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第3幕 ゴブリン一家のお引っ越し
第20話 ヘクターの話
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「でもさ、何があったわけ?」
マートの疑問に、「待ってました」とばかりに村人たちが一斉にしゃべりだした。
朝、山へ行ったはずのヘクターが、興奮して村に駆け戻ってきた。気づいた村人は道をそれて逃げたが、杖を突いて歩くシルビアは速く動けない。その場に立ちすくんでしまった。
恐怖からなのか身を守ろうとしたのか、シルビアは、向かってくるヘクターに杖を振り上げた。ヘクターは、それを自分への威嚇とみなした。ヘクターは、頭を下げてシルビアに向かって突っ込んでいった。
そのとき、2体のゴブリンが躍り出て、ヘクターの首と頭に飛びついた。驚いたヘクターが振り切ろうと暴れたが、モンスター界の下っ端とはいえ、そこはモンスターである。体は小さくても、力は強かった。
ガンはヘクターの首にしがみつき、バンはヘクターの角を掴むことに成功した。そこから、長い一進一退が始まった。
時にはバンが優勢になり、そうかと思うとヘクターがバンを押し戻した。一瞬先の動きが読めず、腰を抜かしたシルビアを助けようにも、危なくて誰も近寄れない。ヘクターは後ろ足を激しく蹴り上げる動作をするので、飼い主のベンジャミンでさえ傍へ寄ることができなかった。
膠着状態が続き、誰もが「リリー、早く来て!」と祈っていたときに、おらが村の怪力娘、村役場総務課という名の何でも屋さんのリリーがやって来た。ああ、これで一安心、あのゴブリンたちも助かるぞ、と思った矢先に、唐突に、何の前触れもなく、ヘクターが急に力を抜いた。ということであった。
「ふうん。で、ガンはこいつに何て話しかけてたの?」
「落ち着け、大丈夫だ。なんか怖いことがあったんだろうけど、今はもう大丈夫なんだぞって言っといた」
「へえ。それで落ち着いたんじゃねえかな、この牛。なあ?」
マートが、口をくっちゃくっちゃさせて反芻しているヘクターに話を振った。ヘクターは口の端から涎を垂らしながら、ブモモ、ブモモと何か言うように返事をした。
「そうだってさ。よくそんなに落ち着いて暴れる牛に話かけられたね」
牛と普通に話しているっぽいマートに目をパチパチさせながら、聡明なガンは頷いた。
「ああ、まだここに来る前だけどさ、人間がそうやってるのを見たことがあったんだ。無理やり倒すんじゃなくて、ああいうやり方もあるんだなって思ったことがあったから」
へえー、とみんなが感心した声を出した。
「ありがとう、ありがとう、君たち。君たちはヘクターとこの村の恩人だよ、ありがとう、ほんとにありがとう」
ベンジャミンが顔を汗と涙でぐちゃぐちゃにしながら、バンとガンに握手を求めた。
「え、蜂? ああ、お前、蜂に刺されたの?」
「何ですか、マートさん」
いきなりの謎発言に、リリーがマートを見上げた。
「今、ヘクターが言ってたんだ。草喰ってたらケツが急に痛くなって、小うるさいのが耳元に飛んできたから、見たら蜂だったんだって」
「あ、ほんとだ! ぷっくり膨れてる!」
マートの話を聞いて、急いでヘクターのお尻を確認しにヘクターの後ろに回ったベンジャミンが、驚きの声を上げた。
「マート、もしかしてあんた、牛と話せるんっすか?」
村人に水をもらって一息ついたバンが、腕をさすりながら聞いた。
「うん、そうなの。ってか、牛だけじゃなくて動物全般ね。俺、チートだから。すごい?」
「すごいっす」
ほとんど絶句の状態で、バンが言った。
「そう? もっと褒めていいよ?」
ほらほら、褒めて? と手でアピールするマートを見て、マートさんは褒められたいんだなあ、ふだんあんまり褒められないのかなあ、まあそうだろうなあ、とリリーは思った。
「ほら、シルビア、バンとガンにお礼言わなきゃ」
村人が、シルビアの体を支えながら促した。
