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第5章 闇との戦い編
176話 森の薬華異堂薬局
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私は精霊に案内された場所に目をやると、言葉が出てこなかった。
もちろん、精霊の空間で色々な植物を育てている事は知っていた。
私がこの世界を離れる前に、私が知るすべての生薬を託したので、植物が増えている事は理解できるのだ。
だが、それだけではなかった。
そこには私の住んでいた薬華異堂薬局を思わせる場所が存在したのだ。
「え?
これはいったいどうしたの?」
私は振り向いて精霊の顔を見ると、嬉しそうに顔を緩めていたのだ。
「舞の住んでいた世界に行った事があっただろう?
その時の記憶を元に作り出したんだ。
こんな感じだったよね?」
木の引き出しが沢山あった薬棚。
大きな瓶に入った、いくつもの生薬。
そしてそこには、わたしの知っている不思議な薬がガラスの壺に入れられ並べられていたのだ。
そしてお店のようにカウンターまで作られていたのだ。
「すごい!
まるで誰かがここに買いに来るような薬局になっているじゃない?」
「そうだよ。
ここには人間や翼国人が訪れてくるんだよ。
まあ、魔人はあまり来ないかな。
危険な薬以外は必要があれば渡すことにしているんだ。
もちろん、手渡す相手はちゃんと見極めてるから大丈夫だよ。
早くこれを舞に見せたかったんだよ。
そして舞が戻ってきたら、ここをお願いしようかと思ってね。
私は何かと森の管理が忙しいから、舞に任せたいんだ。
どうかな?」
精霊は私の居場所を作ってくれていたのだ。
彼もカクと同じで、いつでも私の為に行動してくれる優しい人・・・
私はなんて幸せなんだろう。
「ほんと・・・すごいよ。
ありがとう。」
「舞・・・ブラックには会ったの?」
精霊は真面目な顔をして私を見たのだ。
「・・・ううん、何だか会うのが怖くて・・・」
「このまま、ここに居てくれると嬉しいけど。
でも、ちゃんと会いに行った方がいい。
その上で、ここにいてくれたら大歓迎だよ。
そうだ!
もうすぐあの彼も復活すると思うよ。」
「彼?あ、ドラゴン!
本当?」
精霊は頷くと、綺麗な水晶玉の中で眠るドラゴンを見せてくれたのだ。
私は眠りについてしまったドラゴンに、もう会う事は無理だと思っていた。
眠りから覚めるのが、何十年後か何百年後かさえ分からなかったからだ。
だから、私が生きているうちは会うことは叶わないと思っていたのだ。
水晶の中に目をやると、ドラゴンはウトウトしながらも、身体を少しだけ動かしていた。
この世界には私を知っている人達が沢山いる。
それだけでも心強い・・・
だから、もしブラックの気持ちに変化があったとしても、ひどく落ち込むことは無いのかもしれない。
私は・・・ブラックに会いに行く事を決めたのだ。
「ありがとう。
ブラックに会いに行ってくるわ。」
そう言うと、精霊は私の手を取り森の出口に一瞬で連れて行ってくれたのだ。
「私はここで待ってますね。」
精霊はそう言って優しく微笑んで送り出してくれたのだ。
私は人間の国に繋がる洞窟の入り口に戻る事にした。
そこには以前と同じように、色々な物が売っているお店や馬車の案内所などがあった。
ここから馬車で魔人の城まで向かおうと思ったのだ。
ただ・・・ここに来てやっぱり不安が押し寄せてきたのだ。
かつての魔人の友人達は、以前と同じように迎えてくれるだろうか?
本来普通の人間であったら、魔人の王や幹部に簡単に会える立場の人は少ないはずなのだ。
五十年もたった今、以前と同じように会えるものなのだろうか?
ブラックに会いに行くと決めたのに、私は中々城に向かうことが出来なかったのだ。
私は洞窟の近くに出来ていたオープンカフェの様なお店に入り、洞窟を行き来する人達をぼんやりと眺めていた。
昔と違い、多くの人間や魔人が歩いているのを見て、五十年の月日で色々と変わった事を多いのだと実感したのだ。
洞窟の周りを見回すと、以前はテントのような店舗が並んでいただけだったのに、今は立派な建物がいくつも建ち並んでいたのだ。
そんな周りの景色を見ていると、私は益々不安になり魔人の城に向かう勇気が無くなっていったのだ。
私は大きなため息をつくと、頭をテーブルに付けて目を閉じたのだ。
どうしよう・・・
そんな風に考えていた時、私のすぐ近くで椅子を引く音がしたのだ。
私が顔を上げようとした時、聞き慣れた声が耳に入ってきたのだ。
「また・・・お会いできましたね。」
顔を上げると、目の前にずっと会いたかった人物が座っていたのだ。
椅子を引く音がするまで全く気配を感じなかったが、そこには以前のように微笑むブラックがいたのだった。
その姿は黒髪の長髪ではなく以前より短髪ではあったが、端正な顔立ちは変わらなかったのだ。
私は急に目の前に現れたブラックに、言葉が出なかったのだ。
「お嬢さん、怖がらないで。
何もしませんから。
・・・少しだけ話をしてもいいですか?」
私はその言葉を聞いて、つい笑ってしまったのだ。
以前この世界に来たばかりの時、魔人の王に会いたくて洞窟の周りをウロウロしていた事を思い出したのだ。
ブラックはまるで何かを確認するかのように、その時と同じ言葉を私に伝えたのだ。
さっきまで不安で悩んでいた私は、あっという間に何処かに消え去っていたのだった。
もちろん、精霊の空間で色々な植物を育てている事は知っていた。
私がこの世界を離れる前に、私が知るすべての生薬を託したので、植物が増えている事は理解できるのだ。
だが、それだけではなかった。
そこには私の住んでいた薬華異堂薬局を思わせる場所が存在したのだ。
「え?
