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嘘の暴露で追放されたので、暴露配信で全世界に晒し上げます(全8話)
1話
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きらびやかなシャンデリアが放つ無数の光が、宝石をちりばめた貴婦人たちのドレスに反射して、目も眩むほどに輝いている。王宮で最も広いこの大広間は、今夜、王国の権力者たちで埋め尽くされていた。
私は婚約者であるアレクシス・フォン・シュヴァルツェンベルク公爵子息の隣に、完璧な淑女の笑みを唇に貼りつけて立っていた。しかし、一歩後ろに控えるように立つ私に、彼が向ける視線は冬の湖面のように氷点下の冷たさをたたえている。
(また、あの目で見ている……まるで価値のない置物でも見るような、冷たい目)
私が彼の隣に立つようになってから、もう何度この視線に耐えてきただろうか。政略結婚とはいえ、いつかは心を通わせられる日が来るのではないか。そんな淡い期待を抱いていた自分が、今となってはひどく愚かに思える。彼が私に望むのは、シュヴァルツェンベルク公爵家の威光にふさわしい、感情のない人形であることだけ。
和やかな夜会の空気を切り裂いたのは、絹を引き裂くような悲鳴に近い高い声だった。
「ひどいわ……! リリアナ様、どうしてこんなことを……!」
人々の輪の中から、まるで柳のようにしなやかな体でよろめき出てきたのは、レゼ・ロセッティ男爵令嬢。アレクシス様が最近ことさら目をかけている、儚げな美貌の令嬢だ。彼女は私の目の前でくずおれると、震える手で自身の純白のドレスの袖をまくり上げ、皆に見せた。そこには、痛々しい紫色の痣が、彼女の白い肌の上でくっきりと浮かんでいる。
(あの痣……私がつけたですって? いつ? どこで?)
ありえない。私は彼女に触れたことすらないのだ。頭が混乱する。周囲の貴族たちが息を呑み、可憐なレゼ嬢に同情の眼差しを、そして私に刃物のような疑惑の目を向けるのが肌で感じられた。ざわめきが波のように広がっていく。「まさか、ヴァイスフェルト侯爵令嬢が……」「嫉妬かしら」「なんて恐ろしい……」そんな囁き声が、私の耳に突き刺さる。
その瞬間を、まるで舞台の幕が上がるのを待っていたかのように、アレクシス様が私を突き放した。
「リリアナ! 君という女は!」
彼の怒声がホールに響き渡る。私は一歩よろめき、信じられない思いで彼を見上げた。私を守ってくれるはずの婚約者が、誰よりも先に私を断罪している。
「君のような嫉妬深く陰湿な女は、我がシュヴァルツェンベルク公爵家にふさわしくない! リリアナ・フォン・ヴァイスフェルト! 今この場をもって、君との婚約を破棄する!」
大声で放たれた宣言に、頭が真っ白になる。婚約破棄。その言葉が、まるで遠い国の出来事のように聞こえた。私が何かを言おうと口を開くより先に、レゼ嬢がアレクシス様の腕にすがりついて、か細い声で泣きじゃくる。
「アレクシス様……! 私のせいで、申し訳ありません……! 私が、リリアナ様のお気に障るようなことをしてしまったばかりに……」
「君は悪くない、レゼ。君の優しさが、この女の醜い嫉妬心を煽っただけだ。悪いのは全て、この女だ」
優しい声で彼女を慰めるアレクシス様。その光景に、私の心は急速に冷えていくのを感じた。ああ、そう。これが、あなたの望んだ筋書きだったのですね。私という邪魔者を排除し、彼女を隣に置くための、あまりにも稚拙で、しかし効果的な茶番劇。
弁明しようとする私の声は、誰も聞いていない非難の渦に飲み込まれて消える。周囲の視線が、針のように、石のように、私に突き刺さる。私はただ、屈辱と絶望の中で立ち尽くすことしかできず、やがて衛兵に無造作に腕を掴まれ、夢のような夜会からゴミのように追い出されたのだった。
私は婚約者であるアレクシス・フォン・シュヴァルツェンベルク公爵子息の隣に、完璧な淑女の笑みを唇に貼りつけて立っていた。しかし、一歩後ろに控えるように立つ私に、彼が向ける視線は冬の湖面のように氷点下の冷たさをたたえている。
(また、あの目で見ている……まるで価値のない置物でも見るような、冷たい目)
私が彼の隣に立つようになってから、もう何度この視線に耐えてきただろうか。政略結婚とはいえ、いつかは心を通わせられる日が来るのではないか。そんな淡い期待を抱いていた自分が、今となってはひどく愚かに思える。彼が私に望むのは、シュヴァルツェンベルク公爵家の威光にふさわしい、感情のない人形であることだけ。
和やかな夜会の空気を切り裂いたのは、絹を引き裂くような悲鳴に近い高い声だった。
「ひどいわ……! リリアナ様、どうしてこんなことを……!」
人々の輪の中から、まるで柳のようにしなやかな体でよろめき出てきたのは、レゼ・ロセッティ男爵令嬢。アレクシス様が最近ことさら目をかけている、儚げな美貌の令嬢だ。彼女は私の目の前でくずおれると、震える手で自身の純白のドレスの袖をまくり上げ、皆に見せた。そこには、痛々しい紫色の痣が、彼女の白い肌の上でくっきりと浮かんでいる。
(あの痣……私がつけたですって? いつ? どこで?)
ありえない。私は彼女に触れたことすらないのだ。頭が混乱する。周囲の貴族たちが息を呑み、可憐なレゼ嬢に同情の眼差しを、そして私に刃物のような疑惑の目を向けるのが肌で感じられた。ざわめきが波のように広がっていく。「まさか、ヴァイスフェルト侯爵令嬢が……」「嫉妬かしら」「なんて恐ろしい……」そんな囁き声が、私の耳に突き刺さる。
その瞬間を、まるで舞台の幕が上がるのを待っていたかのように、アレクシス様が私を突き放した。
「リリアナ! 君という女は!」
彼の怒声がホールに響き渡る。私は一歩よろめき、信じられない思いで彼を見上げた。私を守ってくれるはずの婚約者が、誰よりも先に私を断罪している。
「君のような嫉妬深く陰湿な女は、我がシュヴァルツェンベルク公爵家にふさわしくない! リリアナ・フォン・ヴァイスフェルト! 今この場をもって、君との婚約を破棄する!」
大声で放たれた宣言に、頭が真っ白になる。婚約破棄。その言葉が、まるで遠い国の出来事のように聞こえた。私が何かを言おうと口を開くより先に、レゼ嬢がアレクシス様の腕にすがりついて、か細い声で泣きじゃくる。
「アレクシス様……! 私のせいで、申し訳ありません……! 私が、リリアナ様のお気に障るようなことをしてしまったばかりに……」
「君は悪くない、レゼ。君の優しさが、この女の醜い嫉妬心を煽っただけだ。悪いのは全て、この女だ」
優しい声で彼女を慰めるアレクシス様。その光景に、私の心は急速に冷えていくのを感じた。ああ、そう。これが、あなたの望んだ筋書きだったのですね。私という邪魔者を排除し、彼女を隣に置くための、あまりにも稚拙で、しかし効果的な茶番劇。
弁明しようとする私の声は、誰も聞いていない非難の渦に飲み込まれて消える。周囲の視線が、針のように、石のように、私に突き刺さる。私はただ、屈辱と絶望の中で立ち尽くすことしかできず、やがて衛兵に無造作に腕を掴まれ、夢のような夜会からゴミのように追い出されたのだった。
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