私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤

文字の大きさ
138 / 178
第4章 第四の世界編

138話 再生された世界

しおりを挟む
 さっきと同じように、この空間も全てが固まって動かなくなった。
 そして、また新しい扉が現れたのだ。
 今までの扉と違って扉が少し開いており、隙間から光が漏れ出ていた。
 そして、彼はその扉を見ると立ち上がり、ゆっくりと開いて中を覗き込んだのだ。
 すると、そこにはかつて彼が創った世界が存在したのだ。

 カクは両親の姿の元に佇んでいたが、彼が扉の中に入るのを見ると、立ち上がり私を見たのだ。
 その顔には、迷いはなかったように見えた。
 自分の中で、何かしらの決着をつけたのかもしれない。
 私はあえて言葉をかけるのをやめたのだ。

 私達も彼に続き扉の中に入ると、その扉はゆっくりと消えていったのだ。
 見た目には、この世界は以前と同じように見えるが、どうなのだろう。
 私は彼の顔を見たのだ。
 するとこの世界を作った主である彼は、少しだけクスッと笑ったのだ。
 
「私の作った世界ですね。
 でも・・・もう私との繋がりはありません。」

 そう言って、手のひらにリンゴを作り出したのだ。
 そして私に手渡したのだ。

「どうやら、私には自分が作り出したものをコントロールする力が無くなったようです。」

 そう言いながら、私に向かって微笑んだのだ。
 つまり得てきた情報から色々な物を作り出す事はできるが、彼により管理される事はないという事。
 私の手に乗っているリンゴもそのまま置いておけば、腐っていくという事か。
 なるほど・・・まあ、それが当たり前なのだが。
 そんな事を考えていた時、私たちの前にネモが突然現れたのだ。
 その表情から、ネモの身体の中には創造者がいる事がすぐにわかった。

「扉の中の世界はどうであった?」

 無表情のまま、ネモの姿の創造者はこの世界の主に声を掛けたのだ。

「・・・私の器が小さかった事を思い知らされました。
 私の身の振り方は、創造者様にお任せいたします。
 心残りは・・・もうございません。」

 そう言って、ネモの姿の創造者を見たのだ。

「うむ。
 自分の作り出した世界においては、傍観者となる事を望む。
 お前の力は創造のみ。
 それ以上でもそれ以下でも無い。」

 創造者はそう言うと、大きな魔法陣を作り出したのだ。
 それは私達がこの世界に入ってきた時と同じものであった。

「さあ、お前達はすぐに帰るのだ。
 自分達の世界に。」

 そう言い、先程と同じ無表情のまま私達を見たのだ。

「あの・・・ネモはどうなるのでしょうか?」

 私はその事が気がかりだった。

「我らはお前達に伝える為に、この身体を借りていただけだ。
 実体などに興味は無い。
 意思だけの存在の方が、全てを見通せるからな。
 とても自由なのだよ。
 だが・・・我らとて、永遠では無い。
 近い将来、消滅していく事だろう。
 それが自然の摂理である。
 ただ、我らが皆同じ思いと言うわけでは無いのだが・・・」

 創造者の言葉に誰もが沈黙したのだ。
 すると、目の前にいるネモはガタンと足から崩れ落ちた。
 多分、ネモから創造者が消えたのだろう。
 この世界を作った主はネモを抱きかかえると、ネモは目を大きく開いて驚きを隠せない様子だった。

「主様、私はいったい・・・」

「ネモはそのままでいれば良いのですよ。」

 この世界の主はそう言うと、私達に向き直り話したのだ。

「さあ、あなた方はここから。
 この魔法陣はいずれ消える事でしょう。
 多分、二度とこの魔法陣は使えない気がします。
 つまり、これが最後です。 
 しかし、これで良かったのだと思います。
 人間の娘・・・色々助かりましたよ。」

「いいえ、私は大したことはしてません。
 でも、ネモが戻って良かった。
 ・・・お元気で。」

 私達は創造者が作り出した魔法陣の中へと入ったのだ。 
 魔法陣を抜けると、そこは鉱山の麓であった。
 そして、魔法陣は静かに消えていったのだ。
 あの世界にはもう簡単に行く事は出来ないのだろう。
 しかし絶対無理とは限らないのだ。
 創造者の気まぐれがあれば、また行く事が出来るかもしれない。
 どんな世界になっているか・・・それを楽しみにしたいと思ったのだ。

 それにしても、創造者が最後に話した事が引っ掛かるのだ。
 あの時ネモの中にいた創造者は本当に「闇」「光」「大地」の意思なのだろうか。
 あの時の創造者は実体に興味がなく、意思である方が自由であると話していた。
 しかし、皆同じ思いと言うわけでは無いとも・・・
 その言葉を信じるとすれば、ネモの中に三者が存在していたわけではないのかもしれない。
 考えてもわかることでは無いし、たとえあの時に創造者全てが揃っていなかったとしても、私達に何か影響があるわけでは無いだろう。
 今は、みんなで元の世界に戻れた事を良しと思う事にしたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

青い鳥と 日記 〜コウタとディック 幸せを詰め込んで〜

Yokoちー
ファンタジー
もふもふと優しい大人達に温かく見守られて育つコウタの幸せ日記です。コウタの成長を一緒に楽しみませんか? (長編になります。閑話ですと登場人物が少なくて読みやすいかもしれません)  地球で生まれた小さな魂。あまりの輝きに見合った器(身体)が見つからない。そこで新米女神の星で生を受けることになる。  小さな身体に何でも吸収する大きな器。だが、運命の日を迎え、両親との幸せな日々はたった三年で終わりを告げる。  辺境伯に拾われたコウタ。神鳥ソラと温かな家族を巻き込んで今日もほのぼのマイペース。置かれた場所で精一杯に生きていく。  「小説家になろう」「カクヨム」でも投稿しています。  

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!

花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】 《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》  天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。  キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。  一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。  キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。  辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。  辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。  国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。  リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。 ※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作    

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

処理中です...