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第1章 井戸の中のスライム騒動
第6話 井戸の重石
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リリーが井戸の状態を確認しに村を歩いていると、ばったりライオと会った。
「ライオ、何してんの? こんなところで」
「村の人たちの水汲みの手伝いをしてたんだよ。さっき、やっと一通り終えたんだ」
そう言えば、副村長のラリーに、栗の丘の泉の水をご婦人方の家に運ぶようにと言われたとき、ライオが代わりにやると申し出てくれたのだった。リリーはすっかり忘れていた(てへっ)。
「お疲れさま。郵便局に帰るの?」
「うん、まあ。リリーはどうしたの?」
リリーが、バーナードに井戸の中のスライムがあふれ出ないよう重石をするよう言われてきたことを言うと、ライオは、「ああ」とうなずいた。
「そうなんだよ。朝よりもスライムが増えているみたいなんだ。だからもう、あちこちでみんなが蓋に重石を乗せてるよ」
「そうみたいだね」
リリーはここに来るまでに、既にいくつかの井戸で、それはそれは斬新な重石を見てきた。
ある場所の井戸では、小石を詰めた鍋・釜・薬缶だけでは足りないと思ったと見え、調理道具をまたぐように椅子が乗っていた。だけに飽き足らず、その椅子の上にはさらに壺が乗っており、農機具や大工道具が絶妙なバランスを保って突っ込まれていた。
別の井戸では、土嚢が寸分の無駄もなく機能的に美しく積み上がっており、職人の心意気を感じさせた。また別の場所では、たらい一杯に土を積めただけのシンプルな重石もあった。それを作った村人は「見て、ほら、小鳥たちが砂浴びに来るの!」と喜んでいた。
なにゆえ村人たちが趣向を凝らしてまで重石をするのか。スライムがその辺に溢れたら嫌だ、という以外に、結構深刻な問題があるからである。
そもそも、スライムは悪さをするモンスターではない。下手に刺激を与えなければ、噛みついてくることもない。たとえ噛みつかれても、歯がないので大きなケガにはならない。とはいえ、それなりに痛い。大人でもあざになったりするから、幼い子は注意が必要だ。
もしスライムが井戸から出てしまっても、あの陽気な声で「ハチャッ」とか呟きつつその辺に転がっているだけなので、問題になることはそうそうない。1匹や2匹であれば、村から離れた山に放せば済んでしまう。
問題は、その量だった。
スライムは、食物連鎖の下位にいる。村のような狭い範囲に大量のスライムがいたら、そのスライムを食べるためにほかの大きなモンスターを呼び寄せてしまうことは十分に考えられる。村には滅多に危険なモンスターはやってこないが、こんな食べ放題の状況を知ったら、興味を引いてしまうかもしれなかった。
てなわけで、村人たちは、それなりに真剣に重石になりそうなものを手当たり次第に井戸の蓋に乗せた。その結果、(多分)意図せず斬新なオブジェがあちこちで誕生するに至ったのである。
ちなみにライオは、これまたあちこちで重石づくりに参加していた。あの機能美あふれる土嚢の積み上げも手伝ったライオは、
「僕、すごい勉強になったよ」
と爽やかな笑顔で言っていたので、みんなのアイドル(かつ便利屋さん)であるところの郵便配達員のライオは、彼なりに充実した時間を過ごしていたらしい。
こうなってくると、もうライオは総務課職員みたいな気がしてならないリリーだが、何せ国のどん詰まりの山間部にあるたいして大きくもない村である。村人たちが互いに協力し合うことで、村の生活は維持されている。だから村人は、自分の専業以外の仕事も割とそこそこできてしまったりする。
特に8年前に馬車道ができて以来、若者たちがどんどん村を出ていってしまう現状では、ライオのような元気で素直な若者は、すこぶる便利……失礼、重宝されるのである。
こうした作品群ならぬ重石を見て回りながら、リリーは、もう自分のやることってないんじゃないかな、とそこはかとなく寂しく思わないでもなかったが、ある井戸で、おばあさんがぽつねんと蓋の上に座っているのを見た。
事情を聞くと、「あたしはもう年だから。何にもできないから。せめてこうして重石代わりに座ってんの」と言われ、リリーは急いでそこら辺にあった丸太をそこら辺にあった斧で適当な長さにぶった切って、おばあさんの代わりに置いた。
