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第2章 幽霊住民税金問題
第11話 人気スポット?
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「リリー様、新しいペンをお持ちしました」
「わ、ありがとうございます! 助かりますー」
「そちらの折られたペンは、ごみ箱に捨てておきますね」
「はい、よろしくお願いします!」
うふふー、とリリーはエレーヌと笑顔を交わした。移動が常に壁抜けというぎょっとすること以外は、エレーヌがいてくれることがだんだんリリーには嬉しいことになっていた。
何しろ、総務課に女性は自分しかいない。上司はおじさんだし、同僚はマートである。デイジーが来てくれれば嬉しいが、清掃員のデイジーはいつもあちこちを掃除していて、1日顔を見ない日もある。
その点、エレーヌはいつも総務課にいて、何くれと世話を焼いてくれる。ずっと同じ部屋にいて、同性同士でこんなふうに笑顔を交わしながら会話するなんて、学校以来である。
エレーヌのほうも、働くことの楽しさに目覚めつつあるようだった。ずっとマートべったりだったのが、最近は課全体に目を向けるようになった。受付も率先してやっている。村人とも随分打ち解けて、楽しそうに会話するようになっていた。
「あーあ、もう飽きられちゃったかー。残念だったねぃ」
とデイジーに言われたマートは、
「これでいいのだ」
と、なぜか胸の前で腕を組んで偉そうにうなずいた。
「彼女、筋金入りの箱入り娘だったんでしょ? 家族以外の異性に免疫なかったんだろねぃ」
だからあんなひょろっひょろのへなちょこおじさんが良く見えちゃったんだろねぃ、というのが、デイジーの見立てであった。
そんなある日、村の資料館の館長ことマルコが総務課にやって来た。また古地図を使った発掘調査の依頼だろうかとリリーは思ったが、違っていた。総務課に、森の中のお屋敷の貴族の死んだ娘の幽霊がいる、と聞いて、エレーヌに会いに来たのだった。
受付に出たエレーヌを見て、マルコは一瞬目を丸くしたものの、すぐに「やあ、どーもどーも」とまん丸の顔にまん丸の笑みを浮かべた。
ちょうど苦手な事務仕事に気が滅入っていたリリーも、いそいそと会話に参加した。
マルコの依頼は、エレーヌの両親に会わせてもらえないか、ということだった。
「昔のこの村の話をお聞きしたいんだ。その時代を生きていた人たちに直接話を聞けるなんて機会は、めったにないからね」
マルコは、花農家の夫婦からも幽霊貴族たちの話を聞き、穏やかそうな人柄を見込んでお願いしたいということだった。エレーヌは、それを聞いて喜んだ。
「私の両親もきっと喜びますわ。ぜひ、両親にお会いください」
てなことで、マルコは意気揚々と幽霊屋敷に通うようになった。
「マートさん、マートさん」
「何だよ、今、俺、計算中なんだよ」
「それは大変ですね。私のもついでにお願いします」
「何さらっと紙よこしてんだ。自分でやれ、自分で」
「めんどくさいんです」
「正直過ぎだろ。これも仕事の内だ、自分でやれ」
「うー」
机越しに滑らせた紙を突き返され、むくれていると、マートが「で、何?」と聞いてきた。マートさんはいい人だなあ、とリリーは思う。自分の分の計算もやってくれればもっといいのになあ、とリリーはついでに思う。
「エレーヌさんのご実家が、にわかに人気になってますよ!」
「はあ?」
「考えてみてください。今、いろんな人が、あのお屋敷に通ってるんですよ。花農家のご夫婦でしょ、マルコでしょ、ほら、3人も!」
「3人じゃあ、人気とかって言わないでしょ」
「何言ってるんですか! これまで何十年も0人だったんですよ! それがこの数週間で一挙に3倍に!」
「あー、まあ、そういう言い方すればそうだけど」
「この村役場もそうなるといいですね!」
「いや、ここに来る人たちって、大概変な相談事持ってくるでしょ。あれ増えても困るでしょ」
「村役場が一躍人気の場所になるなんて!」
「いや、なってないし。落ち着けよ。ちょっとデイジー入ってんぞ。ほら、書類」
あー、見えません、見えませんー、と両手で目を覆うリリーと、ほれほれ、とリリーの顔に書類を押し当てるマートを見ながら、バーナードは心配になった。いや、あの2人はいつも通りだし、もうどうしようもないのはわかっているが、心配なのは、幽霊屋敷に通う3人である。
