未来スコープ ― 四分の百年―

米田悠由

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エピソード1:25歳の誕生日(柚希25歳) Ver.9

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部屋に、ピンポーン、と軽い音が響いた。
「はーい」
天ヶ瀬 柚希(あまがせ ゆき 25歳)は、静かに玄関へ向かった。
今日が、その日だった。
そう、彼女の25歳の誕生日──。

玄関のドアを開ける。
そこには、見慣れない男の人が立っていた。
黒い服を着て、無表情で。
眼鏡型のスカウターが、顔の半分を覆っている。

男の人は何も言わず、スカウターの緑色のランプを光らせた。
一瞬で、柚希の全身をスキャンしていく。
認証が完了すると、男の人は手に持っていた箱を差し出した。
綺麗な紙で包まれた、まるでプレゼントのような箱だった。

「お誕生日、おめでとうございます。天ヶ瀬柚希さん」

彼の声は、機械のようだった。
柚希は、その箱を両手でそっと受け取った。

(ついに、このときがきた……)

心の中でつぶやいた。
箱は、想像していたよりも重かった。
彼女は、箱を胸に抱きながら、ゆっくりと部屋に戻る。

テーブルの上にそっと箱を置いた。
じっと見つめる。

(きっと、たくさんの人がこれを喜んで受け取るんだろうな)

(なにしろ、これは幸せな未來をくれるのだから……)

そう思って、彼女は箱を開けた。

箱の中には、ひときわ異彩を放つ小さな筒が入っていた。
手のひらに収まるか収まらないかほどの大きさ。
手に取ると、真鍮製でずっしりと重みを感じる。
片側に小さな覗き穴があるだけで、一見すると何の変哲もないただの望遠鏡のようにも見える。
しかし、その古びた質感と、どこか磨き上げられたような輝きは、それがただの道具ではない、古美術品のような独特の雰囲気を醸し出していた。

(この古めかしい見た目は、演出か……)

そう思った。
側面に貼られた金属製の銘板には、シリアルナンバーとともに、その名称が刻印されていた。

《未來スコープ》

「ふふっ。本当に未来が見えるなんて」

誰にともなく、柚希は思わず声に出して笑った。

(これで、ようやく私も普通になれる……)

柚希は未来スコープをそっとテーブルに戻し、窓の外に目を向けた。
街はいつも通りの日常で、人々は笑顔で歩いている。
誰もが、未来スコープが示す幸せな未来を信じ、何の疑いもなく受け入れている。
彼女も、そうなるはずだった。

未来スコープは、25歳の誕生日に全ての国民に届けられる。
それが、100歳寿命固定化制度の始まりだった。
制度に従えば、25歳の外見を維持し、医療や年金制度など、あらゆる政府支援を受けられる。
穏やかな死を迎えるまで、完璧に設計された人生が保証されるのだ。
しかし、制度を拒否すれば、その瞬間から全ての権利を剥奪される。
職業選択の自由も、社会保障も、何もかも。

(私の未来は、これから決まる)

柚希は、もう一度未来スコープに手を伸ばした。
重みを感じる。
それは、幸せの重みか、それとも──。

銘板の「未來スコープ」という文字が、照明に照らされて強く輝いた。
その光は、まるで新しい物語の始まりを告げるスポットライトのようだった。
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