牧師に飼われた悪魔様

リナ(腐男子くん準備中)

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第十三章「ヤンデレ勇者の魔王退治」

イムサ村の勇者

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 ――翌日――


「ふあーあ」
「…」

 日課である教会の掃除を終えキッチンに向かうとザクが座っていた。髪が跳ねまくってて完全に寝起き状態だった。時々眠さを紛らわせるために欠伸してる。

「ふあぁ~あ」
「ここで油売ってていいのかよ」
「んあ~?」
「ドラゴン退治」
「あ?あーなんかそんな話もあったな…ふあぁ」

 今思い出したようだ。全くやる気のないザクに呆れつつさっさと昼ご飯の準備をした。皿の準備はザクに任せてある。後は盛り付けるだけだ。

「そっちの皿かして」
「んー」
「あ。そういえば俺これからエスの家いくから」
「はあっ?!」
「普通に顔見に行くだけだって。最近全然会えてない…というか見かけてもないんだ。だから生存確認のつもりで行ってくる」
「そうか…」

 生存確認と言われてもやはり納得は行かないようだ。難しそうな顔をして自分の手元を睨んでる。そこに昼ごはんであるフィッシュサンドを置いた。

「お、俺様もついて…」
「お前はやることあるだろ」
「ぐぬぬ…」
「こっちは大丈夫だから。あんな勇者に負けるなよ」
「わーってるよ…」

 昼御飯をつつきながら食べようとしない。文句を言いたいが耐えてる感じ、だろうか。前みたいに無理矢理ついてくる感じではないから、信じてくれてるのかもしれない。

「ザク…」
「よし」

 急にザクは顔を上げ、フィッシュサンドを平らげていく。食べ終えたと思えば勢いよく立ち上がり裏口に向かった。

「よっしゃ!さっさと終わせてルトを迎えに行く!」
「ああ、いってらっしゃい」

 エプロンで手を拭きながら裏口のところまで見送った。

「あ。」

 一度振り返ったザクは何を思ったのかまた俺の所まで戻ってきてしまう。

「ザク?どうしたんだ、忘れ物?」
「おう、忘れてた」

 そう言って顔を近づけてくる。

 ちゅっ

 触れるだけの優しいキスだった。俺にキスしたあと満足げに頷いている。

「じゃ、行ってくるわ」
「…っ~~ばかざく!」

 ザクは上機嫌な様子で坂を下りていった。それを見送ってから俺も自分の準備に取り掛かる。

「さて、エスのやつ…元気にしてるかな」

 エプロンをたたみながらエスのことを思い返してみた。よくよく考えたらあの吸血鬼&狼男パーティ以来ちゃんとは会ってない。

 =にいに~まだ~?=

 リリが庭の木から声をかけてくる。エスに会いに行こうと思ったのもリリがきっかけだった。

 =エスにいに会いたいの~♪これ、みせるの!=

 昨日リリは綺麗な花々を持って帰ってきた。エスに会いたいのは俺だけじゃない。リリだって顔が見たいはず。会った後の会話はちょっと気まずいがずっとこのままでもいられない。

「リリ、花もったか?」
 =うん!ちょっとかじっちゃったけどだいじょうぶ~!=
「はは、かじっちゃダメだろ」
 =えへへ~♪=

 リリが黒と黄色の柄の花を持ってきた。黒と黄色、エスを思い出させる色合いだ。

 =これ、エスにいにあげるの=
「ん、きっと喜ぶよ」

 牧師服に着替えて教会の戸締りをし終える。胸ポケットに小さめの聖書を差し込んで、リリを肩に止まらせた。

「じゃ、行こう」
 =うん!=


 ***


「聞いたか?最近この街に勇者が来てるらしいぞ」
「え?今の時代に勇者とか何考えてるんだ」
「でも強盗とか痴漢現場に赤マントの男が乱入して助けてくれるらしいぜ。まあ、返り討ちにされたりもしてるから強いのかどうかはわかんねーけど」
「ええ~なんか冴えないな・・」

 エスのアパートに向かう道中で街の人たちがそんなことを話していたのを耳にした。きっと昨日の赤マント勇者もどきの話だろう。

(あいつって本当に自分のこと、勇者と思ってるのかな)

 ただの頭のおかしい奴なのか本当に信じ込んでるのか。そんな事を考えながら大通りから少し細い道に曲がる。

 ドン

 出会い頭に肩をぶつかってしまう。考えごとをしてたこともあり気づくのが遅れてしまった。

「すみません」
「おいテメエどこに目があんだ??シマの兄貴にぶつかってくるたあ!!!!」
「ええっと・・・」

 なんか偉そうな男と取り巻きの男に囲まれた。定番すぎるほど定番の絡み方に戸惑う。ちょっともう慣れつつあるぞ、この流れも。

「はあ・・・」

 ついため息をこぼしてしまったが、馬鹿にしたと勘違いした男たちが掴みかかってくる。

「てんめええ!なんだその態度はあ!」
「あんま舐めてっとぶっとばすぞ!」
「すみません、えっと、前見てませんでした」

 これ以上絡まれてもどうしようもない。今日はザクもいないし。というか牧師姿で喧嘩なんてできるわけない。普通に謝って見逃してもらおう。この感じじゃなかなか許してもらえないだろうが。謝りつつ襟元を掴む腕を解こうと試みた・・・けどまあもちろん無駄だった。上を向き目で訴えてみる。

