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第1章 井戸の中のスライム騒動
第5話 総務課にて
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リリーとマートが総務課に戻ると、バーナードが外出の準備をしているところだった。
「あれ、バーナード、どこか行くんですか?」
リリーは、バーナードが机に並べているものを見て首を傾げた。外出にしては、ナイフだとか鎌だとか、ちょっと物々しい道具が並んでいる。大工も兼務しているバーナードは、大工道具を持って出かけることは(割としょっちゅう)あるが、これはまた種類が違う。
「おう、リリーにマート、お疲れさん。俺はちょっとこれから水源に行ってみようと思ってな」
「水源っすか」
「ああ。何かわかるかもしれないからな」
「ペネロペも水源のことを言ってたっすよ」
マートは、普段から「俺、だるいんでアピール」を全開にしているような男だが、バーナードには一目置いている節がある。今回も、とろんと眠そうな目に、かすかだが尊敬の念が浮かんでいた。
「そうか。ペネロペは、ほかに何か言っていたか?」
「いやー。特に思い当たることもないっぽかったっすね。あ、そうだ、何かいきなり水が教室中に現れたんすけど、すごいっすね、あれ」
「ああ、出したか。そうだな、彼女は動揺すると水を呼び寄せるらしい。教室は無事だったか?」
「はい!」
リリーが元気よくシュッと手を挙げた。
「マートさんが、スライムはご自分で責任を持って山に放つとペネロペに約束して収まりました!」
「あっ、お前!」
マートは慌てたが、
「ほう?」
バーナードの何か言いたそうな視線を受けて、マートは目を宙に彷徨わせた。
「あ、そうそう、そのときペネロペは、井戸のスライムたちがどうなるのか気にしてたんすよ。駆除するんじゃかわいそうだって」
「そうだな。それも考えないとな」
マートは、やれやれ助かった、という感じで、自分の机に戻っていった。
リリーは、スライムを山に放つといっても村中の井戸にいるしな、どうするんだろうな、まあマートさんがやるって言ったんだから私は考えなくていいかな、となかなかに無責任かつ割と冷たいことを考えていた。
バーナードが大きなあくびをしているマートに体を向けた。
「マート、お前も来ないか?」
「え、俺っすか?」
「ああ。水源のある山は、そうそうモンスターがいるわけじゃないが、いないわけでもない。お前は魔法が使えるだろ? もしかしたら、必要になるかもしれない」
マートは、あからさまに嫌そうな顔をした。
「使えるっつっても、まだ俺、魔法は扱い慣れてないんすよね。それに、そういうことならリリーが適任じゃないっすか? すげー力持ちだし」
「いや、リリーには村に残ってやってもらいたいことがある」
「はい、何でしょうか!」
居残りなら書類整理なのかな、できればそれ以外がいいな、と事務仕事の苦手なリリーは祈った。またペン折っちゃうかも、と考えただけでセドリックの陰気な顔がまぶたに浮かんできて、すみません、とまぶたの裏のセドリックに反射的に謝ってしまう。
「井戸のスライムだけどな、どうやら数を増やしているらしい。このままだと井戸から溢れかねないから、重石をして回ってもらいたいんだ」
「はい、わかりました!」
よかった、書類整理じゃない! と笑顔になったリリーに、マートが思いっきり口をへの字に曲げてみせた。それに対して、リリーは口を思いっきり横に引いて、イーッとやってやった。
「そういうことなんでな、マート。よろしくな」
「へーい」
マートはのろのろ腰を上げた。
「水源って、近いんすか?」
「ああ、あっちの」とバーナードが総務課の窓越しに見える山を指差した。「見えるか? あの山だ」
「山登りっすか……」
マートはどうも気が進まないようである。とはいえ、いつもこの感じなので、バーナードは気にせず続けた。
「山登りは嫌いか? まあ、それほど高くないし、この村では学校の遠足で子どもが登るような山だ。山頂まで行くわけでもないし、それほど大変じゃないさ」
「そうっすか」
マートは気づいていないのかもしれないが、バーナードが用意している道具を見れば、学校の遠足で子どもたちが使う登山道ばかりを行くわけではないことは察しが付く。実際、水源は登山道から離れた場所にあり、なかなかの急斜面が続いたりする。
