私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤

文字の大きさ
170 / 178
第5章 闇との戦い編

170話 消滅への道

しおりを挟む
 舞は膝から崩れ落ちたブラックを抱きしめると、ゆっくりと横にしたのだ。
 舞はあっという間に眠りにつかせる薬を使ったのだ。
 ブラックの意識が無くなったことで、造られた結界は消滅したのだ。
 舞はすかさず、天に向けてある薬を投げると、矢で射抜いたのだ。
 すると、その場にキラキラと優しく光る粉雪のような物が降りはじめ、あたりは幻想的な光景となったのだ。
 それは誰もが目を奪われるほど美しく、そして儚い物であった。
 舞は異物を外に排除する薬を天に向けて投げたのだ。
 この一帯にその薬は舞い散り、闇の創造者との融合を阻んだのだった。
 舞は光と大地の創造者から消滅の時間までのカウントダウンを聞いていた。
 ここから移動する時間があれば、ブラックとの融合が出来なくても、他の者に標的を変えるかもしれないと危惧していたのだ。
 物質的な存在である者は、誰でも代わりになる。
 だが、もう時間は残りわずかになっていたのだ。

「人間の娘・・・何をした!」

 黒い煙の姿の闇の創造者は怒りの声を私に向けたのだ。

「もう、ブラックだけでなく、あなたは誰とも融合なんてできないわ。」

 闇の創造者はブラックの身体と融合を試みようとしたが、優しい光の壁に包まれたブラックには、融合どころか入り込む事も出来なかったのだ。

「残念だったわね。
 あなたは、何もできないまま、消滅を迎えるのよ。
 後少しである事はわかっているわ。」

 その時である。
 それは一瞬であった。
 私の顔のすぐそばを、鋭い剣がかすめたのだ。
 急いで剣が飛んで来た方を見ると、一人の人物が怒りの形相で歩いて来たのだ。
 国境の壁に出来た大穴から現れたその姿は、マキョウ国の王に他ならなかった。
 そして彼は、闇の創造者の前にひざまづいたのだ。

「あなた様に忠誠を誓う私の身体をお使いください。
 壁の向こうから聞いておりました。
 こんな魔人や人間の小娘に惑わされる事など、あってはならないのです。
 私が救世主であると言ってくれたではないですか?
 そして、いずれ魔人を討伐すると話していたではありませんか?
 私を高みへとお導きください。」

 マキョウ国の王はそう話しながら、闇の創造者をすがるような目で見たのだ。

「お前は所詮、人間。
 よく働く使い捨ての駒でしかない。
 立場をわきまえろ。」

 闇の創造者はそう冷たく言うと、それ以上マキョウ国の王を相手にしようとはしなかったのだ。
 その態度に、マキョウ国の王は顔面蒼白となったのだ。
 そして、持っていた剣を横になっているブラックに向け叫んだのだ。

「こんな者がいるから、惑わされるのだ。」
 
 そう言って、ブラックに対して剣を振りおろそうとしたのだ。
 こんな事をされる為に、ブラックを眠らせたわけではない・・・
 私は精一杯の力で、彼を突き飛ばしたのだ。
 すると、マキョウ国の王はバランスを崩して転がり、中々立ち上がる事が出来ないようだった。
 なんて、ひ弱な王なのだろう・・・
 私はブラックの身体に覆い被さり、二人を睨んだのだ。
 壁の向こうでは、薬の効果は無いはず。
 後少しと言うのに、こんな時に出てくるなんて・・・

 融合されてしまったら、ここで闇の薬を使うしか無いのだろうか。
 人間と融合しても、今までの力を失うわけでは無いはず。
 短い寿命となるだけ。
 多くの年月では無いかもしれないが、そんな危険な者をそのままにはしておけないのだ。
 しかし、ここでもし薬を使ったら・・・私だけじゃなくブラックも巻き込まれる。
 それだけは避けたかったのに。
 ・・・ハナさんだったら、どうしただろう・・・
 私は表情とは裏腹に、迷っていたのだ。
 その時、私の胸元が暖かくなったのだ。
 私は森の精霊から貰った種を入れてあった小袋を、手で握りしめたのだ。
 
 ここに来る前に、森の精霊にあるお願い事をしたのだった。
 その中の一つに、私にどんな事があっても助けに来てはいけないという事。
 もし精霊に何かあれば、私の大事なもう一つの願いを叶える事が出来なくなるかもしれないからだ。
 精霊はそれを承諾したはずなのだ。
 それなのに・・・
 私は出て来てはいけないと、心の中で祈ったのだ。
 すると、精霊からの思念が伝わって来たのだ。

『約束通り、そっちには出て行かないよ。
 受け取ってほしいものがあるんだ・・・
 舞ならどうすれば良いかわかるね。』

 私は精霊から告げられた事を、すっかり忘れていたのだ。
 私は立ち上がると、闇の創造者の前に歩き出したのだ。

「人間と融合しても、所詮は短い寿命。
 消滅と同じような物よ。
 闇の創造者も、本当の意味で地に落ちたものね・・・」

 私はわざと怒らせるような事を言って、時間を稼ごうとしたのだ。

「その通りだ。
 こんな人間と融合するくらいなら、他の魔人を探すとしよう。
 まだそのくらいの時間はあるのだよ。
 この姿なら、自由なのだ。」

「・・・そうかもね。
 でも・・・もう遅いわ。」
 
 そう言い終わる前に、私の足元に青く光る魔法陣が浮かび上がったのだ。
 そして、それと同時に私と闇の創造者の真上に光の鉱石の粉末を投げたのだ。
 その優しい霧状の光は、私と闇の創造者を包み込み、光の霧が消えると、私の生まれた世界の私の部屋に移動していたのだ。
 この世界に来た闇の創造者は、何の力も持たないただの意思でしかなかった。
 そして何が起きたかわからない闇の創造者は、わからないまま、跡形もなく消滅したのだった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。

彩世幻夜
ファンタジー
※ 2019年ファンタジー小説大賞 148 位! 読者の皆様、ありがとうございました! 裕福な商家の生まれながら身分は平民の悪役令嬢に転生したアンリが、ユニークスキル「クリエイト」を駆使してシナリオ改変に挑む、恋と冒険から始まる成り上がりの物語。 ※2019年10月23日 完結 新作 【あやかしたちのとまり木の日常】 連載開始しました

処理中です...