未来スコープ  ―キスした相手がわからないって、どういうこと!?―

米田悠由

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エピソード6:繋がる運命、響き合う二人 Ver.15

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「あ…猫さん…!あ、待って!」

彩奈は思わず声を上げ、猫の姿を追うように走り出した。
美咲に何か言葉をかける間もなく、小さな通用口から陽光学園の敷地内へと足を踏み入れる。
しかし、校舎と体育館の間の通路に出た途端、猫の姿を見失ってしまった。

「どこ行ったの?どこどこどこどこ!ニャーニャーニャーニャー」

植え込みの陰や、建物の隙間を覗き込む。
人気のない空間は静まり返り、猫の気配はどこにもない。
焦りが募る中、視線の先に、ひらりと身を翻す三毛猫の姿を捉えた。

「あ、いた!!」

その瞬間、彩奈のスクールバッグの中で、未来スコープが震えた。

 (猫を見失うわけにはいかない!あ~バッグから取り出す暇も覗く暇もないわ!) 

直後、まるで、思い出したかのように、鮮明に、はっきりと、彼の名前が脳裏に焼き付いた。 

(あ、一条、悟くん…だ…! そうか!課題達成したんだわ!それで・・・) 

猫は校舎の壁に沿って上へと伸びる金属製の外階段へと駆け上がっていく。

(えっ階段っ!)

猫の後を追うように、その階段を駆け上がった。
たどり着いたのは、屋上へと続く扉の前だった。 

(開いた!)

屋上に出ると、ひんやりとした風が頬を撫でた。
夕日が西の空を赤く染め、校舎の影が長く伸びている。
彩奈は、ひゅう、と一息。
辺りを見回すが、猫の姿はどこにも見当たらない。

「あれ…どこ行っちゃったんだろう…」

その時、背後から優しい声が聞こえた。

「彩奈…」

彩奈はハッと振り返った。
目の前に立っていたのは、一条悟だった。
彼は、屋上のフェンスに背を預け、穏やかな瞳で彩奈を見つめている。
夕日のオレンジ色が、彼の白いシャツを淡く染め上げていた。

悟はゆっくりと彩奈の頬に手を伸ばし、優しく触れる。
彩奈の心臓が、ドクンと大きく鳴った。
夢で見た光景が、今、目の前で現実になろうとしている。
あの時は知らなかった彼の名前を、今は知っている。
その事実が、胸を締め付ける。

「悟…」

彩奈は、自分でも意識しないうちに、彼の名前を呼んでいた。
悟は、その声に小さく微笑むと、ゆっくりと顔を近づけてくる。
彩奈は目を閉じ、その瞬間を待った。

唇が、優しく触れ合う。

夢で見た、温かくて、けれどどこか儚かったキス。
今、触れ合った悟の唇は、あの時よりもずっと温かく、そして、確かな存在感を伴っていた。
時間も、周りの音も、全てが止まったような感覚。
ただ、二人だけの世界がそこにあった。

唇が離れ、彩奈がゆっくりと目を開けると、悟の瞳が、強く、そして優しく彩奈を見つめ返していた。
二人の間に流れる時間は、これまでとは比べ物にならないほど濃密だった。

その時、彩奈のスクールバッグの中で、未来スコープが再び振動を始めた。
悟は、彩奈が抱えていたスクールバッグの、振動している部分を指さした。

「みせて」
「えっ?」
「それ」
「夢紡ぎ鏡…」
「夢紡ぎ鏡?」

彩奈は、悟に手渡した。

「王冠みっつ光ってる!」

悟は彩奈に未来スコープを差し出した。彩奈も覗き込む。

「えっ…ほんとだ!えっこれって課題だったの!?えっキス…?」

彩奈の頭の中に、郷土資料館の職員が語った『夢紡ぎ鏡』の伝説と、『共鳴の響き』の全てが、まるで走馬灯のように鮮やかにフラッシュバックした。
それは、悟が見ていた夢の真相であり、未来スコープの本当の名前、そして二人の運命が繋がっていることを示す確かな証だった。

悟と彩奈の視線が再び交差した。彼らは、互いの瞳の奥に、同じ確信を見つけた。
それは、遠い未来から紡がれてきた、二人の運命が今、一つになったことを告げるものだった。

「…会いたかった」
「うん…私も」
「こんなところで、こんな形で会うなんて、さ」
「ね。てっきり、もっとドラマチックな出会いかと期待してたんだけど」
「十分ドラマチックだろ、これ」
「ま、いっか。何にせよ、やっと会えたんだし」
「うん。僕、夢で見た時、本当にいるのかって…不安で」
「私も。夢か現実か分からなくて、犯人逮捕とか、変なことしてたし」
「あはは…課題とか言ってたやつ?」
「そう!最初が犯人逮捕、二つ目が猫を探せ、そして、みっつめが、キス? その課題は見てなかったんだけど」
「へぇ…そういうことか」
「あ~運命か~もはや逃げ場なしだな。」
「はぁ?首輪つけてやろうか!」
「こわっ!」
「冗談!」
「・・・でも、本当に良かった。彩奈に会えて」
「私もだよ、悟君」
夕焼けに染まる屋上で、二人は強く抱きしめ合った。
世界でたった二人だけの、甘く確かな温もりが、互いの胸にじんわりと広がっていく。

物陰から、あの三毛猫がひょっこりと顔を出した。

 「ニャーん」

悟と別れ、彩奈は結花と合流して帰り道を歩いていた。
夕闇が迫る公園のベンチに腰を下ろすと、彩奈は今日起きたばかりの出来事を、興奮冷めやらぬ声で話し始めた。
未来スコープが示す課題、一条悟という運命の相手との出会い、そして全ての謎が解き明かされた瞬間のこと。
郷土資料館で聞いた「夢紡ぎ鏡」の伝説、結ばれなかった恋人たちが未来で結ばれるための道具という話まで、まるで嵐のように一気に語られた。

キスシーンが最初に見たのと、今日現実で悟と交わしたキスの違いについても、恥ずかしそうにしながらも、その感動を伝えた。

彩奈の話が一段落すると、突然、膝元に柔らかい感触があった。
猫が、どこからともなく現れて、結花の足元にすり寄ってきたのだ。

「えっ、えっ、何、何!?」
「あ、あの猫!」

結花は驚いて身を引いたが、猫は臆することなく、さらに結花の膝に登ろうとする。

「きゃー!かわいい!」
「なんで、私じゃなくて結花になつくのよー!」
「う~む。凄い展開だ~。さすがにそこまで考察できなかったわ。よしっ!」
「えっ!?」
「私、書く!私、飼う!」

結花は猫を抱き上げながら言った。

「えっ?かく!?えっ?かう!?え~~??」
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