魔法使いを夢見る少女の冒険譚

夢達磨

文字の大きさ
38 / 64
第3章 冒険者育成学園ー1年目前期編ー

第23話 カナトとシラハの特訓

しおりを挟む
「剣と魔法の合体技!『魔剣斬撃波』!」

 カナトは新たに習得した必殺技で、物理攻撃が通じないゴーストナイトを打ち破った。

 私たちは今、荒廃した古城に来ている。誰も近寄らないこの場所に足を運んだのは、カナトの魔法剣士としての特訓を行うためだ。ゴーストナイトは危険度二の魔物で、剣を操る上に物理攻撃が通じないという厄介な特徴を持っている。

 物理無効の相手をどうやって倒すかが今回の課題だったが、カナトは新たに編み出した必殺技でその難題を見事にクリアしたのだ。

 『魔剣斬撃波』は剣に自身の魔力を込め、その魔力を刃として放つというシンプルながらも強力な技だ。

 カナトとガッツさんは、拳を軽くぶつけ合って互いの健闘を讃え合っているようだった。

 一方、彼らが戦っている間、私とシラハは魔力のコントロール練習をしていた。シラハは回復やバリアの魔法は得意だが、攻撃魔法には苦手意識があるらしく、一点集中で魔力を放つ訓練に励んでいた。

「少し休憩しようか」と私が声をかけると、シラハは魔力を解放し、リラックスした姿勢に戻った。

「ご指導ありがとうございました!」

「大丈夫だよ。今日もお疲れさま」

 シラハは汗を拭き、一息ついた。

「ノベルさんがよく、冒険者育成学園に通うように勧めていましたが、私たちもう十四歳なので、もう通えないんじゃないかって思ってるんですが、どうなんでしょう?」

「それは違うよ。冒険者育成学園は年齢に関係なく通えるんだ。十五歳で入学する人もいれば、二十歳を超えてから通う人もいる。あくまで十二歳から通えるってだけだからね」

「なるほど、そういうことだったんですね。じゃあ、私たちも通おうと思えば通えるんですね。ノベルさんも通っていたんですか?」

「うん、一年間だけね。辞めた後は、書類整理の仕事をしていたんだ。今はこうして冒険者として活動しているけどね」

「どうして一年間だけだったんですか? 三年間通うのが普通ですよね?」

「うん、卒業まで通えば三年だけど、育成学園は冒険者を育てるだけの場所じゃないんだよ」

「そうなんですか?」

「そう。学園は厳しいから、途中で辞める人もたくさんいるんだ。そんな人たちが次の仕事に就けるように、戦闘以外のいろんなスキルを教えてくれるんだよ」

「なるほど……。ノベルさんはどうして一年で辞めてしまったんですか?」

「私は昔から人と話すのが苦手でね。親に無理やり学園に入れられたんだ。最初はもっと早く辞めるつもりだったんだけど、そんな私を受け入れてくれた人がいたんだよ」

 私は頭に付けていたストアイレチアのブローチを手に取り、話を続けた。

「これを贈ってくれたのも、その彼だったんだ」

「素敵ですね! その彼は今どこにいるんですか?」

「彼は今――天国で、きっと楽しく冒険しているんだろうね」

 私の言葉に、シラハは両手を交互に交差させながら「あわわ」と慌てて、申し訳なさそうな顔をした。

「聞いちゃってすみません! 思い出したくないことですよね!?」

「大丈夫だよ。もう随分昔のことだからさ」

「そうなんですね……」と彼女は一言つぶやき、特訓を続けるガッツさんとカナトの方をじっと見つめた。その姿からは、何か考え事をしているようにも見えた。そして、少し強張った声で私に再び声をかける。

「そ、その……その方の話、もし良かったら聞かせてもらえませんか?」

 シラハは自分の心境を重ねて、いずれそんな未来が来たとしても後悔しないように、そう尋ねたのだろう。

「いいよ。別に面白い話でもないけどね。これは、私が学生だった頃の話さ」

 私はシラハに、過去の思い出を語り始めた。

「彼と初めて会ったのは、冒険者学園に入学してすぐのことだった。誰とも話せず、ずっと一人で席に座っていた私を、彼が気にかけてくれたんだ。それで冒険に誘ってくれて、魔物退治にも連れて行ってくれた。そして、誰かと関わることの楽しさを教えてもらったんだ」

「素敵な方ですね!」

「うん、そうだね。その人はいつも口癖のように『古代文明ってロマンがあるだろ?』って言ってたんだ」

「男の子が好きそうなテーマですね」

「そうだね。宝箱の中には特別な力を持った魔道具があるとか、ないとか。彼が探していたのは、この世界と別の世界を繋ぐ魔道具だったみたい。まあ、結局見つけられなかったけどね」

 彼の夢は、どこかの遺跡に眠ると言われている伝説の魔道具を探し出すことだった。依頼をこなしながら、古代文明の遺跡を調査していた。私にはロマンの意味はよく分からなかったけど、彼の夢を応援していたんだ。

「そんなすごい魔道具があるんですね。ロマンは感じますが、私は欲しいとは思いません。別の世界から悪い魔物がやってきたら困りますし」

「確かに、それは怖いね。彼は他にも、妹を驚かせたいとか言ってたっけ」

 私はシラハに、彼が魔物との戦闘で命を落としたことを伝えた。

 強くて賢かった彼が魔物にやられたと報告を受けたときは、信じられなかった。いや、信じたくなかったのかもしれない。思い出すのはやっぱり辛いけど、どうしても避けられない部分だ。

