魔法学院の階級外魔術師

浅葱 繚

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第11章 クラス対抗魔法球技戦編

開幕

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「ただいまより、今年度第1回目となる学年別クラス対抗戦『魔法球技戦』を開幕します。クラス対抗戦は1週間かけて行われますので、皆さん怪我のないように、またルールに則って正々堂々戦いましょう」

生徒会長のフリージア・ウィステリアがそうアナウンスする。会長の声は、学院のちょうど中央に位置するひときわ大きな『音の魔法具』によって拡声され、学院内全体に響き渡った。

学年別クラス対抗戦や2学期以降に行われる学年混合対抗戦などは、ある種のお祭り騒ぎだ。1週間勉強せずに過ごせて、なおかつ自分のクラスの試合がない時は、学院の中を自由に動き回って他の学年の試合を観戦することができる。ちょうど学期末テストが終わった解放感と相まって、学院内は大盛り上がりとなる。

対戦はトーナメント形式で行われ、対戦相手は事前にくじ引きによって決められ、出場選手も事前に申請しているのですでに公表されていた。ディナカレア魔法学院は各学年5クラスなので、1つのゲームにつき2,3回勝てば優勝ということになる。ゲームは3つあるので、多いチームだと1週間で9回ほど戦うこととなる。
1日目と2日目は、一番大きな大闘技場以外の会場も用いて同時に試合を進めていき、3日目以降から行われる決勝戦に関しては、全員が試合を観戦できるように大闘技場で行うという工夫もされている。
そういった日程の調整なども全て行っているのが生徒会ギルドカウンサルである。

「いよいよ始まったわね~」
「スピーチお疲れ様です。そうですね」
スピーチが終わり戻ってきたフリージアに話しかけられて、サラはそう答えた。

「会長は今日は試合あるんですか?」
「私は今日はないわ。今回はストライクボールだけだし、準決勝くらいから出ることになってるし。サリーさんは?」
「私は午後からです。今回はうちの委員長が全種目制覇を狙ってるとかで、色々駆り出されてるので」
「あぁ、フラニーさんね。まぁ2年生はちょっとレベルが高すぎるから、いかにサリーさんやフラニーさんでも優勝するのは容易ではないわよね。ルーシィさんの試合は?」
「午後からストライクボールとバトルボールの初戦があるみたいです。明日の午前がエリアボールの初戦ですね」
「被ってない?見れそう?」
「えぇ、大丈夫です。ですが、ルーシィは補欠みたいなので、出ないと思います」
「でもルーシィさんのことだから出ないとしても作戦立案くらいはしてるんじゃないかしら?」
「そうかも知れませんね」
「午前中は生徒会ギルドカウンサルのマリンさんが出てるストライクボールがあるわ。行ってみない?ルーシィさんも見に来てるかも知れないわよ」
「そうですね」


マリン・デレクタブルが出場しているストライクボールの試合は、会場の1つストライクボールギルドの練習場で行われていた。

魔法球技の1つストライクボールは、会場の各所に設置された大小様々な20の的に魔法を当てて倒し、その倒した数によって勝敗を決めるゲームである。選手は決められたエリアから出てはならないので、身体強化系などの物理的な方法で的を倒すことはできない。近い的や小さい的の方がポイントが高い。一番近くて大きい的で1ポイント、一番遠くて小さな的は10ポイントである。どの魔法でどの的を狙ってくかが勝敗を決する、魔法の速さと正確さが重要になる競技である。
試合時間は10分間と短い。試合時間が過ぎる前に全ての的が倒された場合にも終了となる。

「ルーシィ!」
「あ、サリー」
サラはルーシッドを会場でいち早く見つけ、駆け寄って抱きしめる。

「サリーは試合午後からだっけ?午前中は仕事ないの?」
「うん、そうよ~。ねぇ、試合見に来れる?」
「いやー、ちょっとうちのクラスの試合の合間で無理かな。色々調整とかあるし。まぁサリーなら第一試合は問題ないでしょ?」
「えぇ、そうだけど~」

