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第5章 最終章
第4話 火竜の子2
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火竜の子は、短い脚で立ったまま必死に威嚇のポーズを続けていたが、やはり不安なのだろう、キョロキョロと辺りを見回した。親を探しているのかもしれないその様子に、リリーは不憫な気持ちでいっぱいになる。
「なあ、君さ、何でこんなところにひとりでいるの?」
あれだけ竜との会話を嫌がっていたマートだが、相手がこうもかわいい相手だとわかったからか、腰を落として目線を低くしたまま、優しく話しかけた。しかし、まさか人間から普通に話しかけられるとは思わなかったのだろう。火竜の子はびっくりしたようで、きれいな緑色の目をぱちぱちした。
「か、かわいいです」
「うん、かわいいな」
火竜の子は、一度腕と羽を下ろしかけたが、はっとしたように再び精一杯体を広げて、小さな自分を大きく見せようと頑張った。
「か、かわいいです」
「うん、かわいいな」
と、こんなことをしていては話が進まないので、マートは話を進めることにした。
「俺の言ってること、わかる? 俺たちは君の敵じゃないよ。君ひとりでどうしたんだろうって心配してるんだ」
火竜の子は、少しの間ためらったあと、威嚇のポーズをやめて地面に尻を着いて座った。
「すごいですね、マートさん。ちゃんと話、通じてるみたいですよ!」
「うん。だといいんだけどね」
「違うんですか?」
「あっちの声は聞こえないんだ。まあ、まだ俺たちを警戒してるからなんだろうけど」
マートとリリーは、こちらが立ち上がっていると威圧感を与えかねないという気遣いから、その場にしゃがみ込んだままコソコソと話した。
マートは、辛抱強く火竜の子に話しかけ続けた。
リリーは、マートさんは意外と幼い相手には優しいのかな、村の子どもたちに人気あるしな、と考え、でも村の子どもたちはマートを大人というより自分たちの仲間として見ている様子なのを思い出して、どっちかというとそうだろうなと考え直した。
火竜の子は、緑色の大きな目をじっとマートに向けていた。
火竜の子が、口を開いた。火竜が口から火を吐くことを知っているリリーは身構えた。火竜の子の炎がどの範囲まで届くのかはわからないが、できる限り遠のいたほうがいいだろう。リリーは素早く周囲に目を走らせ、自分がマートを抱えて逃げられる場所を探った。
その緊張が伝わったのか、火竜の子が、サッとリリーを見た。
「大丈夫だよ。このお姉ちゃんは、人間離れしすぎちゃってる天然馬鹿力野郎だけど、君を攻撃するためにいるわけじゃないからね」
途中に何か余計な発言があったような気もするが、敵意がないのは確かなので、リリーはできるだけ不安を解いてもらえるよう笑顔を作った。
「怖ーよ」
余計なことを言うマートを、リリーは肘で突いた。しゃがんでつま先立ちしていたマートが地面に転がったが、リリーは知らぬふりをした。マートが体を起こしながらぶちぶちと文句を言うのも、当然知らぬふりである。
そんな2人を目を凝らしてじっと見ていた火竜の子が、口を開いて動かした。でも、何の音も聞こえない。リリーがマートを見ると、マートには聞こえているのか、マートはふんふんとうなずいていた。
「そっか。君、お父さんと離れちゃったのか」
マートが言うには、この火竜の子は、父親と共に父親の故郷に向かう旅をしていたらしい。
夜にこの近くを飛んでいた時、山の中でチラチラと光るものがあった。火竜の子は、何の光なのか見ようと近づいた。でも上空からでは木々に遮られ、よく見えない。しばらくうろうろと木の上を飛び回ったが、結局諦めた。火竜の子が顔を上げた時、父親の姿はどこにも見えなかった。
「それで、とにかくそれまで進んでいた方向に飛んでいたらしいんだけど、朝になっちゃったから、身を隠すために山に下りたんだって」
何ともかわいそうな話である。元気なくしょんぼりとうなだれている火竜の子は、かわいそうなのだが、めちゃくちゃかわいい。リリーの頬はつい緩む。
「え? ああ、お腹空いてるのか。えーと、君、いつも何食べてるの?」
そんなことも知らないのかと、リリーはびっくりしてマートを見た。それから、そうだ、マートさんの国では竜はいないらしかったと思い直した。
「え、ヒ? ヒって……」
火竜の子が伝えたようだ。が、マートにはいまいち想像がつかないらしい。困惑するマートに、リリーが助け舟を出した。
「マートさん、『ヒ』は、炎の『火』です。火竜は、幼いうちは火だけを食べるんですよ」
「へえー」
驚きの声を上げるマートの隣で、リリーは、火ってどのくらい必要なのかな、その辺の枝とかで焚火を作ればいいのかな、と考えて辺りを見回した。
「あ、俺、火、出せるわ」
言うが早いか、マートは指先に小さな火を灯した。
パッと顔を上げた火竜の子が小さく口を開くと、瞬く間にマートの指先の火は消えた。
