきそうだけれど、この光景は彼らにとっては平和な象徴なのだ。そして、これからは僕にとっても日常になる。
こうして、その日、僕とフリードリヒ様は本当の意味で、名実ともに正式な婚約者としてクリフォト王家に迎えられることになった。
――――――☆――――――
ゆっくりとですが、更新を再開します。
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