13 / 25
第十三話(クラリス視点)
しおりを挟む「クラリス・マーティラス……、そなたが何故ここに呼び出されたのか分かっておるな?」
「はい……」
ちっ……! 何で私がこんなことに――。謁見の間で跪きながら私は自分の不運を呪った。
目の前にいるのはボルメルン王国の国家元首――ヴィルフリート・ボルメルン陛下その人。
こっそり仕事をサボったりしてたら次々に結界が破られて魔物が大量に国内に入ってきたらしい。かなりの死者が出たらしく、中には陛下の旧友という人物もいたみたいで、私の責任が追求されている。
何よ、普段は聖女様って頼ってくる癖に……ちょっとミスしたらこうやって責めるなんてどうかしてるわ。
お父様の耳にも入って大目玉食らうし……。大体、『魔周期』なんだから犠牲が出るのは当たり前でしょ。聖女が一人しかいないんだから、仕方ないじゃない。
「噂によると聖女クラリスは自分の職務を忘れ……それを放棄しておると聞いたが、それは真か?」
だ、誰がチクったのよ。信じられない。まさか、メリッサ? あいつには口止めしたはずだけど……私のことを舐め腐ってる節があるし……。
まったく……少しだけ休憩してたら、それを怠慢だって責め立てるなんて……。
息抜きくらい誰だってするでしょ? そんな細かいことを糾弾するなんて、なんて狭量な王なのよ……。
「いえ、とんでもありません。私は一日いえ……一秒たりとも聖女であることを忘れたことはございません。陛下の仰るとおり、残念なことが起きてしまったのは私の力不足ですから、言い訳はしませんが……それだけは信じてください。ぐすん……」
私は精一杯目に涙を溜めながら、陛下の信頼を勝ち取ろうとした。
ここは変に言い訳しないほうがいいわ。この際、力が足りなかったことにして逃げ切るしかない……。
「父上、クラリス殿は嘘は付いてないように見えますが……」
私の援護射撃をしてくれたのは第四王子のニック殿下……エミリアの元婚約者だ。
この世間知らずの坊っちゃんはちょろい。私の用意した偽の証拠を鵜呑みにして簡単に婚約者を追放するんだから。
まっ、あんなに簡単に崩れる愛なんて大した絆じゃなかったに違いないわ。あんまり簡単に上手くいってエミリアも顔を真っ青にするもんだから、笑いを堪えるのが大変だったわよ……。
「ふむ。ワシもニックのようにクラリスを信じてやりたい。マーティラス家は代々国を守護しておるし、その歴史の中でもクラリスの力は強い。国民からの人気もあったしのう――」
「ならば父上!」
「だからこそじゃ! それだけの力があるにも関わらずこの体たらく……。違和感を感じんか!? 急に魔物が大量に入って来たのじゃぞ!? 怠慢が招いた結果だと疑わん方がおかしいじゃろ?」
あーあ、この頑固親父マジでしつこいわね……。
本当にエミリアが居なくなってろくなことが無い。許してあげたら良かったのかなぁ。
いや、何言ってんの。あのクソ生意気なエミリアを許すなんてあり得ない。
それにあいつはデルナストロ山脈に捨てられたのよ。生きてるはずがないわ……。
「――とにかく、次に同じようなことが起きたら……如何にマーティラス家の聖女であってもタダでは済まんから、それを忘れるでないぞ」
「はい。国王陛下……。聖女としての自覚を持ち……国のために微力を尽くすことを誓いますわ」
「うむ……」
はぁ……。やっと終わった。ウザい説教が……。
昨日はお父様に叱られて、今日は陛下だなんて……厄年なのかしら? ニックの弁護も役に立たないし……。
「クラリス様、お疲れのところ申し訳ありませんが、南西の森の結界が限界を迎えつつあるそうです」
「はぁ? 私、今……疲れてんだけど。明日でいいでしょう?」
「遅れるとマーティラス公爵の耳に届きます故、早い方がよろしいかと」
「ちっ……! あんたがチクんなきゃ良いでしょうが!」
私はイライラしながらメリッサの言葉に返答した。
そうよ。こいつが来てから全部おかしくなったのよ。この女を何とかしなければ……、私の築き上げたモノが壊れてしまう。
――絶対に許さないんだから。
34
あなたにおすすめの小説
捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています
日向はび
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。
自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。
しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━?
「おかえりなさいませ、皇太子殿下」
「は? 皇太子? 誰が?」
「俺と婚約してほしいんだが」
「はい?」
なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。
「醜い」と婚約破棄された銀鱗の令嬢、氷の悪竜辺境伯に嫁いだら、呪いを癒やす聖女として溺愛されました
黒崎隼人
恋愛
「醜い銀の鱗を持つ呪われた女など、王妃にはふさわしくない!」
衆人環視の夜会で、婚約者の王太子にそう罵られ、アナベルは捨てられた。
実家である公爵家からも疎まれ、孤独に生きてきた彼女に下されたのは、「氷の悪竜」と恐れられる辺境伯・レオニールのもとへ嫁げという非情な王命だった。
彼の体に触れた者は黒い呪いに蝕まれ、死に至るという。それは事実上の死刑宣告。
全てを諦め、死に場所を求めて辺境の地へと赴いたアナベルだったが、そこで待っていたのは冷徹な魔王――ではなく、不器用で誠実な、ひとりの青年だった。
さらに、アナベルが忌み嫌っていた「銀の鱗」には、レオニールの呪いを癒やす聖なる力が秘められていて……?