「リリー、ありがとうね。今度、また薪割りお願いね」
と感謝とともにさらりと仕事をお願いされた。
「ライオ、何してんの? こんなところで」
「村の人たちの水汲みの手伝いをしてたんだよ。さっき、やっと一通り終えたんだ」
そう言えば、副村長のラリーに、栗の丘の泉の水をご婦人方の家に運ぶようにと言われたとき、ライオが代わりにやると申し出てくれたのだった。リリーはすっかり忘れていた(てへっ)。
「お疲れさま。郵便局に帰るの?」
「うん、まあ。リリーはどうしたの?」
リリーが、バーナードに井戸の中のスライムがあふれ出ないよう重石をするよう言われてきたことを言うと、ライオは、「ああ」とうなずいた。
「そうなんだよ。朝よりもスライムが増えているみたいなんだ。だからもう、あちこちでみんなが蓋に重石を乗せてるよ」
「そうみたいだね」
リリーはここに来るまでに、既にいくつかの井戸で、それはそれは斬新な重石を見てきた。
ある場所の井戸では、小石を詰めた鍋・釜・薬缶だけでは足りないと思ったと見え、調理道具をまたぐように椅子が乗っていた。だけに飽き足らず、その椅子の上にはさらに壺が乗っており、農機具や大工道具が絶妙なバランスを保って突っ込まれていた。
別の井戸では、土嚢が寸分の無駄もなく機能的に美しく積み上がっており、職人の心意気を感じさせた。また別の場所では、たらい一杯に土を積めただけのシンプルな重石もあった。それを作った村人は「見て、ほら、小鳥たちが砂浴びに来るの!」と喜んでいた。
なにゆえ村人たちが趣向を凝らしてまで重石をするのか。スライムがその辺に溢れたら嫌だ、という以外に、結構深刻な問題があるからである。
そもそも、スライムは悪さをするモンスターではない。下手に刺激を与えなければ、噛みついてくることもない。たとえ噛みつかれても、歯がないので大きなケガにはならない。とはいえ、それなりに痛い。大人でもあざになったりするから、幼い子は注意が必要だ。
もしスライムが井戸から出てしまっても、あの陽気な声で「ハチャッ」とか呟きつつその辺に転がっているだけなので、問題になることはそうそうない。1匹や2匹であれば、村から離れた山に放せば済んでしまう。
問題は、その量だった。
スライムは、食物連鎖の下位にいる。村のような狭い範囲に大量のスライムがいたら、そのスライムを食べるためにほかの大きなモンスターを呼び寄せてしまうことは十分に考えられる。村には滅多に危険なモンスターはやってこないが、こんな食べ放題の状況を知ったら、興味を引いてしまうかもしれなかった。
てなわけで、村人たちは、それなりに真剣に重石になりそうなものを手当たり次第に井戸の蓋に乗せた。その結果、(多分)意図せず斬新なオブジェがあちこちで誕生するに至ったのである。
ちなみにライオは、これまたあちこちで重石づくりに参加していた。あの機能美あふれる土嚢の積み上げも手伝ったライオは、
「僕、すごい勉強になったよ」
と爽やかな笑顔で言っていたので、みんなのアイドル(かつ便利屋さん)であるところの郵便配達員のライオは、彼なりに充実した時間を過ごしていたらしい。
こうなってくると、もうライオは総務課職員みたいな気がしてならないリリーだが、何せ国のどん詰まりの山間部にあるたいして大きくもない村である。村人たちが互いに協力し合うことで、村の生活は維持されている。だから村人は、自分の専業以外の仕事も割とそこそこできてしまったりする。
特に8年前に馬車道ができて以来、若者たちがどんどん村を出ていってしまう現状では、ライオのような元気で素直な若者は、すこぶる便利……失礼、重宝されるのである。
こうした作品群ならぬ重石を見て回りながら、リリーは、もう自分のやることってないんじゃないかな、とそこはかとなく寂しく思わないでもなかったが、ある井戸で、おばあさんがぽつねんと蓋の上に座っているのを見た。
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と感謝とともにさらりと仕事をお願いされた。
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