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第4章 夏祭り
第2話 迷子のお知らせ
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ヴィヴィアンと歩き始めてしばらくすると、風に乗ってマートの声が聞こえてきた。
「ピンポンパンポーン。迷子のお知らせです。ケイン君という、緑色の上着を着た4歳ぐらいのお子様が迷子になっています。お心当たりのある方は、村役場前広場、運営委員会テントまでお越しください。繰り返します……」
「何、これ?」
空に目を向けてじっと声に耳を傾けていたヴィヴィアンが、隣を歩くリリーに聞いた。
「マートさんっていう、私の同僚のおじさん。いろんな魔法が使えるんだけど、これは風の魔法を使って声を拡散してるんだって」
「へえー、おもしろい。あ、マートって、あんたが時々手紙に書いてくる、あの変なおじさん?」
「うん。変なおじさん」
少女2人に変なおじさんと連呼されたマートによる迷子のお知らせは、「ピンポンパンポーン」と謎のメロディーを歌って終わった。
「いろいろ魔法使えるんだけど、なんか制御が下手くそなんだよね。この迷子のお知らせも、最初は迷子の子の泣き声が大音量で響いちゃって、何かまずいことが起きてんじゃないかって、本部に問い合わせが複数来た」
アハハ、とヴィヴィアンが笑った。
「なんか、この村らしいー」
ヴィヴィアンと笑いながら、リリーは、そうかも、この村らしいかも、と思った。なぜだかわからないが、嬉しかった。
「あれ? あそこにいるのって、クララじゃない?」
ヴィヴィアンが指をさす先に、人の輪があった。その中心にクララが椅子に座って絵を描いている。
「うん。似顔絵描くんだって」
「クララが?」
ヴィヴィアンがびっくりした顔でリリーを見た。
「クララね、幽霊屋敷の幽霊さんたちの肖像画を描いたの。すごくいい出来なんだよ。幽霊さんたちそれぞれの個性とかあったかさとかがちゃんと描かれてて。それから人物描くのにはまったらしくて、このお祭りで似顔絵描いて稼ぐんだって言ってた」
肖像画にはグランディール一家3人と、執事のジェームズも描かれている。ご家族がどうしてもジェームズも一緒にと言ってきかず、ジェームズが折れたのだそうだ(説得にすっっっごい時間かかってさー。いつ始めんの?ってイライラしたbyクララ)。
完成した肖像画は、淡い光に包まれているような、穏やかな優しさに満ちていた。ご家族もジェームズも、この絵を見て泣いたという。「私たちの宝物ね」とのマーガレットの言葉は、クララが一歩を踏み出す大きな力になった。
「へえ、それでクララの人見知りが直ったんだ?」
「うん。あのお屋敷の幽霊さんたち、みんなほんとにすごくいい人たちなんだよ。今もクララは、幽霊屋敷の血糊を描くのに通ってるらしいよ」
「そ、そうなんだ」
香ばしい匂いにつられて焼きとうもろこしを買った。屋台の店主は、リリーに焼きとうもろこしを渡すとき、「これ、バンが作ったとうもろこしだよ。うまいよ」と一言添えた。
「バンって?」
焼きとうもろこしをかじって歩きながら、ヴィヴィアンが聞いた。
「ゴブリンのお父さん。エリックとナタリーの畑で働いてるよ」
「ねえ、ほんとにゴブリンがいるの?」
「いるよ。あ、そこのオルガのお店で、ゴブリンのお母さんのザンが働いてるけど、行く?」
オルガの店『鶉屋』は、祭りの日だけ店の外にもテーブルを出している。談笑している客たちの前に並ぶお皿の中には、ザンの手による料理も含まれているかもしれない。任される料理が増えたと、先日、ザンがはにかみながら教えてくれた。
「え、ううん、いい」
ヴィヴィアンは慌てた様子で首を横に振った。
「そう?」
ヴィヴィアンにザンを紹介できないのは残念だ。凶悪なゴブリンのイメージを完膚なきまで覆す、あのかわいらしい声と恥ずかしがり屋のザンを見れば、誰でもほっこりするに違いないのだ。現に、店から出てきた人たちは、何やら新しい世界に目覚めたかのように晴れ晴れとした顔をしている。
人ごみの中から、突然、男の子が飛び出してきた。ドンッとリリーのスカートの太もも辺りに手をついてぶつかっり、そのまま駆けていってしまった。
「あの子、1人なのかな」
迷子かなと心配したリリーは目で追っていたが、あっという間に人の波に紛れて見えなくなった。