トカゲ令嬢とバカにされて聖女候補から外され辺境に追放されましたが、トカゲではなく龍でした。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
リバコーン公爵家の長女ソフィアは、全貴族令嬢10人の1人の聖獣持ちに選ばれたが、その聖獣がこれまで誰も持ったことのない小さく弱々しいトカゲでしかなかった。それに比べて側室から生まれた妹は有名な聖獣スフィンクスが従魔となった。他にもグリフォンやペガサス、ワイバーンなどの実力も名声もある従魔を従える聖女がいた。リバコーン公爵家の名誉を重んじる父親は、ソフィアを正室の領地に追いやり第13王子との婚約も辞退しようとしたのだが……
王立聖女学園、そこは爵位を無視した弱肉強食の競争社会。だがどれだけ努力しようとも神の気紛れで全てが決められてしまう。まず従魔が得られるかどうかで貴族令嬢に残れるかどうかが決まってしまう。
大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです
古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。
皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。
他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。
救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。
セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。
だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。
「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」
今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。
冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる
みおな
恋愛
聖女。
女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。
本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。
愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。
記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。
前世の記憶を持つ守護聖女は婚約破棄されました。
さざれ石みだれ
恋愛
「カテリーナ。お前との婚約を破棄する!」
王子殿下に婚約破棄を突きつけられたのは、伯爵家次女、薄幸のカテリーナ。
前世で伝説の聖女であった彼女は、王都に対する闇の軍団の攻撃を防いでいた。
侵入しようとする悪霊は、聖女の力によって浄化されているのだ。
王国にとってなくてはならない存在のカテリーナであったが、とある理由で正体を明かすことができない。
政略的に決められた結婚にも納得し、静かに守護の祈りを捧げる日々を送っていたのだ。
ところが、王子殿下は婚約破棄したその場で巷で聖女と噂される女性、シャイナを侍らせ婚約を宣言する。
カテリーナは婚約者にふさわしくなく、本物の聖女であるシャイナが正に王家の正室として適格だと口にしたのだ。
(完結)お荷物聖女と言われ追放されましたが、真のお荷物は追放した王太子達だったようです
しまうま弁当
恋愛
伯爵令嬢のアニア・パルシスは婚約者であるバイル王太子に突然婚約破棄を宣言されてしまうのでした。
さらにはアニアの心の拠り所である、聖女の地位まで奪われてしまうのでした。
訳が分からないアニアはバイルに婚約破棄の理由を尋ねましたが、ひどい言葉を浴びせつけられるのでした。
「アニア!お前が聖女だから仕方なく婚約してただけだ。そうでなけりゃ誰がお前みたいな年増女と婚約なんかするか!!」と。
アニアの弁明を一切聞かずに、バイル王太子はアニアをお荷物聖女と決めつけて婚約破棄と追放をさっさと決めてしまうのでした。
挙句の果てにリゼラとのイチャイチャぶりをアニアに見せつけるのでした。
アニアは妹のリゼラに助けを求めましたが、リゼラからはとんでもない言葉が返ってきたのでした。
リゼラこそがアニアの追放を企てた首謀者だったのでした。
アニアはリゼラの自分への悪意を目の当たりにして愕然しますが、リゼラは大喜びでアニアの追放を見送るのでした。
信じていた人達に裏切られたアニアは、絶望して当てもなく宿屋生活を始めるのでした。
そんな時運命を変える人物に再会するのでした。
それはかつて同じクラスで一緒に学んでいた学友のクライン・ユーゲントでした。
一方のバイル王太子達はアニアの追放を喜んでいましたが、すぐにアニアがどれほどの貢献をしていたかを目の当たりにして自分達こそがお荷物であることを思い知らされるのでした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
全25話執筆済み 完結しました
【完結】追放された大聖女は黒狼王子の『運命の番』だったようです
星名柚花
恋愛
聖女アンジェリカは平民ながら聖王国の王妃候補に選ばれた。
しかし他の王妃候補の妨害工作に遭い、冤罪で国外追放されてしまう。
契約精霊と共に向かった亜人の国で、過去に自分を助けてくれたシャノンと再会を果たすアンジェリカ。
亜人は人間に迫害されているためアンジェリカを快く思わない者もいたが、アンジェリカは少しずつ彼らの心を開いていく。
たとえ問題が起きても解決します!
だって私、四大精霊を従える大聖女なので!
気づけばアンジェリカは亜人たちに愛され始める。
そしてアンジェリカはシャノンの『運命の番』であることが発覚し――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる