私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤

文字の大きさ
141 / 178
第5章 闇との戦い編

141話 魔人の王のパートナー

しおりを挟む

『さあ、そろそろ私の為に働いてもらおうかな。
 自分が何者か知る時が来たぞ、ブラック・・・』


 ブラックは執務室での仕事が一段落した後、ソファに横になりウトウトしていたのだ。

「ブラック様、寝ている暇はありませんよ。」

 目を覚ますと、いつの間にかネフライトが横で書類を抱え、ため息をついていた。

「ああ、すまない。
 つい眠ってしまったみたいだね。」

 夢の中で誰かが何か話していたようだが・・・
 ブラックはそれ以上思い出すことは出来なかった。
 所詮は夢・・・
 その時のブラックはそう思っていたのだ。

「無防備すぎますよ。
 さあ、起きて下さい。
 次の仕事がありますよ。」

 ネフライトはブラックを椅子に座らせると、目の前に沢山の書類を積んでニヤリとしたのだ。
 
「そうそう、先程人間の国のオウギ王から親書が届きましたよ。
 目を通して頂けたらと。」

 ネフライトはそう言って、ブラックに手渡したのだ。
 ブラックはそれに目を通すと、みるみる表情が明るくなったのだ。
 ネフライトはその親書をチラッと覗くと、なるほどと思ったのだ。

「舞殿に会いに行く口実が出来ましたね。
 私がケイシ家に手紙をお送りしてもよろしいですが。」

「いやいや、ネフライトは忙しいだろう?
 これも王の仕事ですからね。
 私が直接話しに行きますよ。」

 嬉しそうにそう言うと、ブラックは急いで仕事に取り掛かったのだ。
 それはオウギ王からの即位三十周年の式典の招待状であった。
 どうも、オウギ王から舞を同行させてはどうかと、ブラックにとっては嬉しい話が書かれていたのだ。
 
「しかし、舞殿でしたら王とも面識があり、ヨク殿のはからいで問題なく出席出来ると思われますが。
 何かあるのでしょうかね?」

「さあ?
 人間の世界の事はわからないね。
 まあ、オウギ王の事だ。
 悪い話では無いのだろう。」

 ブラックはそう言うと、とにかく早く仕事を終わらせる事だけを考えていたのだ。
 お忍びで行くなら別だが魔人の王と言う立場で、頻繁に舞に会いに行くわけにはいかなかった。
 それに、舞が学生として勉強に励んでいる事を考えると、自分が邪魔するわけにもいかないと、ブラックは考えていたのだ。

 
             ○

             ○

             ○


 舞はケイシ家の二階の部屋で、明日の授業の準備をしていた。
 勉強が一段落したところで、ベッドに転がり何も無い天井を眺めていたのだ。

 あれから半年ほど経っただろうか。
 私達が第四の世界から戻った後、人間の世界では鉱石の光が失われた事による混乱が、少しの間続いたのだ。
 それでも今は全ての光が復活し、ほぼ以前と同じ生活が出来るようになったのだ。
 私は学校に復帰してからと言うもの、それまで休んでいた時間を取り戻すために、毎日を勉強に費やしていた。
 ブラックに会いたい気持ちもあったが、今は学生として優先するべき事が多かったのだ。
 ここに・・・いやブラックの近くにいるためには、まだまだ勉強が必要なのだ。
 ブラックからもらったペンダントを見ると、あの夜スヤスヤと眠るブラックの寝顔を思い出すのだ。
 あの時、もしもブラックが泥酔では無く、ほろ酔いくらいであれば・・・
 それなら、部屋に入れることもないか・・・
 そんなモヤモヤした事を一人考えていると、部屋のドアがノックされたのだ。
 
「舞、ちょっといいかな?
 お客様だよ。」

 ドアの外からヨクが声をかけたのだ。
 私は急いで起き上がりドアを開けると、ヨクの後ろにブラックが立っていたのだ。
 ブラックと会うのは数週間ぶりだろうか。

「え?どうしたの急に。」

「舞、久しぶりですね。
 少しだけいいですか?」

 ブラックはそう言うと、私が返事をする前に部屋に入り込み、すぐにドアを閉めたのだ。
 そして驚く私を優しく抱きしめたのだ。

「ブラック、何かあったの?」

「今はまだこのままで・・・」

 私はさっきまで考えていた人が急に目の前に現れた事に、驚きしかなかった。
 しかし、ブラックに抱きしめられ頭を撫でられるうちに、何だか身体が溶けていくようで、幸せな気分になったのだ。

