法華の短編集〜婚約破棄〜

法華

文字の大きさ
7 / 26
「災いの魔女」と呼ばれた令嬢は、もう未来を憂わない(全8話)

5話

しおりを挟む
 エメラルドは、ティガとフランシスの全面的な協力の下、「正体不明の天才星詠み師『アストラ』」として、王立天文台を通じて公式に予言の発表を始めた。

 その予言は、数週間先の正確な天候、未発見の鉱脈の位置、魔物の大量発生周期など多岐にわたった。その驚異的な精度は瞬く間に王国中の評判となり、人々は『アストラ』の言葉に熱狂した。南の漁村は『アストラ』の予言通りに回遊してきた魚の大群を独占して沸き、北の鉱山都市は予言された新たなミスリル鉱脈の発見に国中が湧いた。農業、漁業、商業に革命的な変化が起き、『アストラ』は顔も知れぬまま、救世主として崇められるようになる。

 一方で、リリアナのメッキは急速に剥がれ落ちていた。

「『大豊作になる』と予言したウェインライト公爵領の南部は、記録的な冷害に見舞われました。アレクシス様は多額の投資を無駄にしたとご立腹です」
「『幸運の宝石が見つかる』と言われたアベリア侯爵家の土地からは、ただのガラクタしか出ませんでしたわ。社交界ではもう失笑が漏れています」

 外れてばかりの予言に、社交界の風向きは完全に変わっていた。何より、リリアナの際限のない浪費と、事業の失敗続きで、アレクシスの財政は逼迫し始めていた。

「リリアナ、君の予言は最近、当たらぬではないか!『アストラ』の予言のおかげで儲けた商人がいるというのに、私の領地は損害ばかりだ!一体どうなっているんだ!」
「そ、そんなことありませんわ!星は気まぐれなのです!きっと次は当たりますから!『アストラ』なんて、まぐれ当たりに決まってます!」

 二人の関係は、目に見えて急速に冷え込んでいく。アレクシスの部屋からは、夜な夜な怒鳴り声が聞こえるようになった。

 嫉妬と焦りから、リリアナは『アストラ』に対抗しようと、さらに大げさで根拠のない幸運の予言を乱発した。「王都に金色の雨が降る」「王家の庭に伝説の花が咲く」など、その内容は荒唐無稽を極めた。
 当然、そんなことは何一つ起こらない。彼女の行動は、自らの評価を地に落とし、人々からの嘲笑と侮蔑を買うだけの結果となった。かつて彼女をチヤホヤしていた令嬢たちも、今では距離を置いている。

(リリアナ。星は、あなたの虚栄心を満たすための道具じゃないのよ。あなたは星を見ていない。自分の欲望を見ているだけ)

 エメラルドは辺境の天文台で、最新の望遠鏡を覗き込みながら、静かに次の星の動きを見据えていた。復讐の舞台は、着々と整いつつあった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

リリー・フラレンシア男爵令嬢について

碧井 汐桜香
恋愛
王太子と出会ったピンク髪の男爵令嬢のお話

毒殺されそうになりました

夜桜
恋愛
 令嬢イリスは毒の入ったお菓子を食べかけていた。  それは妹のルーナが贈ったものだった。  ルーナは、イリスに好きな恋人を奪われ嫌がらせをしていた。婚約破棄させるためだったが、やがて殺意に変わっていたのだ。

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

【短編】男爵令嬢のマネをして「で〜んかっ♡」と侯爵令嬢が婚約者の王子に呼びかけた結果

あまぞらりゅう
恋愛
「で〜んかっ♡」 シャルロッテ侯爵令嬢は婚約者であるエドゥアルト王子をローゼ男爵令嬢に奪われてしまった。 下位貴族に無様に敗北した惨めな彼女が起死回生を賭けて起こした行動は……? ★他サイト様にも投稿しています! ★2022.8.9小説家になろう様にて日間総合1位を頂きました! ありがとうございます!!

公爵令嬢の一度きりの魔法

夜桜
恋愛
 領地を譲渡してくれるという条件で、皇帝アストラと婚約を交わした公爵令嬢・フィセル。しかし、実際に領地へ赴き現場を見て見ればそこはただの荒地だった。  騙されたフィセルは追及するけれど婚約破棄される。  一度だけ魔法が使えるフィセルは、魔法を使って人生最大の選択をする。

王子様の花嫁選抜

ひづき
恋愛
王妃の意向で花嫁の選抜会を開くことになった。 花嫁候補の一人に選ばれた他国の王女フェリシアは、王太子を見て一年前の邂逅を思い出す。 花嫁に選ばれたくないな、と、フェリシアは思った。

ずっと嫌なことと迷惑なことしかしてこなかった父とは縁を切りますね。~後は一人寂しく生きてください~

四季
恋愛
ずっと嫌なことと迷惑なことしかしてこなかった父とは縁を切りますね。

婚約破棄の慰謝料に集らないでください《完結》

アーエル
恋愛
相手有責の婚約破棄。 そうなると慰謝料に集るハイエナが現れます。 それに特化した法律があることくらいご存知ですよね? 他社でも同時公開

処理中です...