「なんだその目!反抗的だな!!」
「…よく言われる」
「だろうよ!!って、そうじゃねー!なんで開き直ってんだよー!」
「埒があかねえ!兄貴!こいつどうしやしょう!!」
「・・・・」

 シマとか呼ばれた男がこっちを向いた。顔には黒い影がかかってよく表情は見えないがめちゃくちゃ体がでかくて威圧感があった。

 (身長200ぐらいあるんじゃないのかこれ)

 本当に大きかった。縦にも横にも。太ってるんじゃなくて筋肉がすごいのだ。胸板とか盛り上がりすぎてて同じ人間とは思えない。

(クマみたいだ・・・)

 シマが俺をじーっと眺めて、それからその大きな手を前に掲げてきた。

「!!!」

 殴られるのかと思い咄嗟に目を閉じる。こんな拳で殴られたらひとたまりもないが、せめて骨が折れませんように!そう願って衝撃を待った。

 なでなで

「・・・・っ・・・・・え、へ?」

 大きくてゴツゴツした手が俺の頭を優しく撫でてくる。その撫で方も今までされたことがないぐらい優しいものだった。まるで小動物でも撫でるような優しい手つきに面食らう俺と取り巻きたち。

「えっと…」
「驚かせて、すま、ない。俺、大きい、から」

 そう言って俺を掴みあげる男の手を解いてくれた。

(あれ?怒ってな…い?)

 顔を上げると、もじもじしてるシマと目が合う。一秒もせずにすぐに目をそらされてしまった。

(なんだこの人・・・怖い人かと思ったら、照れ屋なだけ・・・?)

「あのー」
「俺が、大きいから、ぶつかった」
「いや俺の方こそすみません。考え事してたから…今後は気を付けます」
「い、いや、いい、んだ。お互い、気を付け、よう」

 手をブンブンと振ってくる。顔はとっくに真っ赤だった。よかった、怒ってないみたいだ。体が大きいだけで中身はとても優しいようだ。そう安心した時だった。

「そこまでだ!悪党ども!」

 よく通る男の声。

(この声は…)

 ゆっくりと振り返ると俺たちから5m程離れたところに赤マントの男が立っていた。見たことのある顔と声。

「イムサ村から来た勇気とは俺の事!」

 そしてポーズを決める。なんかよくわかんないけど剣を天に向けて、仁王立ちしていた。

 (何やってんだあいつ、こんな街中で剣なんか抜いて…)

 誰もが白い目を向ける環境に赤マントは戸惑うこともなく突っ込んできた。もちろん抜き身の剣を突きつけて。

「ちょっ、落ち着けばか勇者!この人は別に悪い人じゃな」
「姫?!こんなところで会うとは奇跡…いや俺たちが会うことは運命なのだな!結婚しよう!」
「そんな馬鹿な事言ってないでとりあえず剣をしまえっ!」
「それはできない!悪党を倒さねば!」

 剣をシマたちに向けた。俺はとっさに庇うように前に出たが、ひょいとどけられてしまう。

「覚悟!!悪党め!!」

 そして赤マントはシマたちに剣を振り上げた。

 ブン!!

「シマ!!」
「兄貴いいい!!」

 ズガン!

「っな??!」
「っ!!」

 重々しい音が辺りに響く。シマがどこから出したのかわからない大きな斧で剣を受け止めていた。

「俺は、いい。でも…仲間は、切らせ、ない」

 モジモジしてても斧を持つ手は微動だにしない。普通に格好いい。シマはそのまま斧を振り上げて、一気に剣をはじき飛ばした。体ごと重心を後ろに持って行かれ無理やり間合いを取らされる赤マント。体勢を整えながらこっちを睨んでくる。

「くそっこの悪党、まさかの手練か…?しかしここで引けば姫が危ない!」

 また剣を振ろうとするものだから慌てて止めに入った。

「おい!自称勇者!落ち着けってば!」
「じっ…俺の名はアルスだ、姫」
「はいはい、アルスな!いいから落ち着けよ!この人は悪い人じゃないから!」
「しかし…大人数で掴みかかられていただろう?」
「そうだけど、何もされてないし俺も気にしてないから剣をおろしてくれ。無害な人を襲うのが勇者じゃないだろ?」
「…ふむ」

 アルスが剣を構えながら俺とシマを交互に見た。そして

 カチン

 剣をゆっくり腰の鞘にしまった。それを見てホッと息を吐く。険悪なムードか解けたことを肌で感じた。よかった、なんとか収まってくれて。後ろに立つシマも斧をしまって俺たちの方に近づいてきた。