が、そんなことを教えれば、マートが余計に愚図るのは目に見えている。バーナードがそのことを言わないのは意図してのことなのかどうかわからないが、村の井戸に重石をして回る役目を仰せつかったリリーには、これっぽっちも関係ないことである。
リリーはルンルン気分で扉の前へ駆けて行った。
「頼んだぞ」「おい、壊すなよ!」
バーナードとマートの2人の声が、同時にリリーの背中にかけられた。リリーは扉の前で飛び上がるように背筋を伸ばし、「はい!」と元気よく答え、そーっと扉を開けた。
「あれ、バーナード、どこか行くんですか?」
リリーは、バーナードが机に並べているものを見て首を傾げた。外出にしては、ナイフだとか鎌だとか、ちょっと物々しい道具が並んでいる。大工も兼務しているバーナードは、大工道具を持って出かけることは(割としょっちゅう)あるが、これはまた種類が違う。
「おう、リリーにマート、お疲れさん。俺はちょっとこれから水源に行ってみようと思ってな」
「水源っすか」
「ああ。何かわかるかもしれないからな」
「ペネロペも水源のことを言ってたっすよ」
マートは、普段から「俺、だるいんでアピール」を全開にしているような男だが、バーナードには一目置いている節がある。今回も、とろんと眠そうな目に、かすかだが尊敬の念が浮かんでいた。
「そうか。ペネロペは、ほかに何か言っていたか?」
「いやー。特に思い当たることもないっぽかったっすね。あ、そうだ、何かいきなり水が教室中に現れたんすけど、すごいっすね、あれ」
「ああ、出したか。そうだな、彼女は動揺すると水を呼び寄せるらしい。教室は無事だったか?」
「はい!」
リリーが元気よくシュッと手を挙げた。
「マートさんが、スライムはご自分で責任を持って山に放つとペネロペに約束して収まりました!」
「あっ、お前!」
マートは慌てたが、
「ほう?」
バーナードの何か言いたそうな視線を受けて、マートは目を宙に彷徨わせた。
「あ、そうそう、そのときペネロペは、井戸のスライムたちがどうなるのか気にしてたんすよ。駆除するんじゃかわいそうだって」
「そうだな。それも考えないとな」
マートは、やれやれ助かった、という感じで、自分の机に戻っていった。
リリーは、スライムを山に放つといっても村中の井戸にいるしな、どうするんだろうな、まあマートさんがやるって言ったんだから私は考えなくていいかな、となかなかに無責任かつ割と冷たいことを考えていた。
バーナードが大きなあくびをしているマートに体を向けた。
「マート、お前も来ないか?」
「え、俺っすか?」
「ああ。水源のある山は、そうそうモンスターがいるわけじゃないが、いないわけでもない。お前は魔法が使えるだろ? もしかしたら、必要になるかもしれない」
マートは、あからさまに嫌そうな顔をした。
「使えるっつっても、まだ俺、魔法は扱い慣れてないんすよね。それに、そういうことならリリーが適任じゃないっすか? すげー力持ちだし」
「いや、リリーには村に残ってやってもらいたいことがある」
「はい、何でしょうか!」
居残りなら書類整理なのかな、できればそれ以外がいいな、と事務仕事の苦手なリリーは祈った。またペン折っちゃうかも、と考えただけでセドリックの陰気な顔がまぶたに浮かんできて、すみません、とまぶたの裏のセドリックに反射的に謝ってしまう。
「井戸のスライムだけどな、どうやら数を増やしているらしい。このままだと井戸から溢れかねないから、重石をして回ってもらいたいんだ」
「はい、わかりました!」
よかった、書類整理じゃない! と笑顔になったリリーに、マートが思いっきり口をへの字に曲げてみせた。それに対して、リリーは口を思いっきり横に引いて、イーッとやってやった。
「そういうことなんでな、マート。よろしくな」
「へーい」
マートはのろのろ腰を上げた。
「水源って、近いんすか?」
「ああ、あっちの」とバーナードが総務課の窓越しに見える山を指差した。「見えるか? あの山だ」
「山登りっすか……」
マートはどうも気が進まないようである。とはいえ、いつもこの感じなので、バーナードは気にせず続けた。
「山登りは嫌いか? まあ、それほど高くないし、この村では学校の遠足で子どもが登るような山だ。山頂まで行くわけでもないし、それほど大変じゃないさ」
「そうっすか」
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