これはいったいどうしたの?」
私は振り向いて精霊の顔を見ると、嬉しそうに顔を緩めていたのだ。
「舞の住んでいた世界に行った事があっただろう?
その時の記憶を元に作り出したんだ。
こんな感じだったよね?」
木の引き出しが沢山あった薬棚。
大きな瓶に入った、いくつもの生薬。
そしてそこには、わたしの知っている不思議な薬がガラスの壺に入れられ並べられていたのだ。
そしてお店のようにカウンターまで作られていたのだ。
「すごい!
まるで誰かがここに買いに来るような薬局になっているじゃない?」
「そうだよ。
ここには人間や翼国人が訪れてくるんだよ。
まあ、魔人はあまり来ないかな。
危険な薬以外は必要があれば渡すことにしているんだ。
もちろん、手渡す相手はちゃんと見極めてるから大丈夫だよ。
早くこれを舞に見せたかったんだよ。
そして舞が戻ってきたら、ここをお願いしようかと思ってね。
私は何かと森の管理が忙しいから、舞に任せたいんだ。
どうかな?」
精霊は私の居場所を作ってくれていたのだ。
彼もカクと同じで、いつでも私の為に行動してくれる優しい人・・・
私はなんて幸せなんだろう。
「ほんと・・・すごいよ。
ありがとう。」
「舞・・・ブラックには会ったの?」
精霊は真面目な顔をして私を見たのだ。
「・・・ううん、何だか会うのが怖くて・・・」
「このまま、ここに居てくれると嬉しいけど。
でも、ちゃんと会いに行った方がいい。
その上で、ここにいてくれたら大歓迎だよ。
そうだ!
もうすぐあの彼も復活すると思うよ。」
「彼?あ、ドラゴン!
本当?」
精霊は頷くと、綺麗な水晶玉の中で眠るドラゴンを見せてくれたのだ。
私は眠りについてしまったドラゴンに、もう会う事は無理だと思っていた。
眠りから覚めるのが、何十年後か何百年後かさえ分からなかったからだ。
だから、私が生きているうちは会うことは叶わないと思っていたのだ。
水晶の中に目をやると、ドラゴンはウトウトしながらも、身体を少しだけ動かしていた。
この世界には私を知っている人達が沢山いる。
それだけでも心強い・・・
だから、もしブラックの気持ちに変化があったとしても、ひどく落ち込むことは無いのかもしれない。
私は・・・ブラックに会いに行く事を決めたのだ。
「ありがとう。
ブラックに会いに行ってくるわ。」
そう言うと、精霊は私の手を取り森の出口に一瞬で連れて行ってくれたのだ。
「私はここで待ってますね。」
精霊はそう言って優しく微笑んで送り出してくれたのだ。
私は人間の国に繋がる洞窟の入り口に戻る事にした。
そこには以前と同じように、色々な物が売っているお店や馬車の案内所などがあった。
ここから馬車で魔人の城まで向かおうと思ったのだ。
ただ・・・ここに来てやっぱり不安が押し寄せてきたのだ。
かつての魔人の友人達は、以前と同じように迎えてくれるだろうか?
本来普通の人間であったら、魔人の王や幹部に簡単に会える立場の人は少ないはずなのだ。
五十年もたった今、以前と同じように会えるものなのだろうか?
ブラックに会いに行くと決めたのに、私は中々城に向かうことが出来なかったのだ。
私は洞窟の近くに出来ていたオープンカフェの様なお店に入り、洞窟を行き来する人達をぼんやりと眺めていた。
昔と違い、多くの人間や魔人が歩いているのを見て、五十年の月日で色々と変わった事を多いのだと実感したのだ。
洞窟の周りを見回すと、以前はテントのような店舗が並んでいただけだったのに、今は立派な建物がいくつも建ち並んでいたのだ。
そんな周りの景色を見ていると、私は益々不安になり魔人の城に向かう勇気が無くなっていったのだ。
私は大きなため息をつくと、頭をテーブルに付けて目を閉じたのだ。
どうしよう・・・
そんな風に考えていた時、私のすぐ近くで椅子を引く音がしたのだ。
私が顔を上げようとした時、聞き慣れた声が耳に入ってきたのだ。
「また・・・お会いできましたね。」
顔を上げると、目の前にずっと会いたかった人物が座っていたのだ。
椅子を引く音がするまで全く気配を感じなかったが、そこには以前のように微笑むブラックがいたのだった。
その姿は黒髪の長髪ではなく以前より短髪ではあったが、端正な顔立ちは変わらなかったのだ。
私は急に目の前に現れたブラックに、言葉が出なかったのだ。
「お嬢さん、怖がらないで。
何もしませんから。
・・・少しだけ話をしてもいいですか?」
私はその言葉を聞いて、つい笑ってしまったのだ。
以前この世界に来たばかりの時、魔人の王に会いたくて洞窟の周りをウロウロしていた事を思い出したのだ。
ブラックはまるで何かを確認するかのように、その時と同じ言葉を私に伝えたのだ。
さっきまで不安で悩んでいた私は、あっという間に何処かに消え去っていたのだった。
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