「姫の言葉に免じて今回は見逃すとしよう」
「ありが、とう。疑わせる、ような、事を、して、すまない」
「ふんっ」
「いや、お前もちゃんと謝れ!アルス!」
「なぜこの俺が?!勇者だぞ!」

 それがさも当たり前のようにいう勇者もどきアルス。

「あのなあ、勇者でも悪い事したら謝る、常識だろ」
「な…そ、そうなのか?」
「はあ?当たり間だろ。ほら、俺も一緒に謝るから。シマさん、アルスが失礼なことしてすみません」
「す…すまな、すみませんでした」
「いい、気にして、ない」

 シマとそれを囲む男たちも頷いてくれた。取り巻きは「兄貴がそう言うなら」という感じだったが。シマに「いつでも、いい、顔を、出して欲し、い」とシマがやってる武器屋の住所を教えてもらい今度会いにいくと約束する。そうしてシマたちは去っていった。

「ふう…どうなるかと思ったけど平和的に終わってよかった」
「姫」
「なんだよ。あと俺、姫じゃなくてルトだからな」
「…ルト、これから食事しないか?」

 突然の申し出に戸惑ったが、答えは一つ。

「やめとく。俺食べたばかりだし」
「なっ」

 ザクと一緒にフィッシュサンド食べたし、何よりアルスと食事っていうのはちょっと躊躇いがある。断られるとは思ってなかったのか、動揺しまくりのアルス。

「どうして…いや、あの男のせいか??」

 あの男とはザクのことだろうか。

 (違わないような違うような)

 ま、でもほかに理由も見当たらないし頷いておく。アルスはガーンとショックを受けていた。

(こいつ外見が大人びて見えるだけで実は年下かも?やること言うこと幼稚だし)

「なんて男だ。束縛してまでルトを得ようとするのか…悪魔のような嫉妬深い男だ」
「あー…いや、えーっと」

 悪魔のようなというか悪魔そのものなんですけどね。とは言えず戸惑っているとアルスが小さく頷いてきた。

「わかった、今回は引こう」
「え?」
「しつこくしてルトに嫌われても困るからな」
「そっか。…じゃあ、代わりにこれ」
「?」

 エスのためにと作ったサンドを包みごと渡した。シマたちとの一件でとっくに昼の時間は過ぎていた。この時間だともうエスは何か食べてしまっただろう。

(俺が行くって伝えてないしな)

 今日行くということを伝えるのは、なんだかできなかった。電話しようと何度も試みたのに毎回出来ず終いで。やっぱりどこか自分の中ではまだエスへの気持ちが整理できてないんだと思う。

「これは何だ?」
「サンドイッチ。さっき作ったやつで毒は入ってないから」
「くれるのか?あ、ありがとう…!」

 なんだ、思ったより小さい反応だな、と思ったが前に立つアルスの顔が耳まで真っ赤になっている事に気づいた。

(えっ何その反応・・・っ)

 サンドを胸の前で持ち、じーっと眺めるアルス。奴らしくない反応に俺まで赤くなってしまう。

「そ、そんなに嬉しかったのかよ」
「いっいや…実は、誰かに物をもらうのは初めてで嬉しくてな」
「ええ?もらったことないのか??」
「あ、いやなんでもない!忘れてくれ!では勇者業が忙しいからそろそろ失礼する!」
「そうか。じゃあな」

 手を振りながら大通りの方に走り去るアルス。その背を眺めながら俺は胸に残る疑問を口にした。

「ただの頭のおかしい奴かと思ったけど…違うのかな」

 “誰かに物をもらうのは初めてで、嬉しくて”

 先程の言葉が地味に耳に残ってる。イムサ村だったか。村出身と言っていたし苦労しているのだろうか。ちょっとだけ考えて、すぐに頭を切り替えた。

(いや、今はそんなこと考えても仕方ない)

 俺はエスのところに行かなきゃいけないんだ。重くなる足を引っ張りエスのアパートに向けて進む。

 すたすた

 歩きながらぐっと噛み締めた。行きたいような行きたくないような。顔が見たいような見たくないような。複雑な気持ちだった。

 (エスと会ったらどんな顔で話せばいいんだ…)

 わからない。わからないがこの機を逃せばまた忙しくて会えなくなるかもしれない。ちゃんと会って話さないと。

 (あの時の言葉の返事もできてないし…)




 エスのアパートに到着した。扉の前に移動してしばらく待つ。10分ほど経過したがノックできずにいた。ここまできて戸惑ってしまう自分に嫌気がさす。

「…っ」
 =はいらないのー?=

 ふと、ポケットから顔を出したリリが不思議そうな顔で覗き込んでくる。俺は慌てて取り繕った。

「あ、いや、はいる、はいるよ」

 そう言ってドアノブを掴んだ。勢いでそのまま一気に扉を開ける。
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