「あれ、リリー、スカート汚れてるよ?」
「え?」
ヴィヴィアンに言われて目を下ろすと、確かに、小さなシミがポツポツと付いている。
「これ、さっきの子の指の跡じゃない? 何か食べてたのかな。指に油でも付いてたのかもね」
しげしげと見ていたヴィヴィアンはそう言うと、洗ってきなよとリリーを促したが、リリーは、たいした汚れじゃないから、と笑って受け流した。
「ピンポンパンポーン。迷子のお知らせです。ケイン君という、緑色の上着を着た4歳ぐらいのお子様が迷子になっています。お心当たりのある方は、村役場前広場、運営委員会テントまでお越しください。繰り返します……」
「何、これ?」
空に目を向けてじっと声に耳を傾けていたヴィヴィアンが、隣を歩くリリーに聞いた。
「マートさんっていう、私の同僚のおじさん。いろんな魔法が使えるんだけど、これは風の魔法を使って声を拡散してるんだって」
「へえー、おもしろい。あ、マートって、あんたが時々手紙に書いてくる、あの変なおじさん?」
「うん。変なおじさん」
少女2人に変なおじさんと連呼されたマートによる迷子のお知らせは、「ピンポンパンポーン」と謎のメロディーを歌って終わった。
「いろいろ魔法使えるんだけど、なんか制御が下手くそなんだよね。この迷子のお知らせも、最初は迷子の子の泣き声が大音量で響いちゃって、何かまずいことが起きてんじゃないかって、本部に問い合わせが複数来た」
アハハ、とヴィヴィアンが笑った。
「なんか、この村らしいー」
ヴィヴィアンと笑いながら、リリーは、そうかも、この村らしいかも、と思った。なぜだかわからないが、嬉しかった。
「あれ? あそこにいるのって、クララじゃない?」
ヴィヴィアンが指をさす先に、人の輪があった。その中心にクララが椅子に座って絵を描いている。
「うん。似顔絵描くんだって」
「クララが?」
ヴィヴィアンがびっくりした顔でリリーを見た。
「クララね、幽霊屋敷の幽霊さんたちの肖像画を描いたの。すごくいい出来なんだよ。幽霊さんたちそれぞれの個性とかあったかさとかがちゃんと描かれてて。それから人物描くのにはまったらしくて、このお祭りで似顔絵描いて稼ぐんだって言ってた」
肖像画にはグランディール一家3人と、執事のジェームズも描かれている。ご家族がどうしてもジェームズも一緒にと言ってきかず、ジェームズが折れたのだそうだ(説得にすっっっごい時間かかってさー。いつ始めんの?ってイライラしたbyクララ)。
完成した肖像画は、淡い光に包まれているような、穏やかな優しさに満ちていた。ご家族もジェームズも、この絵を見て泣いたという。「私たちの宝物ね」とのマーガレットの言葉は、クララが一歩を踏み出す大きな力になった。
「へえ、それでクララの人見知りが直ったんだ?」
「うん。あのお屋敷の幽霊さんたち、みんなほんとにすごくいい人たちなんだよ。今もクララは、幽霊屋敷の血糊を描くのに通ってるらしいよ」
「そ、そうなんだ」
香ばしい匂いにつられて焼きとうもろこしを買った。屋台の店主は、リリーに焼きとうもろこしを渡すとき、「これ、バンが作ったとうもろこしだよ。うまいよ」と一言添えた。
「バンって?」
焼きとうもろこしをかじって歩きながら、ヴィヴィアンが聞いた。
「ゴブリンのお父さん。エリックとナタリーの畑で働いてるよ」
「ねえ、ほんとにゴブリンがいるの?」
「いるよ。あ、そこのオルガのお店で、ゴブリンのお母さんのザンが働いてるけど、行く?」
オルガの店『鶉屋』は、祭りの日だけ店の外にもテーブルを出している。談笑している客たちの前に並ぶお皿の中には、ザンの手による料理も含まれているかもしれない。任される料理が増えたと、先日、ザンがはにかみながら教えてくれた。
「え、ううん、いい」
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「そう?」
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「え?」
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「これ、さっきの子の指の跡じゃない? 何か食べてたのかな。指に油でも付いてたのかもね」
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