シルビアは、バンたちをにらむように見つめていたが、「フン」と顔を背けて、乱暴に杖を突いて人の輪を出ていった。
その場にいたみんなは、やれやれ、しょうがないね、まあシルビアだからね、というように肩をすくめ、苦笑いした。
それでもバンたちに恩義を感じていたのか、その後、シルビアがバンを罵るために畑に現れることはなくなった。
マートの疑問に、「待ってました」とばかりに村人たちが一斉にしゃべりだした。
朝、山へ行ったはずのヘクターが、興奮して村に駆け戻ってきた。気づいた村人は道をそれて逃げたが、杖を突いて歩くシルビアは速く動けない。その場に立ちすくんでしまった。
恐怖からなのか身を守ろうとしたのか、シルビアは、向かってくるヘクターに杖を振り上げた。ヘクターは、それを自分への威嚇とみなした。ヘクターは、頭を下げてシルビアに向かって突っ込んでいった。
そのとき、2体のゴブリンが躍り出て、ヘクターの首と頭に飛びついた。驚いたヘクターが振り切ろうと暴れたが、モンスター界の下っ端とはいえ、そこはモンスターである。体は小さくても、力は強かった。
ガンはヘクターの首にしがみつき、バンはヘクターの角を掴むことに成功した。そこから、長い一進一退が始まった。
時にはバンが優勢になり、そうかと思うとヘクターがバンを押し戻した。一瞬先の動きが読めず、腰を抜かしたシルビアを助けようにも、危なくて誰も近寄れない。ヘクターは後ろ足を激しく蹴り上げる動作をするので、飼い主のベンジャミンでさえ傍へ寄ることができなかった。
膠着状態が続き、誰もが「リリー、早く来て!」と祈っていたときに、おらが村の怪力娘、村役場総務課という名の何でも屋さんのリリーがやって来た。ああ、これで一安心、あのゴブリンたちも助かるぞ、と思った矢先に、唐突に、何の前触れもなく、ヘクターが急に力を抜いた。ということであった。
「ふうん。で、ガンはこいつに何て話しかけてたの?」
「落ち着け、大丈夫だ。なんか怖いことがあったんだろうけど、今はもう大丈夫なんだぞって言っといた」
「へえ。それで落ち着いたんじゃねえかな、この牛。なあ?」
マートが、口をくっちゃくっちゃさせて反芻しているヘクターに話を振った。ヘクターは口の端から涎を垂らしながら、ブモモ、ブモモと何か言うように返事をした。
「そうだってさ。よくそんなに落ち着いて暴れる牛に話かけられたね」
牛と普通に話しているっぽいマートに目をパチパチさせながら、聡明なガンは頷いた。
「ああ、まだここに来る前だけどさ、人間がそうやってるのを見たことがあったんだ。無理やり倒すんじゃなくて、ああいうやり方もあるんだなって思ったことがあったから」
へえー、とみんなが感心した声を出した。
「ありがとう、ありがとう、君たち。君たちはヘクターとこの村の恩人だよ、ありがとう、ほんとにありがとう」
ベンジャミンが顔を汗と涙でぐちゃぐちゃにしながら、バンとガンに握手を求めた。
「え、蜂? ああ、お前、蜂に刺されたの?」
「何ですか、マートさん」
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「今、ヘクターが言ってたんだ。草喰ってたらケツが急に痛くなって、小うるさいのが耳元に飛んできたから、見たら蜂だったんだって」
「あ、ほんとだ! ぷっくり膨れてる!」
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「マート、もしかしてあんた、牛と話せるんっすか?」
村人に水をもらって一息ついたバンが、腕をさすりながら聞いた。
「うん、そうなの。ってか、牛だけじゃなくて動物全般ね。俺、チートだから。すごい?」
「すごいっす」
ほとんど絶句の状態で、バンが言った。
「そう? もっと褒めていいよ?」
ほらほら、褒めて? と手でアピールするマートを見て、マートさんは褒められたいんだなあ、ふだんあんまり褒められないのかなあ、まあそうだろうなあ、とリリーは思った。
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