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第十八話(クラリス視点)
しおりを挟む「冤罪……? ニック殿下、何を仰っているのです? エミリアの件はあなたがご自分で調査されましたよね?」
まったく、何が起こってるの? ニック殿下、あなた……この前まで私に簡単に尻尾振ってたじゃない。
ニック殿下がエミリアが自作自演で事故を起こしたという話を今さら冤罪だったのでは、と疑い出してきた。
「確かに僕が調べて証人は簡単に見つかった。でも、もう一度調べたら……その証人たちはどこかに消えてしまっていたんだ」
ちっ……、下手なことを言われる前に金握らせて国外に逃げるように指示したことが仇になってしまったわね。
メリッサが冤罪の証拠を握ってるって言ってたけど、あいつらに関する情報を手に入れられるはずがない。しらばっくれれば、丸め込めるでしょう。
ていうか、いきなり再調査するなんて……どういう風の吹きまわしなのかしら……。
「それは変ですわね。でも、ニック殿下はどうして再び調査をされたのですか? エミリアを追放されたあなた自身が。彼女が本当に無実なら……さぞかし殿下のことを憎むでしょうね」
そうだ。どの面下げて、エミリアの無実を訴えられるっていうんだ。この男は……。
馬鹿みたいにエミリアのことを「残念だ」とか言って追い出したんだぞ。
最初は顔が良いから妥協して付き合ってあげても良いかと思ったが、頭は悪いし……その上エミリアのお古なんて屈辱的だし、止めといて正解だったわ。
「それが隣国のメーリンガム王国から来た巫女の護衛という女が調べ回っているのだ。エミリア・ネルシュタインが策謀に陥れられて無実の罪で追放された、と。彼女の冤罪を晴らすのだと……」
メーリンガムの巫女? ああ、何か聞いたことあるわ。メーリンガムってこの国と違って聖女を家柄で選ばないって。テストをして、巫女とかいうのを選ぶって面倒なシステムを採用してるって。
その護衛がどうしてエミリアの無実を……?
あっ!? エミリアは結界術が使える……。まさか、あの女……メーリンガム王国で――。
「よくわからんが、エミリアはメーリンガム王国で巫女という仕事をしているらしい。巫女というのは聖女と似たようなモノなのだそうだ」
や、やっぱり、あいつ巫女になっていたのか。
メリッサのやつ……知っててワザと黙ってたわね。
「エミリアは結界術の達人としてメーリンガムで重宝されている。そんな彼女は故郷であるこの国が危機に瀕していると聞いて手助けがしたいのだそうだ。だが、その前に自らの冤罪を晴らしたいと――」
追放された国を助けたい? 何を言ってるの? あいつは……。
家族が住んでるから、それを助けたいだけでしょう。偽善者ぶるなっての。
それにしても、あの女……。この私が力不足だとでも言いたいのかしら……。まるで、私一人に任せていたら、国が潰れるとでも言いたげな……。
――気に食わないったらありゃしない。
「もしも、エミリアが本当に罪人ならそこまでのことをするだろうか? メーリンガムで重用されているのならば、それで良いではないか」
ニック殿下、あなたは勘違いしてるわ。エミリアの罪を晴らしたらあなたもタダじゃ済まない。
国王陛下はあなたを絶対に許さないでしょうね……。
だって、婚約者を自分の過ちで国外に追放したのよ。そんな恥知らずなことって有るのかしら……。
「無論、僕も父上から叱責を受けるだろう。縁を切られるかもしれない。それも止む得ないだろう。僕はそれだけのことをしたのだから」
何、悲劇のヒーローみたいな顔をしてんのよ。
バカ王子なんだから、バカ王子らしく踊ってなさいよ。
ダメだわ。この男はもうアテにならない……。
とりあえず、メリッサとその調査してる女を会わせるのだけは阻止しなきゃ……。
ニック殿下には適当に相槌を打って、お帰り願って私はメリッサの動きを封じるために動く――。
「おや、ニック殿下はお帰りになりましたか。――そういえば、クラリス様。メーリンガム王国から、楽しい来客が来られましたよ」
――くそっ! 最悪だわ。やっぱりこいつは殺さなきゃ……。
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