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第3幕 ゴブリン一家のお引っ越し
第1話 ゴブリン村民申請
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それは、前の晩の嵐のような風雨も止み、台風一過のような晴れ渡った空が広がる、気持ちのいい朝だった。村役場総務課職員のリリーは、父と自分のお弁当を作っているときに、力加減を間違えて包丁でまな板を叩き割った以外にまだ物を壊していない、大変心穏やかなスタートに気を良くしていた。
その上、このところずっと体調が優れずベッドに伏していた妹のエミリーが、今日は学校へ行くと言ったのである! 今日は元気なのね、お姉ちゃん、嬉しい! とばかりに、リリーはスキップしながら村役場へ出勤したのであった。
ところが。
「あれ? ルナ、おはよう。起きてて大丈夫なの?」
受付に出たリリーは、想定外の人物の登場に驚いた。
夜警のルナは、昼夜が完全に逆転した生活をしている。日の光がある時間に彼女が外にいることは、副村長のラリーが村役場にいることぐらいに珍しい。
「ハーイ、リリー。朝の光がまぶしすぎてね、灰になりそうだよ……」
ふふふ、と不気味に笑うルナに、リリーは急いで椅子をすすめた。
「ありがと。でも立ってる。座ったら寝る。絶対に寝る」
既に瞼が閉じかかっているルナは、高い背を折り曲げて、総務課のカウンターに倒れ掛かるように両肘をついた。
「あんたたちにお願いがあってね、連れてきた」
ルナは、カウンターに両肘をついたまま、体をひねって顔を後ろに向けた。
リリーも、もちろんさっきから気づいている。総務課のドアのところでキラキラした目でこちらを見ている毛むくじゃらの3人組。どう見ても人間じゃない3人組。
「ええと、念のために聞くけど、もしかして、もしかしなくても、ゴブリン?」
「正解。おめでとう」
ルナがカウンターに両肘をついたまま、パチパチと拍手した。
「ゴブリンが、総務課にお願いがあるの?」
困惑するリリーのもっともな質問に、ルナは「まあ聞いて」と両手をパタパタさせた。
「昨日の晩、あの嵐の中を歩いてきてね……、宿も取ってないし寝るところもないってんで……、あたしの家で休ませたんだよ……。そんで……」
ルナの顔がどんどん俯き、同時に声も小さくなっていく。リリーはカウンターに頬をくっつけて一生懸命聞いていたが、ふと気がつくと、ルナはその態勢で寝ていた。
「ルナ、ルナ?」
肩をゆすると、ルナはハッと顔を上げたが、目はやはりほとんど閉じていた。
「宿も取ってないし寝るところも」
「うん、そこ聞いた。ルナの家で休ませて、それで?」
「この村で暮らしたいんだってさ。住民登録、してあげて。見た目あれだけど、悪い連中じゃないのは、昨日一晩泊めた私が保証する……」
そこまで言うと、力尽きたようにルナはがくりと首をたらし、カウンターに肘をついたままいびきをかき始めた。
「マートさん、住民登録の書類、出してもらえますか?」
「え? マジで?」
「何がですか?」
きょとんとするリリーを、マートがカウンターから引き剥がすように引っ張った。
「リリー、お前、起きてるか? 目は開いてるがちゃんと起きてるのか? 現実が見えてるか?」
リリーの顔の前で、マートが指を2本立てた。
「これは何本だ?」
「やめてくださいよ、マートさん。ちゃんと起きてますし、開いてる目は現実を見てますよ」
「そうか。じゃあ聞くが、お前が今、住民登録の書類を渡そうとしている相手がゴブリンだってのは、理解できるか?」
「もー、何なんですか、マートさん。ルナがさっき言ってたじゃないですか、悪い連中じゃないって」
ぷっと頬を膨らませて、リリーはマート越しにバーナードに声をかけた。
「いいですよね、バーナード、住民登録して」
バーナードは、うーんと唸った。
「ひとまず話を聞こう」
ゴンッと鈍い音がした。驚いて振り返ったリリーは、カウンターに頭を打ち付けたまま寝続けているルナを発見した。
その上、このところずっと体調が優れずベッドに伏していた妹のエミリーが、今日は学校へ行くと言ったのである! 今日は元気なのね、お姉ちゃん、嬉しい! とばかりに、リリーはスキップしながら村役場へ出勤したのであった。
ところが。
「あれ? ルナ、おはよう。起きてて大丈夫なの?」
受付に出たリリーは、想定外の人物の登場に驚いた。
夜警のルナは、昼夜が完全に逆転した生活をしている。日の光がある時間に彼女が外にいることは、副村長のラリーが村役場にいることぐらいに珍しい。
「ハーイ、リリー。朝の光がまぶしすぎてね、灰になりそうだよ……」
ふふふ、と不気味に笑うルナに、リリーは急いで椅子をすすめた。
「ありがと。でも立ってる。座ったら寝る。絶対に寝る」
既に瞼が閉じかかっているルナは、高い背を折り曲げて、総務課のカウンターに倒れ掛かるように両肘をついた。
「あんたたちにお願いがあってね、連れてきた」
ルナは、カウンターに両肘をついたまま、体をひねって顔を後ろに向けた。
リリーも、もちろんさっきから気づいている。総務課のドアのところでキラキラした目でこちらを見ている毛むくじゃらの3人組。どう見ても人間じゃない3人組。
「ええと、念のために聞くけど、もしかして、もしかしなくても、ゴブリン?」
「正解。おめでとう」
ルナがカウンターに両肘をついたまま、パチパチと拍手した。
「ゴブリンが、総務課にお願いがあるの?」
困惑するリリーのもっともな質問に、ルナは「まあ聞いて」と両手をパタパタさせた。
「昨日の晩、あの嵐の中を歩いてきてね……、宿も取ってないし寝るところもないってんで……、あたしの家で休ませたんだよ……。そんで……」
ルナの顔がどんどん俯き、同時に声も小さくなっていく。リリーはカウンターに頬をくっつけて一生懸命聞いていたが、ふと気がつくと、ルナはその態勢で寝ていた。
「ルナ、ルナ?」
肩をゆすると、ルナはハッと顔を上げたが、目はやはりほとんど閉じていた。
「宿も取ってないし寝るところも」
「うん、そこ聞いた。ルナの家で休ませて、それで?」
「この村で暮らしたいんだってさ。住民登録、してあげて。見た目あれだけど、悪い連中じゃないのは、昨日一晩泊めた私が保証する……」
そこまで言うと、力尽きたようにルナはがくりと首をたらし、カウンターに肘をついたままいびきをかき始めた。
「マートさん、住民登録の書類、出してもらえますか?」
「え? マジで?」
「何がですか?」
きょとんとするリリーを、マートがカウンターから引き剥がすように引っ張った。
「リリー、お前、起きてるか? 目は開いてるがちゃんと起きてるのか? 現実が見えてるか?」
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「これは何本だ?」
「やめてくださいよ、マートさん。ちゃんと起きてますし、開いてる目は現実を見てますよ」
「そうか。じゃあ聞くが、お前が今、住民登録の書類を渡そうとしている相手がゴブリンだってのは、理解できるか?」
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