あれ、この感じ、どこかで? とリリーは首をひねったが、うまく思い出せない。
火竜の子は、またしょんぼりとうなだれた。
「足んない? もうちょっといる?」
マートがさっきより大きな火を生み出した。その火も、生み出された瞬間、消えていく。
しばらくそんなことを続けていたら、火竜の子が満足そうに、ケプッとげっぷをした。ぽってりした丸い腹も、心なしかさっきより膨れているように見える。
「か、かわいいです」
「うん、かわいいな」
満足そうに目を細める火竜の子を、2人はほのぼのと眺めた。
「なあ、君さ、何でこんなところにひとりでいるの?」
あれだけ竜との会話を嫌がっていたマートだが、相手がこうもかわいい相手だとわかったからか、腰を落として目線を低くしたまま、優しく話しかけた。しかし、まさか人間から普通に話しかけられるとは思わなかったのだろう。火竜の子はびっくりしたようで、きれいな緑色の目をぱちぱちした。
「か、かわいいです」
「うん、かわいいな」
火竜の子は、一度腕と羽を下ろしかけたが、はっとしたように再び精一杯体を広げて、小さな自分を大きく見せようと頑張った。
「か、かわいいです」
「うん、かわいいな」
と、こんなことをしていては話が進まないので、マートは話を進めることにした。
「俺の言ってること、わかる? 俺たちは君の敵じゃないよ。君ひとりでどうしたんだろうって心配してるんだ」
火竜の子は、少しの間ためらったあと、威嚇のポーズをやめて地面に尻を着いて座った。
「すごいですね、マートさん。ちゃんと話、通じてるみたいですよ!」
「うん。だといいんだけどね」
「違うんですか?」
「あっちの声は聞こえないんだ。まあ、まだ俺たちを警戒してるからなんだろうけど」
マートとリリーは、こちらが立ち上がっていると威圧感を与えかねないという気遣いから、その場にしゃがみ込んだままコソコソと話した。
マートは、辛抱強く火竜の子に話しかけ続けた。
リリーは、マートさんは意外と幼い相手には優しいのかな、村の子どもたちに人気あるしな、と考え、でも村の子どもたちはマートを大人というより自分たちの仲間として見ている様子なのを思い出して、どっちかというとそうだろうなと考え直した。
火竜の子は、緑色の大きな目をじっとマートに向けていた。
火竜の子が、口を開いた。火竜が口から火を吐くことを知っているリリーは身構えた。火竜の子の炎がどの範囲まで届くのかはわからないが、できる限り遠のいたほうがいいだろう。リリーは素早く周囲に目を走らせ、自分がマートを抱えて逃げられる場所を探った。
その緊張が伝わったのか、火竜の子が、サッとリリーを見た。
「大丈夫だよ。このお姉ちゃんは、人間離れしすぎちゃってる天然馬鹿力野郎だけど、君を攻撃するためにいるわけじゃないからね」
途中に何か余計な発言があったような気もするが、敵意がないのは確かなので、リリーはできるだけ不安を解いてもらえるよう笑顔を作った。
「怖ーよ」
余計なことを言うマートを、リリーは肘で突いた。しゃがんでつま先立ちしていたマートが地面に転がったが、リリーは知らぬふりをした。マートが体を起こしながらぶちぶちと文句を言うのも、当然知らぬふりである。
そんな2人を目を凝らしてじっと見ていた火竜の子が、口を開いて動かした。でも、何の音も聞こえない。リリーがマートを見ると、マートには聞こえているのか、マートはふんふんとうなずいていた。
「そっか。君、お父さんと離れちゃったのか」
マートが言うには、この火竜の子は、父親と共に父親の故郷に向かう旅をしていたらしい。
夜にこの近くを飛んでいた時、山の中でチラチラと光るものがあった。火竜の子は、何の光なのか見ようと近づいた。でも上空からでは木々に遮られ、よく見えない。しばらくうろうろと木の上を飛び回ったが、結局諦めた。火竜の子が顔を上げた時、父親の姿はどこにも見えなかった。
「それで、とにかくそれまで進んでいた方向に飛んでいたらしいんだけど、朝になっちゃったから、身を隠すために山に下りたんだって」
何ともかわいそうな話である。元気なくしょんぼりとうなだれている火竜の子は、かわいそうなのだが、めちゃくちゃかわいい。リリーの頬はつい緩む。
「え? ああ、お腹空いてるのか。えーと、君、いつも何食べてるの?」
そんなことも知らないのかと、リリーはびっくりしてマートを見た。それから、そうだ、マートさんの国では竜はいないらしかったと思い直した。
「え、ヒ? ヒって……」
火竜の子が伝えたようだ。が、マートにはいまいち想像がつかないらしい。困惑するマートに、リリーが助け舟を出した。
「マートさん、『ヒ』は、炎の『火』です。火竜は、幼いうちは火だけを食べるんですよ」
「へえー」
驚きの声を上げるマートの隣で、リリーは、火ってどのくらい必要なのかな、その辺の枝とかで焚火を作ればいいのかな、と考えて辺りを見回した。
「あ、俺、火、出せるわ」
言うが早いか、マートは指先に小さな火を灯した。
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