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第2章 幽霊住民税金問題
第19話 ラリーの提案
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幽霊屋敷の床の修繕をする傍ら、バーナードは庭に小さな東屋を建てた。屋敷内の修繕をしている間、村人とこの屋敷の人々が交流を続けられるようにとの配慮だった。
そこに置かれた4人掛けのテーブルは、マルコの資料館からの贈り物である。古いが丁寧に品よく仕上げられたテーブルとイスで、貴族の庭にふさわしい風格があった。
グランディール夫妻は感激し、花農家夫婦が差し入れてくれた紅茶で来客のもてなしをしながら、庭仕事にも精を出した。幽霊なので疲れるということはないが、貴族なので休憩はしっかり取る。そんなとき、彼らはこの東屋で、育ち始めた花々や日に日にすっきりしていく庭を眺め、自分たちの仕事に満足を覚えた。
幽霊貴族の噂を聞いていた村人たちの中には、好奇心からこの屋敷を訪れる者たちも現れた。花農家夫婦が、仕事の不測の事態のため予備に取ってある花の種や球根を融通してくれたおかげで、雑草天国だった荒れ果てた庭は、今や準備中の庭園の趣となった。グランディール夫妻は、来客に庭の計画を聞かせながら案内する楽しみも得た。
「マートさん、マートさん」
「何だよ、またなんか壊したのか」
「違いますー。今日はペンだって1本も折ってませんー」
「おお、奇跡だな。言い方ムカつくけど」
「それでですね、知ってますか」
「急に話戻したな。何がだよ」
「エレーヌさんのご実家が、今、話題なんですよ!」
「……なんか前にも似たような会話があったような」
「そうですか?」
「まあいいや。あれだろ、村の人たちが屋敷の修理に行ってるってやつだろ」
「えー」リリーは不満そうに口を尖らせた。「何で知ってるんですかー」
「何でそんな残念そうなんだよ。俺だって村の人たちと話ぐらいするよ」
そうなのである。マートも村人と話をすることぐらいあるのである!
という冗談はおいといて、2人の話は本当だった。
いまだに村役場にいるエレーヌにすっかり親しんだ村人たちは、グランディール夫婦の人柄にも惚れ込み、屋敷の修繕や庭仕事の手伝いを進んでするようになった。村役場会計課のセドリックは大いに戸惑ったが、村人の好意による自主的な動きを止めるのもなんだし、別に村の金が出ていくわけでもないし(←こっち大事)、流れに任せることにした。
そして現在、幽霊屋敷は手弁当で集まった村人たちによって、大いに活気づいていた。
そんな折、副村長のラリーが、ふらりと総務課に現れた。
「本当の幽霊におもてなしを受ける幽霊屋敷ツアーなんてどう?」
「はい?」
きょとんとする総務課一同に、ラリーは両手を広げて彼の考えを披露した。
ラリーは、村人に人気だという幽霊屋敷に、もちろん行ってみた。かつて海の男として名を馳せたラリーにとって、幽霊屋敷なんてものは珍しくもなんともなく興味もなかったが、人気とあっては行かねばなるまい、という、朴訥なリリーにはまるでわからない理屈からであった。
副村長ということで、ラリーの副村長としての実態を知らないグランディール夫妻は、ラリーを丁重にもてなし、庭や屋敷の案内をした。
何の期待もしていなかったラリーは、そこで大いに心を動かされた。世界中の幽霊屋敷を見てきた中で、これほど幽霊本人たちに心を込めて手入れされた幽霊屋敷は、かつてあっただろうか。何と素晴らしい、胸を打つことであろうか。
「幽霊屋敷は世界各地にあるし、そのまま住み着いてる幽霊っていうのもありがちだけど、あの屋敷の人たちはさ、普通に僕らと関わってるじゃない。しかもほんとにいい人たちだし、村人にもあんなに好かれてるしさ」
ラリーは、古い時代の正統派執事であるジェームズの振る舞いにも感銘を受けた。「こんな立派な人が、まだいたのか」、と。
それを聞いたリリーとマートが、「死んでますけどね」「死んでるな。いるけど」とひそひそ話していたのは、ラリーには当然のごとく馬耳東風である。
それでラリーは閃いたのだという。
幽霊屋敷を巡る肝試しをした後は、本物の貴族の幽霊と本物の本格派執事の幽霊に、古き時代の様式のもてなしを受ける体験型ツアーをしたらウケるんじゃないか、と。
なるほど、それはちょっと面白そう、とリリーは笑顔になったが、「それって失礼じゃないんすかね」というマートの意見を聞くと、それもそうかな、と表情を引き締めた。
「そぅお? エレーヌちゃん、どう思う?」
ちょうど壁抜けして戻ってきたエレーヌに、ラリーが聞いた。エレーヌは、役場に用事で来た足の悪いおばあさんに、トイレの付き添いをしていたのである。
ラリーの話を聞いたエレーヌは、手を叩いて喜んだ。
