未来スコープ ― 四分の百年―

エピソード8：運命のマッチング Ver.1

高校を卒業し、柚希は、政府が推奨するIT企業に就職した。
表向きは安定した社会人生活。
しかし、柚希は心の奥底で、常に満たされない違和感を抱えていた。
すべてが順調で、すべてが完璧。
それなのに、まるで誰かの人生を演じているような感覚が、拭い去れない。

ある日の昼休み、同僚のミサキが柚希に声をかけてきた。

「ねえ、柚希ちゃん。週末、暇？」

「うん、まあ…」

「じゃあさ、これ、登録してみない？『政府公認恋愛マッチングシステム』！私、これで彼氏見つけたんだよね～」

ミサキは、自分のタブレット端末を柚希に見せる。
そこには、満面の笑みを浮かべた男性のプロフィールと、「適合率95%」という文字が並んでいた。
ミサキは、半ば強引に柚希の端末を操作し、システムに登録していく。
戸惑う柚希に、ミサキは明るく言った。

「大丈夫だよ！だって、データが完璧な相手を見つけてくれるんだもん。運命の人に会えるかもよ！」

柚希は、その言葉に何も言い返せなかった。
数日後、柚希の端末に通知が届く。
『適合率98%のパートナーが見つかりました』
その通知を見た柚希は、胸騒ぎを覚えた。
恐る恐るプロフィールを開くと、そこに表示されたのは、端正な顔立ちと、優しそうな笑顔の青年だった。
名前は、朝比奈 遥真（あさひなはるま 25歳） 。

初めて会った遥真は、プロフィール通りの朗らかな性格で、誰からも好かれるような雰囲気を持っていた。
二人の会話は初めから弾み、まるで何年も前から知っていたかのように自然に心が通じ合う。
完璧なプロフィール、そして完璧な相性。
柚希は、この出会いに「運命」を感じた。
そして、人生で初めて、制度が与えてくれたものが本当に「幸福」であるのかもしれないと、内心で信じ始めた。