私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤

文字の大きさ
35 / 178
第1章 薬師大学校編

35話 癒し

しおりを挟む
 精霊はしばらくすると、舞の膝の上で目を覚ましたのだ。
 舞は二階の自分の部屋に行き、ベッドに腰掛けて精霊の様子を伺っていたのだ。


 私が目を覚ますと、舞の心配そうな顔を見る事が出来た。
 起き上がり周りを見回すと、いつの間に舞の部屋に移動していたらしい。
 私は眠っていたようだが、はっきりとした記憶が無かった。

「舞、私は一体どうしたのでしょうか?
 上手く思い出せないのですが・・・」

 あの不審者達が火を放った事を知って、私は怒りを抑えられなかった事を思い出したのだ。
 だが、その後の事はやはり思い出せなかったのだ。

「舞、あの者達は?
 火は問題なかったのですか?」

 舞は私を見て優しく微笑んだのだ。

「もう、大丈夫よ。
 精霊が出してくれた蔓が少し燃えてしまったけど、お屋敷はほとんど問題なかったわ。
 不審な人たちも何処かに行ってしまったから大丈夫よ。
 ・・・何も覚えてないのね。」

 舞はそう言って私を見つめたのだ。
 何故、私は何も思い出せないのか?
 何故、私は眠っていたのか?
 そして、いつの間にかお屋敷を張り巡らせた蔓が全て無くなっている事にも気付いたのだ。

「舞、何があったか教えてください。
 私に・・・何があったのですか?」

 私は舞の膝の上に立って、顔を見上げたのだ。
 舞は少し考えた後、話してくれたのだ。

 私は舞の話を聞いて、愕然としたのだ。
 確かに私や大事な舞を傷つけようとする者達は許せないのだが、相手が弱い人間なのはわかっていたはず。
 だから、脅かす事はあっても、命を奪い取るまでは考えてはいなかったはずなのだ。
 それなのに、私は怒りに任せて何て事をしたのだろう。
 舞が止めてくれなかったら、私は非情な殺戮者では無いか。
 
「ねえ、私にも昔、同じような時期があったわ。
 怒りに任せてやってしまった事、言ってしまった事・・・
 そしてその後、とても後悔して自分を責めた事もたくさんあったわ。
 今回の精霊はそんな時の私と同じ気がするの。
 でも、大丈夫よ。
 私があなたを止めてあげれるわ。
 だから、心配しないで。
 今、あなたはいろいろな事を吸収して、成長している途中なのよ。
 だって、少し前まで私より小さな少年だったじゃ無い?
 いつか落ち着く時が来るから、大丈夫よ。」

 舞は私を手のひらに乗せて、私の目を見て優しく話してくれたのだ。

 私はいつも、舞を守りたい、舞の助けになりたいと思っていた。
 それは以前と変わらず同じなのだ。
 だが今日の舞を見て、いつでも私を見守ってほしいとも思ったのだ。
 
 それにしても、怒りで我を忘れていた自分が恐ろしかった。
 以前、自然からなる存在は何かに肩入れしてはいけないと言われたが、これがそう言う事なのだろうか?
 自分の力が以前に比べ強くなっている事は分かっていた。
 それに伴う責任がある事も分かってはいるのだ。
 だが、今回のように我を忘れてしまう事があるとは・・・
 その時の記憶もない事がとても心配だったのだ。
 
 私は舞にいつでも側にいてほしいと、強く思った。
 そうでなければ、私の意図せずまた誰かを傷つけてしまうのではと、怖かったのだ。

「舞、今日は朝まで一緒にいてもいいですか?」

「ええ、もちろん。
 この前は私の為に側にいてくれたでしょう?
 今日は私があなたの為に居たいわ。」
 
 私は舞と一緒にベッドに横になって、色々な事を遅くまで話したのだ。
 そしていつの間にか私達は寝てしまったようで、私が目覚めた時は、まだ横では舞がスヤスヤ眠っていたのだ。
 私は小さな姿のままではあったが、一緒に過ごせてとても幸せだったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

悪役令嬢、休職致します

碧井 汐桜香
ファンタジー
そのキツい目つきと高飛車な言動から悪役令嬢として中傷されるサーシャ・ツンドール公爵令嬢。王太子殿下の婚約者候補として、他の婚約者候補の妨害をするように父に言われて、実行しているのも一因だろう。 しかし、ある日突然身体が動かなくなり、母のいる領地で療養することに。 作中、主人公が精神を病む描写があります。ご注意ください。 作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

処理中です...