「舞、オウギ王の今度の式典の話は聞いていますか?
 舞を同行してはどうかと話が来たのですよ。」

 ブラックは私の頬に触れながら顔を見て、嬉しそうに話し出したのだ。

「いいえ、初耳だわ。
 式典がある事は知っていたけど・・・
 ヨクなら詳しく知っているかもしれないわね。
 下に行って聞いてみましょう。」

 私がそう言うと、ブラックは私の唇に指を置き、耳元で囁いたのだ。

「久しぶりに会ったのだから・・・
 もう少しだけ二人でいさせてください。」

 ブラックにそんな風に言われると、最近の私は拒む事など出来なかった。
 それだけブラックが魅力的であり、そして私も同じ気持ちだったからだ。

 少しした後、私達は一階に降り、ヨクに話を聞く事にしたのだ。
 
「ただのお忍びと言うわけではなかったのですな。
 ・・・オウギ様から連絡があったのですね。
 実は、舞を同行させると良いのではと提案したのは私なのですよ。」

 その話になると、さっきまでと違いヨクの表情が曇ったのだ。

「色々と事情がありそうですね。」

 ブラックはすぐに何かを感じたようだった。

「流石、魔人の王ですな。
 舞も一緒に聞いておくれ。
 実は今度の即位三十周年の式典だが、夜に晩餐会が行われるのです。
 そこには友好国の王族のみが出席出来るのですよ。
 部下や側近、警備に至るまでその会場の中には入る事が出来ない。
 もちろん外で待機しているのですがな。
 まあ、そういう慣例で・・・
 先代の時まではそれで問題なかったのですが・・・」

「今回は問題があるのですね。」

「人間の国が何ヶ国かある事は存じているでしょう。
 サイレイ国のように大きな国では無いのですが、ある国の王族が流行病で皆亡くなったと知らせが来たのです。
 その後すぐに遠縁の者が王に即位したようなのですが、あまり良い話を聞かないのですよ。
 正直、怪しい話ばかりで・・・
 王族が全て亡くなったという話も、どこまで本当なのか・・・
 警戒すべき相手と言っておきましょうか。
 しかし、オウギ様の立場上、そんな話があっても招待しない訳にはいかないのですよ。」

「なるほど。
 もしかしたら、晩餐会で何かあるかも知れないと懸念しているのですね。
 はるか昔に、たしか・・・出席した事がありますね。
 我らの国とも友好関係にありましたからね。」

 ブラックはそう言うと私を見たのだ。

「オウギ王をはじめ、各国の王族が出席されるのです。
 少し舞には危険かも知れませんが、舞が作る薬があれば、いざという時にも対応できるかも知れません。
 魔人の王の同行者として中に入る事が出来ればと。
 私どもでは入れませんからね。
 まあ、魔人の王には、舞を守っていただく事になるのですが。
 ・・・舞、勝手に話を進めてすまない。
 王からもう連絡が行っているとは思わなかったよ。」

 ヨクはそう言い私を心配そうに見たのだ。

「そういう事だったのね。
 私にできる事があれば、何でもするわ。
 心配ないわよ。
 ブラックがいるのだから。」

「ご老人、私がついてます。
 問題ありませんよ。
 それに、舞と出席出来るなんて嬉しい限りですよ。」

 ブラックがそう言うと、ヨクも少しだけ顔を緩めたのだ。
 私はヨクの心配をよそに、不謹慎だがブラックのパートナーとして出席できる事が楽しみになったのだ。
 
 
  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。

彩世幻夜
ファンタジー
※ 2019年ファンタジー小説大賞 148 位! 読者の皆様、ありがとうございました! 裕福な商家の生まれながら身分は平民の悪役令嬢に転生したアンリが、ユニークスキル「クリエイト」を駆使してシナリオ改変に挑む、恋と冒険から始まる成り上がりの物語。 ※2019年10月23日 完結 新作 【あやかしたちのとまり木の日常】 連載開始しました

処理中です...