「辛いお別れの仕方ですね。冒険者である以上、避けられないことなのかもしれませんが」

「そうだね。彼の死をきっかけに、私は学園を辞めたんだ。あのときは、何もかも嫌になってしまってね。でも今は、あの決断を後悔しているよ。だから、シラハたちには同じ後悔をしてほしくないんだ。プロの先生からしっかり教えてもらったほうが、絶対にいいからね」

「ノベルさんの教え方も上手です! でも、お金が……」

「お金の心配はしなくていい。私が出してあげるよ。だから、来年チャレンジしてみるといい」

「さすがに出してもらうのはダメです! 来年までに、依頼をこなしてお金を稼ぎます!」

(本当にしっかりした子だな)

 そんな話をしていると、カナトたちが戻ってきた。

「ノベルさん、俺、お二人のおかげで強くなれました! 早くこの力を試したいぜ!」

 カナトの発言に、ガッツさんは笑いながら言う。

「おいおい、魔力の斬撃みたいなのを一回飛ばしただけでへたれてるようじゃ、まだまだガッツが足りないぜ!」

「ガッツさん、厳しい……」

「そうだよ、あんまり調子に乗らないの。ほら、手を出して。魔力回復してあげるね」

「お、おぉ……サンキュー」

 シラハはそう言ってカナトの手を取り、魔力を回復させた。魔力を他人に渡すには、かなりの魔力コントロールが必要だが、シラハはそれを簡単にやってのける。彼女には、やはり才能があるのかもしれない。

「あ! シラハちゃん!」

 そのとき、懐かしい人物が声をかけてきた。

「アリアちゃん! 久しぶりー! 元気だった?」

「うん! 元気だったよ! シラハちゃんは?」

 姿を見せたのはアリアだった。数年前に出会って以来、ずっと会っていなかった後輩だ。

「久しぶりだね、アリア」

「ノベルさんだー! お久しぶりです! あとカナト君と、ごっつい人!」

「ガッハハ! 俺の名前はゴッツじゃなくてガッツだぜ!」

 相変わらず元気いっぱいな子だな、と私は思った。アリアは王都の冒険者育成学園に通っていて、そこで一生懸命頑張っているようだった。王都の育成学園に通えるなんて本当にすごいことだ。そんなアリアに、カナトが一つお願いをする。

「アリアさん! 俺、あれから強くなったんです! 手合わせしてくれませんか?」

 カナトの言葉にアリアは「うん、いいよー!」と明るく答えた。

 そして、二人は手合わせをすることになった。

 ルールはシンプルで、相手を降参させたら勝ち。カナトは早速、先ほど習得したばかりの技を放つ。

「俺の必殺技をくらえー! 『魔剣斬撃波』!」

「えいっ!」

 カナトの魔力の斬撃を、アリアは杖を軽く振ってあっさりと破壊してみせた。

「えぇっ!?」

 驚きを隠せないカナトに、アリアはすかさず攻撃を仕掛ける。

「じゃあ、行くねー!」

 アリアはカナトとの距離を一気に縮めながら駆け寄った。カナトも息を切らしながらアリアに向かって走り、剣を思いっきり振るうが――。

「あれ?」

 アリアはその剣を片手で簡単に止めてしまった。

「カナト君って、剣使ってたっけ? えいっ」

「ガハッ」

 アリアは杖でカナトのお腹を突き、強烈な一撃で彼を倒してしまった。

「ま、参りました……」

「わーい! 勝ったー!」

 アリアの戦闘に一切の隙はなかった。これほどまでに強いとは、やはり王都の育成学園の教育が優れている証拠だろう。

「二人ともお疲れ様。今日はこれで終わりにして、みんなでご飯に行こう。アリアも一緒にどうだい?」

「食べるー!」

 そしてその夜、私たちは五人で楽しい食事の時間を過ごした。

 アリアは夏季休暇を利用して家に帰省しているそうで、また会うことを約束し、私たちはそれぞれの道へと解散した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『悪魔クロとやり直す最弱シーカー。十五歳に戻った俺は秘密の力で人間の頂点を狙う』

なべぞう
ファンタジー
ダンジョンが生まれて百年。 スキルを持つ人々がダンジョンに挑む世界で、 ソラは非戦闘系スキル《アイテムボックス》しか持たない三流シーカーだった。 弱さゆえに仲間から切り捨てられ、三十五歳となった今では、 満身創痍で生きるだけで精一杯の日々を送っていた。 そんなソラをただ一匹だけ慕ってくれたのは―― 拾ってきた野良の黒猫“クロ”。 だが命の灯が消えかけた夜、 その黒猫は正体を現す。 クロは世界に十人しか存在しない“祝福”を与える存在―― しかも九つの祝福を生んだ天使と悪魔を封印した“第十の祝福者”だった。 力を失われ、語ることすら封じられたクロは、 復讐を果たすための契約者を探していた。 クロは瀕死のソラと契約し、 彼の魂を二十年前――十五歳の過去へと送り返す。 唯一のスキル《アイテムボックス》。 そして契約により初めて“成長”する力を与えられたソラは、 弱き自分を変えるため、再びダンジョンと向き合う。 だがその裏で、 クロは封印した九人の祝福者たちを狩り尽くすための、 復讐の道を静かに歩み始めていた。 これは―― “最弱”と“最凶”が手を取り合い、 未来をやり直す物語

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

処理中です...