あの屋敷は、だいぶ傷みがひどい。バーナードたちが行ったときも、奥方のマーガレットが「この家はあちこちの床が抜けている」と言っていた。
「誰もケガをしなければいいが」
そういう予感は、えてして的中するものなのである。
「わ、ありがとうございます! 助かりますー」
「そちらの折られたペンは、ごみ箱に捨てておきますね」
「はい、よろしくお願いします!」
うふふー、とリリーはエレーヌと笑顔を交わした。移動が常に壁抜けというぎょっとすること以外は、エレーヌがいてくれることがだんだんリリーには嬉しいことになっていた。
何しろ、総務課に女性は自分しかいない。上司はおじさんだし、同僚はマートである。デイジーが来てくれれば嬉しいが、清掃員のデイジーはいつもあちこちを掃除していて、1日顔を見ない日もある。
その点、エレーヌはいつも総務課にいて、何くれと世話を焼いてくれる。ずっと同じ部屋にいて、同性同士でこんなふうに笑顔を交わしながら会話するなんて、学校以来である。
エレーヌのほうも、働くことの楽しさに目覚めつつあるようだった。ずっとマートべったりだったのが、最近は課全体に目を向けるようになった。受付も率先してやっている。村人とも随分打ち解けて、楽しそうに会話するようになっていた。
「あーあ、もう飽きられちゃったかー。残念だったねぃ」
とデイジーに言われたマートは、
「これでいいのだ」
と、なぜか胸の前で腕を組んで偉そうにうなずいた。
「彼女、筋金入りの箱入り娘だったんでしょ? 家族以外の異性に免疫なかったんだろねぃ」
だからあんなひょろっひょろのへなちょこおじさんが良く見えちゃったんだろねぃ、というのが、デイジーの見立てであった。
そんなある日、村の資料館の館長ことマルコが総務課にやって来た。また古地図を使った発掘調査の依頼だろうかとリリーは思ったが、違っていた。総務課に、森の中のお屋敷の貴族の死んだ娘の幽霊がいる、と聞いて、エレーヌに会いに来たのだった。
受付に出たエレーヌを見て、マルコは一瞬目を丸くしたものの、すぐに「やあ、どーもどーも」とまん丸の顔にまん丸の笑みを浮かべた。
ちょうど苦手な事務仕事に気が滅入っていたリリーも、いそいそと会話に参加した。
マルコの依頼は、エレーヌの両親に会わせてもらえないか、ということだった。
「昔のこの村の話をお聞きしたいんだ。その時代を生きていた人たちに直接話を聞けるなんて機会は、めったにないからね」
マルコは、花農家の夫婦からも幽霊貴族たちの話を聞き、穏やかそうな人柄を見込んでお願いしたいということだった。エレーヌは、それを聞いて喜んだ。
「私の両親もきっと喜びますわ。ぜひ、両親にお会いください」
てなことで、マルコは意気揚々と幽霊屋敷に通うようになった。
「マートさん、マートさん」
「何だよ、今、俺、計算中なんだよ」
「それは大変ですね。私のもついでにお願いします」
「何さらっと紙よこしてんだ。自分でやれ、自分で」
「めんどくさいんです」
「正直過ぎだろ。これも仕事の内だ、自分でやれ」
「うー」
机越しに滑らせた紙を突き返され、むくれていると、マートが「で、何?」と聞いてきた。マートさんはいい人だなあ、とリリーは思う。自分の分の計算もやってくれればもっといいのになあ、とリリーはついでに思う。
「エレーヌさんのご実家が、にわかに人気になってますよ!」
「はあ?」
「考えてみてください。今、いろんな人が、あのお屋敷に通ってるんですよ。花農家のご夫婦でしょ、マルコでしょ、ほら、3人も!」
「3人じゃあ、人気とかって言わないでしょ」
「何言ってるんですか! これまで何十年も0人だったんですよ! それがこの数週間で一挙に3倍に!」
「あー、まあ、そういう言い方すればそうだけど」
「この村役場もそうなるといいですね!」
「いや、ここに来る人たちって、大概変な相談事持ってくるでしょ。あれ増えても困るでしょ」
「村役場が一躍人気の場所になるなんて!」
「いや、なってないし。落ち着けよ。ちょっとデイジー入ってんぞ。ほら、書類」
あー、見えません、見えませんー、と両手で目を覆うリリーと、ほれほれ、とリリーの顔に書類を押し当てるマートを見ながら、バーナードは心配になった。いや、あの2人はいつも通りだし、もうどうしようもないのはわかっているが、心配なのは、幽霊屋敷に通う3人である。
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