「なんか…私と話してる時と態度が違い過ぎない?」
そのやり取りを見てフリージアが少し困ったような顔で笑って言った。

「え、そ…そうですか?」
「なんか、サリーさん、私に対してちょっと他人行儀すぎると思うわ。お姉さん、悲しいわ」
フリージアはハンカチで涙をふく真似をする。
「え、いやいや…そんなことはないですよ?だってほら、会長は先輩ですし、ルーシィはほら、姉妹みたいなものですから?」
「じゃあ、私の事も実の姉だと思ってくれれば…」
「いえ、私実際の姉がいるので、それはちょっと…」
「うぅ~……やっぱり冷たいわ…」
がっくりと肩を落とすフリージアだった。


試合開始の合図が鳴り、選手たちが一斉に魔法の詠唱を開始する。魔法球技において、どの試合にも共通の光景である。基本的に決闘でも、魔法球技でもそれ以外の競技でも、試合開始と同時に魔法詠唱を開始するルールになっている。つまり、この魔法詠唱にかかる時間が短ければ短いほど良い。
しかし、魔法詠唱の長さは、その人の技術による部分も多少はあるが、基本的にはその人の魔力生成速度ジェネレイトスピードと魔法の階位によって決まってくる。詠唱する速度が速くても、魔力生成速度ジェネレイトスピードが低ければ、妖精に与えるお菓子を作るための食材としての魔力を生成するのに時間がかかるため、魔法発動は遅くなる。階位が上がれば上がるほど食材は増える。自分に合った階位の魔法を選択しなければいけないのである。

一番早く詠唱を完了したのはやはりマリンだった。マリンの右手には生成した水で形成された弓が浮かび上がる。そして、その弓に左手を添えて、弓を弾き絞るようなポーズをすると、そこに水の矢が形成される。
マリンが最も得意とする魔法、中距離攻撃魔法『ウォーターアロー』である。対ルビア戦でも使用していた魔法だ。この魔法最大の特徴は『操作魔法オペレイトマジック』を用いた攻撃魔法であるというところだ。詠唱によって一度弓を生成してしまえば、後は実質無詠唱で矢を打ち続けることが出来る。
このストライクボールにおいて最も使用する魔法使いが多い魔法だ。
マリンはその水の矢で、一番近い的から的確に打ち抜いた。

「大技狙いせず、着実にポイントを稼ぐ。最もオーソドックスな戦法ね」
ルーシッド達と共に試合を観戦していたフリージアはそう分析して言った。
「マリンさんなら個人戦でも十分活躍できるかも知れないわね」

ちなみにこの学院内で行われる対抗戦などは、魔法学院交流試合の時の代表団を決定する判断材料ともなる、いわゆる代表選考会の意味合いもあるため、クラスとして勝てなくても、活躍して自分の実力を示そうとする生徒たちは多い。

「こう見てると、防御魔法ディフェンスマジックを使う人はいないんですね?団体戦で5人もいるのに、全員が攻撃してますね」
全員が詠唱を終了し、魔法を発動したのを見てルーシッドがそう言った。

「まぁ、結局のところ、できるだけ早く相手より多くの的を倒せば勝ちだからね。防御魔法ディフェンスマジックに人員を削るよりも、全員で攻撃した方が確実じゃないかしら?」
「それに、攻撃魔法オフェンスマジックより防御魔法ディフェンスマジックの方が難しいということも理由の1つね。相手がどの的に攻撃するかわからないし、味方の攻撃を邪魔してしまう可能性もあるし」
「…なるほど」
フリージアとサラがそう答えると、ルーシッドはそう一言だけ答えた。

試合は着実に点を稼いだマリンの4クラスの勝利で終わった。

「これで、私たちが午後の試合で勝って、明日の試合でも勝てば、決勝で当たるね。マリンは入試の時の借りを返そうと躍起になってるだろうね」
ルーシッドが一緒に試合を観戦していたルビアにそう話しかけた。

「……え?今のメンバーの中に私の知り合いなんていた?」
「………それ、マリンが聞いてたらブチ切れると思うよ」

とぼけているのか、本当に全く覚えていないのか、どちらにしろマリンのことなど全く眼中になさそうなルビアを見て、苦笑いをするルーシッドだった。
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