「いいと思います。両親はもともともてなし好きだったんです。ジェームズもきっと、張り合いが出ますわ」
実の娘の同意を得たが、当人たちがどう思うかはまた別である。エレーヌとともに「幽霊屋敷体験ツアー(仮)」の担当になったリリーは、企画書を持って幽霊屋敷へ出向いた。
果たして、エレーヌの見立てどおり、ご夫婦は喜び、ジェームズは半透明の頬を紅潮させて提案を承諾した。
意気揚々と役場に戻ったリリーとエレーヌは、村長のブリジットに報告し、許可を得て、ラリー発案の「幽霊屋敷体験ツアー」は、こうして事業化されたのである。
そこに置かれた4人掛けのテーブルは、マルコの資料館からの贈り物である。古いが丁寧に品よく仕上げられたテーブルとイスで、貴族の庭にふさわしい風格があった。
グランディール夫妻は感激し、花農家夫婦が差し入れてくれた紅茶で来客のもてなしをしながら、庭仕事にも精を出した。幽霊なので疲れるということはないが、貴族なので休憩はしっかり取る。そんなとき、彼らはこの東屋で、育ち始めた花々や日に日にすっきりしていく庭を眺め、自分たちの仕事に満足を覚えた。
幽霊貴族の噂を聞いていた村人たちの中には、好奇心からこの屋敷を訪れる者たちも現れた。花農家夫婦が、仕事の不測の事態のため予備に取ってある花の種や球根を融通してくれたおかげで、雑草天国だった荒れ果てた庭は、今や準備中の庭園の趣となった。グランディール夫妻は、来客に庭の計画を聞かせながら案内する楽しみも得た。
「マートさん、マートさん」
「何だよ、またなんか壊したのか」
「違いますー。今日はペンだって1本も折ってませんー」
「おお、奇跡だな。言い方ムカつくけど」
「それでですね、知ってますか」
「急に話戻したな。何がだよ」
「エレーヌさんのご実家が、今、話題なんですよ!」
「……なんか前にも似たような会話があったような」
「そうですか?」
「まあいいや。あれだろ、村の人たちが屋敷の修理に行ってるってやつだろ」
「えー」リリーは不満そうに口を尖らせた。「何で知ってるんですかー」
「何でそんな残念そうなんだよ。俺だって村の人たちと話ぐらいするよ」
そうなのである。マートも村人と話をすることぐらいあるのである!
という冗談はおいといて、2人の話は本当だった。
いまだに村役場にいるエレーヌにすっかり親しんだ村人たちは、グランディール夫婦の人柄にも惚れ込み、屋敷の修繕や庭仕事の手伝いを進んでするようになった。村役場会計課のセドリックは大いに戸惑ったが、村人の好意による自主的な動きを止めるのもなんだし、別に村の金が出ていくわけでもないし(←こっち大事)、流れに任せることにした。
そして現在、幽霊屋敷は手弁当で集まった村人たちによって、大いに活気づいていた。
そんな折、副村長のラリーが、ふらりと総務課に現れた。
「本当の幽霊におもてなしを受ける幽霊屋敷ツアーなんてどう?」
「はい?」
きょとんとする総務課一同に、ラリーは両手を広げて彼の考えを披露した。
ラリーは、村人に人気だという幽霊屋敷に、もちろん行ってみた。かつて海の男として名を馳せたラリーにとって、幽霊屋敷なんてものは珍しくもなんともなく興味もなかったが、人気とあっては行かねばなるまい、という、朴訥なリリーにはまるでわからない理屈からであった。
副村長ということで、ラリーの副村長としての実態を知らないグランディール夫妻は、ラリーを丁重にもてなし、庭や屋敷の案内をした。
何の期待もしていなかったラリーは、そこで大いに心を動かされた。世界中の幽霊屋敷を見てきた中で、これほど幽霊本人たちに心を込めて手入れされた幽霊屋敷は、かつてあっただろうか。何と素晴らしい、胸を打つことであろうか。
「幽霊屋敷は世界各地にあるし、そのまま住み着いてる幽霊っていうのもありがちだけど、あの屋敷の人たちはさ、普通に僕らと関わってるじゃない。しかもほんとにいい人たちだし、村人にもあんなに好かれてるしさ」
ラリーは、古い時代の正統派執事であるジェームズの振る舞いにも感銘を受けた。「こんな立派な人が、まだいたのか」、と。
それを聞いたリリーとマートが、「死んでますけどね」「死んでるな。いるけど」とひそひそ話していたのは、ラリーには当然のごとく馬耳東風である。
それでラリーは閃いたのだという。
幽霊屋敷を巡る肝試しをした後は、本物の貴族の幽霊と本物の本格派執事の幽霊に、古き時代の様式のもてなしを受ける体験型ツアーをしたらウケるんじゃないか、と。
なるほど、それはちょっと面白そう、とリリーは笑顔になったが、「それって失礼じゃないんすかね」というマートの意見を聞くと、それもそうかな、と表情を引き締めた。
「そぅお? エレーヌちゃん、どう思う?」
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